「あ、いたいた。やっぱ、ここだ。何やってんすか、こんな日に」
 聞こえてきた声にスティーブンはその目を見開いていた。たいそう間抜けな顔をしている自覚がありながらすぐに戻すことができない。今日はもう会わないだろうと思っていた男が日付も変わった今己がいるのに言うのも何でがこんなところに来たことが信じられないからだった。
 どうしてなんて言葉がでていく。あんたがここにいるからっしょって突然やってきた来訪者、ザップは唇を尖らせて答えた。不満げな顔。なんで仕事なんてしてんすかってどうしようもないことで怒られる。
「終わらないんだから仕方ないだろう」
「でも今日オレちゃんの誕生日っすよ。仕事なんて切り上げてお祝いしてくれてもいいと思うんすけど」
「プレゼントならやったろ」
「貰ったすけど」
「後お前お祝いされてくるって出掛けてったじゃないか」
 しかも女のところに。
 一応付き合っているはずだが、女関係を全く改める様子がないのはまあいい。思うところがないわけでもないが、こいつの性分なんだと思ってしまえば受け止めないわけにもいけない。懐が小さい自覚はあるもののそのせいで失うなんて真っ平ごめんだから。だから愛人ちゃん達が祝ってくれんだって鼻の下伸ばして笑っていたザップをスティーブンは止めることもできなかった。
 まずはジェシーのところ、そん次はと次々と女の名前をあげて間にお、そだ、陰毛のとこにもよんねえとなと後なんて知人の男の名前も数人あげ、プレゼント巻き上げてやると楽しそうにしながら出掛けていくのをただ見送った。
 誕生日なのだからとディナーに誘おうと予約していた店をキャンセルし、あの様子では今日は一日あるき回って女の家にでも泊まるんだろうな。はっは。僕のところにはクラウスやツェッドから巻き上げるついでよるだけかなんてやさぐれつつ折角のおめでたい日、愚痴愚痴言うのもと何も、何も言わなかったのだ。
 そしてやさぐれた気持ちのままどうせ来ないのだろうとスティーブンは仕事していくと決めたというのに、まさかこんな時間になってくるなんて。信じられない気持ちで会話をしながら夢の中じゃないのか、なんてそんなことまで考えてしまっていた。気付かれないよう机の下で足をひねってみたが思いっきり痛かったので夢ではなかった。
 呆然と見つめる前でそうなんすけどと男は頬を膨らましている。どう見てもすねた顔だが、その顔をする権利があるのは己の方だとスティーブンは言いたくなってしまう。言わないけれど。
「でもやっぱ特別な日の最後はあんたんちで迎えたいじゃないですか。だからちょっと時間かかったけどみんなに祝ってもらってからあんたんち行ったのにあんたいないから迎えに来たんですよ。もう時間過ぎちゃいましたけど
 あー、もうこんなんならパーティーしてきてもらえばよかったす。あんたんちで美味しいもんたくさん食べれると思ったから腹もすかせてたのに」
 格好つけのスティーブンに聞こえてきたのはまさかの言葉で。
 しばらくの間、呆けてしまっていた。聞いてますかなんて拗ねた顔したザップが軽く睨んでくる。こくこくと縦に振られるだけの首。はぁ? はぁああ?なんて言葉が頭の中回っているが、何とか口には出なかった。だけどもスティーブンの体はディスクの上に沈んでいて、手は頭を掻き毟っている。お前はなんて言葉はでてしまった。
 ザップがますますすねた顔をする。
 頭が馬鹿になっていてそんな顔も可愛いなんて、何なんだコイツ全部可愛いだなんて思ってしまうのをなんとか飲み込んで素面の顔を作る。
「悪かった。今からでもやり直させてくれ。まずは改めて」


誕生日おめでとう


 口を尖らしていたザップの顔が満面の笑みに変わった



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