「今度旅行行かないか」
「え、嫌っす」
一分もたたずに終わってしまった会話。その会話を始めたスティーブンははっと凍り付いた眼で目の前のザップを見ていた。血管が見えそうなほどに見開いた眼で見つめるのにその目怖いっすとなんてことなさそうにザップは言っていた。もう用ないですよねと踵を返されそうになんでだと低い声がスティーブンからでていく。
「旅行ぐらいともに言ってくれてもいいだろうが。そりゃあ、この街から出てあまり遠くには連れていてやれないが、でもお前が気に入るところには連れていってやれるぞ。なんならすごく甘やかしてやってもいい。
だからお前もついてこい」
「えーー、滅茶苦茶必死じゃないっすか」
ひくーーっと少々下がり気味になりながらザップは答えていた。スティーブンの目の下のクマは酷い。ディスクの上には見るのも嫌になりそうなぐらい書類が積みあがっていた。パソコンからもぴろんぴろんと何かが送られてきた音が鳴っている。
限界という言葉が書かれているのが見えるようなのにそれだからこそザップは嫌ですと言っていた。
「だってあんたと旅行行く約束しても大体いつもキャンセルになって来たじゃないですか。予約までしてもどっちかが怪我したり、急に仕事がでてきたりって別にあんたが忙しいのはわかってるんでそう言うのは良いんですけど、でも楽しみにしてたのが急にいけなくなったりすんのはやっぱやだし、それなら最初から行く約束立てない方がいいじゃないっすか」
ぐっと唸ってはスティーブンは胸元を抑えた。まるで何かに撃たれたかのような仕草。
心当たりはありすぎるほどあった。なんなら旅行といわず様々な約束で似たような覚えがある。普通に考えて許されざる回数やらかしている。勝ち目はないと思ってしまうのに、まあ、でもとザップはスティーブンを見下ろす。
「約束していくのは嫌っすけど、突発的なものならいつでもいいっすよ。あんたが行けるようになったらいつでも言ってくださいよ。
そしたらあんたが行きたいところどこにでも着いていくんで」
「……旅行今から行こうか」
「嫌、絶対無理っしょ」
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