緑が生い茂る覇久魔山。結界に囲まれたその山の奥に異能者組織、裏会の総本山がたっていた。何時もは重苦しいような空気が垂れ込め、いやに静かなそこが今は殺気だってざわざわとざわめいていた。
 その奥の部屋に男と女の二人がいた。男の名前は墨村正守。墨村家の長男であり、良守とそして、治守、もう一人の弟をいれた三人の兄でもあった。その正守の目の前にいる女は竜姫。裏会の副 を勤める女だ。
 二人の間の空気はいささか思い。
「……殺気だってますね」
「そりゃあそうだろう。誰かがここを狙ってるって話があるんだ」
 口を開く正守。その言葉に竜姫は軽く返す。口調は軽いが目は鋭かった。何人たりともこの山で好きにはさせないと言う思いが漂い正守の肌を指す。外からも痛いぐらいの気配がいくつもしてくるのにだけどと正守は口を開けた。
「その話なんですが。本当なんですか」
 問うのに竜姫の答えはさあなと言う分かっていないものだった。眉間に皺ができる。
「リーク元は」
「分かってねえ。ある日急にそんな話が流れ出した」
「怪しいのでは」
 さらにもう一つ眉間に皺が増えた。何かの罠では。踊らされているのではと不安が宿るのに、目の前の女は乱雑に頭をかきあげる。はぁと形良い唇からこぼれていく吐息。
「分かってるさ。皆何かあるってな」
 鋭い眼差しが正守を見つめる。
「それでも敵の狙いが読めねえ今乗るしかねえたろう」
 正守の胸のうちざわざわと何かがざわめいている。何か嫌な予感がしていた。



「まさか、こんなに人がいたとはな」
「全員異能力者なんでしょうか」
「さあな」
 身を木の影に隠しながら国木田と敦、鏡花の三人は奥を覗いていた。男を捕まえに山にきたが、その男を見つける前に山のなかにいた大勢のものと戦いになっていた。複数犯だと乱歩から聞いておりこうなることも折り込み済みではあったが、それでも予想以上に敵の数は多かった。
 何十人といるのにしかも全員が普通の人ではないようで良く分からないような力を使ってきていた。なかには人の形すらしていないものもいてこんな異能力あるのかと驚いている。敦も虎になる異能であるものの敵の形はそんなものですまないほどの異形だった。なにがなんだか分からず隠れる三人。荒い息を整えて、三人を探している敵を見据える。
 無線からは大丈夫か。と声が聞こえてくるのに大丈夫ですと答えていた。
 体力は消耗しているもののまだ動ける範囲。無線の向こうも向こうで消耗しているのに弱音ははけなかった。異能の正体が分からないようなやつらばかりだ気を付けろよと無線から聞こえた。


 同じ頃、総本山の中で、正守は自分の部下に指示をしながら胸元をおさえていた。眉間には深い皺が刻まれている。冷静にならなければと思うのに何処か焦るような気持ち。それとは別に侵入者に対する怒りのようなものまで沸き上がる。荒々しい様子で部下たちがでていくのにさらに皺は深くなった。
「なんだ、この違和感は。みんな何処か何時もと違う。俺自身もこれは一体」
 呟きながら正守ははぁと吐息を吐き出す。ずっと感じていた嫌な予感がどんどん強くなっていていた。居ても立っても居られずに正守は座っていた場所から立ち上がった。頭領と彼の部下が呼び掛けるのに俺もでると部屋の外にでていく。



「おい。太宰。お前はどう見る」
「……何が」
 山の中で中原に聞かれるのに太宰は口を尖らせて聞いていた。何処か不機嫌そうな顔。その額にはうっすらと汗を流しており、隣に居る福沢はじっと太宰の様子を観察していた。探している敵の動きを中原は見た。良く分からない術を使ってくるのにいまだに誰一人捕まえられてなかった。
「あの名探偵が言ってた事がほんとうなんじゃないかって気がしてきたんだが気のせいだよな」
「……もしや未知の世界と云うやつですか」
 中原の声はどことなく不安そうだった。いつも自信ありげの彼にしては珍しい。切羽詰まっている様子もあるのに芥川が彼に聞いていた。中原は少ししてから答える。芥川の目が眇められそんなことあり得るのでしょうかと聞いていた。異能以外の力があると言うことですよね。
 芥川が言うのに太宰の目が見開いていた。ひゅっと誰にも気付かれないように小さく息を飲む。
「だがそうじゃねえと説明できねえことだらけだろうが。まあ、もしそうだとしても説明できるかわからねえけどな……」
 がしがしと頭を掻きながら中原は言葉を吐き捨てていた。確かにと芥川が口を閉ざす。福沢も同じような感じで眉間に一つ皺を寄せていた。重苦しい空気のなかで太宰は答えられずにいた。思い出すのは良守のことだった。そして奇妙な形をした有象無象。ぎりりと痛む頭。強く息を吸い込みながら目を閉じる。そんなはずはないと思うのにどう思うと中原は問いかけてくる。芥川も太宰を見ていた。
 口を開けるものの言葉はでてこない。そんなはずはない。思ってはいるのだけど。口が動く。
 そんな時、ぴっと無線の音が聞こえてきた。
「太宰さん、聞こえますか」
 無線から聞こえてきたのは敦の声だった。名を呼ばれた太宰は話そうとしていたのを止め、無線へと声をかける。全員の目が太宰を向いている。中原の目が鋭いのに太宰はこの場を切り抜ける方法を考えだしていた。そんなはずはないと。浮かぶ物事を否定しようと。敦の話がそのきっかけになればいいと思っていたのだが、聞こえてきたのは太宰が求めていたのとは全くの逆。最後の一押しとなるものだった。
「敦君、どうかしたのかい?」
「あやかしまじりって言葉聞いたことありますか?」
 どくりと心臓が音をたてて跳ね上がった。その変化に最初太宰は戸惑う。一体何だ、何の事だと思うのにだけど何処かで聞いたようなそんな気が襲ってくる。
「妖混じり?」
 あやかしまじり?
 口にしたのと同時に耳の奥で別の声が聞こえてきた。その声を太宰は知っている。己の声だ。まだ幼いころの声、その傍にいるのは銀色の獣。
「はい。さっき敵が言っていたのを聞いたんです。あやかしまじりの奴等を呼んでこいってコードネームかなにかでしょうか」
「妖混じり……」
 って?
 敦の話を聞きながら太宰の目の前では幼い頃の記憶が繰り広げられていた。
 妖混じりって言うのは
 語る声が聞こえてくるのに別の方向からも声が聞こえてきた。
「奇妙な言葉なら俺も聞いたぞ」
「え?」
 無線から聞こえる敦ではなく別のものの声。これは国木田君かと思った。所に続いた言葉に太宰は固まる。
「まじないが聞かないなんてと。まじない班を一ヶ所に集めて強いまじないをかけろとも聞こえていたが一体」
 つまらない呪いかけてくれるじゃないか。気を付けな。治守。どうやら今夜の敵はいつもと違うらしい。すみこを呼んであの子に対処してもらおう。
 まじない……。あの人妖じゃないよね
 説明は後さ。それより
 うん。
 霞がかった記憶の中で傍にいた斑尾が太宰の一歩前に出た。治守よりも小さくて力もない彼が守ろうとしてくれていて。札を飛ばす。でもその前に音もなくあの人は降り立っていて……。
「呪い……妖混じり……」
 ぼんやりと呟く二つの言葉。記憶が交互に回っていく。喉が乾いた。舌が干からびたようにも感じる。
 目を充血するまで大きく見開いて固まった太宰。その姿に異様なものを感じて福沢は焦り太宰の手を掴んだ。強くなった手の力にはっと太宰が我に返る。
「太宰さん?」
「聞いたことがあるのか」
 太宰の様子がおかしいことを気付いたのは福沢だけでなく二人もそうで我に返った太宰にそれぞれ声をかけていた。声が返ってこないのに無線からも心配そうな声が幾つか聞こえてきていて。
「……え、いやないよ。そんな言葉」
 二人に答える声は震えていた。ないだなんて嘘だ。ずっと記憶が回り続けている。
 妖混じりってのはね、生まれながらに妖の力を体に宿す人間のことだよ。人間の域を超えた驚異的な身体能力と回復能力を持つんだ。
 呪い師というのよ。治守、呪い師と思われる人が貴方に近付いたら私やお爺ちゃんにすぐ知らせなさい。絶対よ
 二人の声を思い出してでも何故と太宰は混乱していた。何故こんなところでその言葉を聞くのか。太宰たちは異能者を追っていただけで、この山にいるものたちもその異能者の仲間のはずで妖の世界とは無関係な筈なのに。それなのにどうして。考えるのに本当にと誰かが問い掛ける声を聞いた。誰かなんて言ったが問い掛けたのは太宰だ。太宰本人が太宰に問い掛ける。無理矢理に押し込んでいた疑問や違和感が溢れてくる。
 。その山の名前を何処かで聞いたことがなかったか。襲ってくる者達が着ている服、そこに刻まれた紋様を見たことがなかったか。それに仕掛けられた攻撃は異能によるものだったか。異能にしては奇妙なあの技は術者によるものではないのか。一度見たことがあるものもなかったか。事件現場の写真、他のものが見えていないものが見えていなかったか。
 もう誤魔化せなかった。
 違うと思い続けていた事を太宰ははっきりと認識する。この一件には妖が関与している。敵の中には妖がいる。
 ずきりと頭が痛んだ。
 どうして、何で、こいつらは一体なんだ。何のために異能者と手を組んだ。考えるのにいや、違うと太宰は思った。手を組んでなんかいないと。彼らは妖と一緒になって人を襲ったりはしない。妖と彼らは敵対している。
 根拠もないのにそう思うのに太宰はどうしてと思う。そしてどうしてと考えようとするのにまたひとつ記憶を思い出す。
 裏会?
 
 興味ないかい。
 あんまり
 まあ、あんたには関係ないからね。でも知っておいて損はないだろ。
「太宰!!」
 近付いたら駄目だからね。緑の目が太宰を心配そうに見ていた。朧気な光景を打ち消した銀灰に太宰ははっと息を吐き出すと同時こんなところも一緒だったのだとどうでもいいことを考えた。
 吐き出す息が荒い。まるで全力疾走をした後のようで大量の汗が額から流れ落ちていた。
「大丈夫か」
 覗き混んでくる目は何時になく見開かれ薄く涙の膜まで浮かんでいた。心配されている。大丈夫だと言わなければと思うのに言葉は長いこと出ていかなかった。
「おい、どうしたんだよ」
「太宰さん、大丈夫ですか」
 離れた所から言われているように聞こえてくる声。だが実際の距離は近い。
「だいじょ、」
 呂律の回らぬ舌が言葉を話そうとしたが言い切れなかった。ぐらりと体が傾くのに目の前にある福沢の着物にしがみついてしまう。手までも汗で濡れてしまっていることに気付く。激しい動悸に落ち着こうと脈拍をコントロールしようとするがうまくはいかない。思い出した記憶がぐるぐると回っている。それが意味することを考えてしまう。
 目の前がいつの間にか真っ赤な色に染まっていた。
 ヒュヒュと掠れた呼吸が何処からか聞こえる。
「太宰。ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから」
「太宰!」
「太宰さん!」
 聞こえてくる声。己に向けられている声に何故そんなにも慌てた声で呼び掛けられるか分からず余計に混乱は増す。息が酷く苦しかった。
「どうかしたんですか」
「太宰さん!?」
「おい、太宰大丈夫か?」
 無線からも心配するような声がいくつも聞こえてきて。大丈夫。そう言わなければ気にせず目の前の敵を倒せと思うのに手も口も太宰の言うことをきかなかった。腕が動かない。口は震えて開いたまま。
「なにもねえよ。てめぇらは気にせず目の前の敵を倒しやがれ」
 言わなくちゃ、言わなくちゃそう言い聞かせていた時、無線と重なりながら聞こえてきた声。えっと固まるのに会話が続く。
「何もないってでも」
「いいから。青鯖の野郎は大丈夫だから」
「太宰さんのこと頼みました」
 プツリと切れる無線はそれ以上の音をはっさない。
「すまぬな」
「いや……。それよりそいつは」
 大丈夫なのか問い掛けようとした声は途中で途切れた。全てを言い終わる前に太宰は己の唇に慣れた感触が触れるのを感じていた。熱いぬくもり間近にみえる銀灰の色に呼吸が止まる。こんなところでと思うのに殺気が膨れ上がるのを肌で感じびくりと硬直した。一瞬で離れていた唇。僅かに濡れた唇がゆっくり呼吸をしろと伝えてくる。落ち着いて、大丈夫だから。低い声に囁かれるのに自分が過呼吸におちいていたことにようやく太宰は気付いた。意識してゆっくりと呼吸を落ち着かせていく。
 大丈夫。大丈夫だからな。聞こえてくる声。ふぅと吐息が漏れた。
「すみません」
「よい。それ」
「それで何があったんだ。急に変なことになりやがって何か分かりでもしたのか」
 一度後衛に戻ろう。そう言うつもりだった福沢は遮られ言われた言葉に舌打ちを一つ打ってしまっていた。よくもと思うのに支える太宰の体は震えて。呼吸が乱れていくのに福沢は太宰に呼び掛ける。抱き締めた体は驚くほどに冷たくなっていた。
「太宰。落ち着け。大丈夫だから
 すまぬがここからはお前たち二人で先に言ってくれ。私は一度太宰を休ませてくる」
 腕の中の体をぽんぽんと叩き落ち着かせながら、福沢は中原と芥川に声をかけた。他の仲間とも距離が離れている状況で目を離して大丈夫だろうかと不安は強いが太宰をこのままにしておくこともできなかった。そして戦況からみて戦力を削ぐこともできない。
「休ませるって」
「この様子では戦えぬだろう」
 そいつを戦闘から離脱させるってのか。それでいいのかと聞いてくる目に腕の中の太宰を見せる。落ち着いてはいるものの青ざめていてまたいつ先程のようになるかわからなかった。
 無理に見ないようにしているようにも見える。乱歩の言葉を思い出した。福沢にも太宰の様子はそのように見えていてそれが何か分かれば調査も早く進むのではないかと思いながら、その見ないようにしているものを見ないままでと思っていた。太宰の様子からそれが太宰を壊すものになってしまいそうで。それが何か分かってしまったのだろうか。大丈夫だろうか……。聞くことはできない。
 考えるのに太宰が弛く首を振った。
「私は……」
 大丈夫ですからと言おうとしたのだろう声は小さくか細かった。福沢は首を振る。
「無理はしなくともよい。……すまぬがそう言うことだから」
 福沢の目が太宰から離れた。太宰を心配していた目はポートマフィアの二人を見て僅かにしかめられる。中原の方はまあ、良かったのだが、芥川、彼は親の敵でも見るような目で福沢を見ていたのだ。よく襲わなかったと言いたいぐらいだが、よくよく思えば福沢は太宰を抱いている。襲ったとしても攻撃は通らないのだった。もし当たったとしたら太宰に当たる恐れもあったからそれ故に、必死に我慢したのか目は血走っている。
 後は頼むと言いたかった言葉のその鬼気迫る様子に消えてしまった
「分かったが、でも大丈夫か。どこで襲われるかわかんねえぞ」
「僕も一緒に」
 一緒にいた方が安全なのではと口にしていた言葉は芥川の言葉に飲み込まれる。ギラギラとした目が太宰を見るのにダメに決まってんだろと中原から怒声が入っていた。これ以上戦力割けるか。中原が言うのに芥川はぐっと唇を噛み締めた。そういわれるだろうことは彼もわかっていたのだ。それでもと太宰を見やれば太宰が青白い顔をしながらも冷たい目で芥川を見ていた。
 自分の役割を果たしたまえ。低い声が途中で引っ掛かりながらも囁くのに芥川は頷くしかなく。それでも本当に任せて大丈夫なんだろうなと福沢を睨みあげる
「大丈夫だ。心配はいらぬのでお前たちは早く谷崎たちとの合流をたのむ」
「分かった」
「太宰さんに何かあったらただではすまんからな」
「ああ」
 その目に怯むことなく答えた福沢。二人が頷く。
 ギラギラとした目を受けながら福沢は太宰を横抱きに抱えあげた。ふぇと声が上がる
「太宰移動するぞ」
「しゃ、社長」
「いいから。お前は大人しく目をつぶっておけ」
 困惑する声。普通に歩けますよと聞こえてくるのに兎に角今は太宰を人目につかない所に連れていきたい福沢は強い声で打ち消し言うことを聞かせる。だんと強く踏み込み走り出した福沢はあっという間に二人を残して遠くへ行っていた。
 ありゃあ、酔うんじゃねえか。ぼそりと中原が呟けばあの男殺すと物騒な言葉を芥川は吐く。
「そりゃあ後でな。それよりいくぞ。

 彼奴のことは心配すんな。彼奴が殺しても死なねえやつなのは知っていんだろ」
「分かってます」
 はいとすぐには帰ってこなかった返事。横を見ると不機嫌そうな顔をした芥川。その横顔には僅かに心配の色も混じっていた。大丈夫だと言えばやはり不機嫌そうな声が聞こえる。太宰さんと小さく聞こえた声に大丈夫かと思った。不安になりながらも先を行こうとした時、中原は僅かだが確かな違和感を感じた。
「避けろ!」
 鋭い声が矢のように飛ぶ。その声に釣られて芥川が横に飛ぶ。
「結」
だが、その飛んだ先で何らかの力によって囲まれてしまった。空中で不自然に止まる
「芥川!」
「なんだこれは」
 がんがんと芥川の拳が見えない何かを叩く。何もないがそこに壁があるようだと感じた。
「誰だ!」
 声が聞こえた方向を二人が睨み付ける。がさりと木の傍から人の姿が現れる。座った目をした正守である。
「さて、これ以上この場所で暴れるのは止めていただこうか。仲間をつれて出ていてもらおう」
 どすの効いた低い声が二人に言うが、そんなもので引く二人でもなかった。それぞれ正守を睨みながら状況の確認をする。側にいるのは彼だけであった。
「やだって言ったら」
「滅するだけだ」
「滅するだと」
 中原が挑発するように笑う。低い声が答えた。相手の力は何か確かめようとしていた中原の眉が少しだけよった。なにをするつもりだとみる横で芥川は周囲を叩いていた。四方何処からでようとしても何かに阻まれる。四角い何かに囲まれているようだった。
「結。滅」
 正守の手が素早く動き少しはなれた木の一部を結界で囲んでいた。中原たちにはその姿は見えないが、滅と唱えれば粉々に砕け散る木の一部。それだけで充分であった。その光景を見ながらも余裕を崩さずに中原は芥川に声をかける。
「はっ。御披露目どうも。芥川」
「はい。羅生門」
 芥川の黒い外套が蠢き獣となって芥川にとっては見えない壁を切り裂いていた。すぐにその場からはなれ、二人正守から距離をとる。ちっと正守からは舌打ちが落ちていた。
「強度が足りなかったか」
 正守の手が素早く動き、中原を取り囲もうとする。何かされる気づいた二人はすぐさまその場から離れようとしていた。
「結」
 だが一足遅かった。中原の足が何かに捕まる。芥川の羅生門が中原の足元に伸びていた。見えない結界を切り裂いていく。
「サンキュー」
 すぐさま中原はその場を離れまた距離をおく。何処までが相手の射程距離なのか。この距離は近いのか。考えながらじりじりと二人は下がっていく。
「どうやら囲んで囲んだものを潰す力のようですね。固さも自由に変えられるようです」
「ああ、厄介な力だぜ。掴まらないよう気を付けろよ」
「はい」
 逃がすかと正守は中指と人差し指を構える。



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