24h

 はっと声が落ちた。力のない、呆然とした声だ。目を見開いて立ち尽くせば、ギギぃと壊れたブリキの玩具のような音を立てて前に立っていたスティーブンが振り返る。
 穏やかな春風のような笑みをしていた。

 暖かさに包まれそうなものなのに感じるのは底冷えするような冷たさだ。反射的に逃げようとした体は凍りつけられザップは逃げられないことを悟った。


「え、えっと、まさか本気でやるわけじゃないですよね! こんな変なことやるなんてそんなことないすっよね。番頭も俺みたいな屑相手にはたたないしょ!」
 縺れるような早口でザップは叫ぶ。目の前には爽やかな笑顔のスティーブンが迫っていて、凍らされた体はあっという間にベッドの上に押し倒される。もともとザップが居たのがベッドの上なのが悪かった。女に部屋から追い出されてそのへんの路地で寝ていた筈なのに、どこのどいつな仕業なのか気付けば綺麗なベッドの上。ラッキーと思ったのは僅かな間。部屋の中にザップだけでなくもう一人スティーブンがいた事と、そのスティーブンが立ち尽くし見上げていた文字に気付いてしまえば絶望に変わる。
 やだやだと逃げようと暴れるザップを抑え込んでスティーブンは諦めろと告げる
「俺はやる気だ」
「何で!? こんなの冗談でしょ。番頭だってやりたくないでしょ。あんなんいたずらでどこからでもでれますよ。俺とあんたで力合わせりゃすぐですって」
「それがなザップ」
 ぎゃあぎゃあとザップは喚く。足を凍らされながら手足を動かして逃げ出そうと試みる。そんなザップを止めたのは怒鳴るでもない静かな、そりゃあもう静かなスティーブンの声だった。怒りだとか焦りだとかが浮かんでいたらいいのに、スティーブンの瞳はやたらと静かに凪いでいる。
 これをザップはなんて呼ぶか知っている。諦観だ。
「凍らないんだよ」
「へ?」
「壁も扉も凍らせようとしても凍らないんだ。物理攻撃を仕掛けてみてもびくともしやがらない。お前がのんきに寝てる間俺は必死に試したんだ。でも全部無理だった。この部屋の壁や扉は攻撃が何一つ通らないようになっているんだ
 この意味分かるな」
 話す言葉に一瞬怒りが混じったもののすぐになくなっていく。怒るだけ無駄だと思っているのだろう。努めて静かな目がザップを写している。ごくりと唾を飲み込みザップはつまりと口にした。
 唇はやたらと震えていてろくな声じゃなかった。
「セックスするしかねぇってことですか」
 言いながらザップの顔は青褪めている。先程読んでしまった言葉が頭の中駆け巡る。呆然と立ち尽くしていたスティーブンが見上げていた扉の上にド派手な蛍光ピンクの文字で書かれていた言葉。
「な、なんでそんな」
「そんなの俺のほうが聞きたいが、他になんのヒントもない以上、従うしかないだろう。ご丁寧にこんなでかいベッドがあって にはローションにコンドーム、バイブや なんてものもあるんだ。
 やってでる
 お前だってこんな場所にずっと俺と二人で閉じ込められているのは嫌だろう」「そりゃあ、そうすけど」
 大人しくなった抵抗にスティーブンの腕がザップの服を下から上へめくり上げていた。あらわになる肌にスティーブンの手が這う。冷たい手に悲鳴を上げながらザップはせめてもの抵抗に身をよじった。
「俺ちゃんがうえってのは!」
「ん、なにか言ったかな」
 ニコッと効果音の聞こえてきそうなほど爽やかな笑顔。これは誰も逆らってはだめな笑顔だ。うぅと呻きながらもザップはベッドの上大人しくする。いい子だとスティーブンの手がザップの頭を撫でた。
「なんで俺ちゃんじゃ駄目なんですか。スティーブンさんの横暴」
「だってお前入れて腰ふるだけだろ」
「入れて腰振ってりゃいいじゃないすか。セックスなんすからやることなんてそれくらいでしょう」
「ほんと屑だなお前。そんなので二十四時間なんてできないだろ」
「俺ちゃんは若いからできます」
「俺が無理なんだよ」
「じゃあ、どうするってんすか」
 ぐっと唇を噛み締めてスティーブンを見上げるザップ。話している間にもスティーブンの手は褐色の肌を好き勝手に触っていた。冷たかった手が暖かくなっており、今は胸元で遊んでいる。
 ザップの問いにそりゃあまあと言いつつスティーブンの手が胸の中心、小さく尖っている粒に触れていた。ひゃぁだかひぇやだか色気のない声がザップから上がる。
「ゆっくりじっくり触れ合って時間を稼ぐかな。何も入れてだすだけがセックスじゃないからね」
 笑みは爽やかなのにどことなく漏れ出してるの男の色気というやつか。ザップは一瞬呆けたあと顔を歪めていた。
「うへぇ……。何かくそエロ。んっ。てか、そんなところ触んないでくださいよ」「どうして? 気持ちいいだろ」
「何か変なだけっすよ」
 ザップの体がスティーブンのてから逃れようと身をよじる。だがスティーブンはそれを許さず片手で押さえつけ、もう片手は執拗に胸元をイジる。まあ、待ってろよなんて口角をあげた。
「すぐ気持ちよくしてやるからさ。どろどろに蕩けてキモチイイことだけ考えてな」
 ボォッと火がついたようにザップの顔が真っ赤になっていた。反則だろうと叫ぶ声は喘ぎ声に変わる。



「で、なんて」
 二週間事件のことなどすっかり忘れたふりして過ごしていたスティーブンはライブラの自分の自席でにこりと笑い目の前にいるザップを見ていた。耳まで赤くしたザップは気まずそうに俯き、目を泳がせながらだからと言った。
 あの部屋は暇人共の悪戯で出るための条件はそれぞれの部屋で違ったらしい。手を繋ぐだけのような可愛らしいものからあの部屋よりもえげつないものもあったとか。全員でられたかさえ定かではないが、スティーブンとザップが出られたのは確かだ。
 流石に後半戦になると体力がしんどくなってきたがそれでもう24時間スティーブンはザップを抱いたのだから。感想はと言うと悪くなかった。寧ろ良かった。
 最高、と言ってもいいのだろう。
 体の相性も悪くなかったのもあるが、何せスティーブンはこうなる前からどうにかザップとそういう事ができないかと考えていたのだ。ただの好奇心ではあるものの女にだらしなく己の快楽のために生きているような男を抱いて己のものにしてみたいとずっとそう思っていた。
 その願いを叶えてもらえてスティーブンは感謝しているぐらいだった。まあ、そんなこと口にしたりはしないのだが、心のなかではいくらでも言おう。感謝を言いながら目の前の男を見る。
「どうした。そんな固まっていたら分からないだろう。言ってみろよ」
 冷静に少し冷たく言う。動かなかった肩がはねて泳いでいた目がスティーブンを睨んだ。だからと大声で怒鳴る。
「あの日から女抱いても満足できなくなったんすよ!! どうしてくれんすか!!」
 レオナルドでも居たら卒倒しそうな内容を叫んだザップはこれならどうだと肩をわななかせ真っ赤な頬で見てくる。ふーん、そうと笑ってあっさり言えばザップは大きく目を見開いてから、今にも狩りにいきそうな凶暴な顔をしてじゃあと去ろうとした。
 ちょっと待てとスティーブンはその背に呼び掛ける。なんすかと振り向いたザップの目は再び見開かれていた。えっと口が開いてスティーブンを豆鉄砲でも食らったかのような顔で見る。
 スティーブンの手はザップに向かって差し出されていた。
「物足りないんだろう。気持ちよくしてやるから来いよ」

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