参
「福沢殿のね、あの腰から尻にかけてのラインが何とも扇情的だと思うんですよね。思わず掴んでなで回したくなります」
「わかる。だがわしはやっぱり着物からたまに見えるあの足にそそられての」
「ああーー」
「なんじゃ、お前はあまり好きではないのか。足好きそうなのにな」
「変態みたいに人のこといわないで貰えます。いえ、私もそう思ってた時があったんですけどね。一緒に戦ってたときに大きく着物がめくれたときがありまして……。まさかこんな時に福沢殿のおみ足が。あんなにまくれたら太ももまでみえるってドキドキしたことがあるんですが……、
あの人ステテコはいってたんですよね。
いや、まあそうなんでしょうけど、期待を返せというかがっかりしてしまいまして……。そんな事がありながらもあの人が大きく足を開いて着物がはだける度ドキドキしてしまうものだから、何というかあの人の足は見たくないんですよね」
「でも、見たら見つめてしまうんじゃろ」
「そうなんですよね! 何もみえないと分かってるんですが着物からちらちら足首が見える度、ガン見してしまって。あの筋肉質ながらスッとしているところが良いんですよね。なめ回したくなります
何であの人あんなに色気振り撒いているんですかね。もう四十でしょ。私なぞよりもがたいも良いのに何処もかしこも色気で溢れていて」
「わしもこないだ思わず押し倒しかけたさかいな。福沢君にあっさりかわされてしもうたけど」
「何してるんですか」
「いやだってな……。食事の席やったんやけど、いろっぽう食べるもんやからつい」
「分からないでもないですけど」
男達の会話を聴きながらなんでこんなところにいるのだろうかと坂口は黄昏、それからとなりにいる太宰を見た。言葉に表すのも怖くなるほどの目をした太宰は先ほどから話している男達のうち、一人森を睨み付けている。時々変態が気色悪い。早く死ねば良いのにと言っているのが聞こえてきていた。
なんで彼までここにいるのだろうかと坂口は思わず距離を開けながら思う。
今日はポートマフィアと異能特務課の間での秘密裏の対談の日。対談と言ったところで話す内容など殆どない。対談という形をとって会う口実を作っているだけだ。そしてそこで行われるのは特務課の長官である種田とポートマフィアの首領森による探偵社社長がいかに魅力的であるか、またどうやって自分のものにするかというまあ、本人達以外は聞きたくもないような話し合いだった。
二人だけでやってくれれば良いものの、対談という形をとっていること、何よりどんな理由であれど長を敵対組織のものと一人会わせるようなことできるはずもなく護衛として坂口は着いてきていた。他のものに任せれば良かった。遠い目をしながら思うのに、もう一度太宰を見た。太宰が何故ここにいるかは謎だ。最初に珍しい者が着いてきているなと種田が聞いたとき森はみんなで払っているものでと答えていたがそれで何故? 太宰がいる理由は理解できなかった。
太宰から呪詛がこもっていそうなため息が落ちていく。
これは後が大変だと冷や汗が流れ落ちた。
「太宰君はどう思う」
「はっ?」
坂口が太宰から逃げていると唐突に森が太宰に問いかけた。太宰からでるのは心底軽蔑している者がだす低い声だ。
「何がですか」
「だから福沢殿に着せる衣装だよ。いつも着物姿だけどたまには別の服装も見てみたいという話になってね。メイド服やドレス、白無垢、チャイナ服何てのもあるんだがどれがいいと思う」
どれもチョイスがおかしい。何を考えているのだこの人達は。本当に組織のトップに立つ男達なのか。ダメだ。特務課を辞めたくなってくる。辞めて折角だから太宰君や織田作さんのいる探偵社に入社してやろうか。
坂口が思ってしまうのに太宰はさらにその瞳を冷たくして男二人を見ていた。
「知りませんよ。そんなの。と言うかうちの社長に変なもの着せようとしないでくれませんか」
「変なものとは失礼な。福沢殿なら絶対似合うと思うんだよね」
「そやな。やはりここはチャイナ服やドレスやないか。白無垢姿も見てみたいがメイドはないやろ」
「ええ。メイド服良いじゃないですか。是非ご奉仕して貰いたいですね」
悪夢だし殺されるだけだろう。
冷たい吹雪が隣の太宰から吹き荒れる中、男二人は楽しそうだ。坂口は二重の意味で寒くて死にそうなのになんでこんな呑気にいかれることができるのだろうかとある意味尊敬した。その横で太宰がまあ、強いていうならと口を開く
その言葉に坂口は固まる。
まさかと横目で太宰を見るのに、太宰はは少し真剣な表情をしていった。
「チャイナ服は見てみたい気がします」
「彼氏である男の女装を見てみたいなど絶対に言いません。はい。復唱してください」
「彼氏である男の女装を見てみたいなど絶対に言いません」
「もう一度」
「彼氏である男の女装を見てみたいなど絶対に言いません。って、これ言い出したの私ではなく森さん達なんだけどなんで私が」
種田と森の会談が終わった後、二人で訪れた居酒屋の椅子に正座をさせられた太宰はぷっくりとその頬を丸く膨らませた。何でとぼやくのに坂口は片手で顔をおおった。
「そうだとしてもですよ。ただでさえあの人色々可哀想なんですから」
「?」
はあとため息をつくのに太宰は不思議そうに首を傾けるだけ。そうなのなんて聞いてくるのに主に貴女のせいですからねと坂口は言いたかった。
「そうですよ。ですから二度と見てみたいなんて言ってはダメですからね」
まだ理解してなさそうにしながらも取り敢えず太宰はこくりと頷いた。分かったと言われるのに一先ず安心してから坂口は太宰に気になっていたことを問いかけた。
「所で太宰君は今日はどうして森さんと一緒だったんですか」
「捕まったんだよ。長官との会談にいくのに共にいく護衛が決まらなかったらしくてね。中也や姉さん、広津さんは用があってこられなかったらしいんだけど、他の人たちの前であんな話をさせるわけにもいかないからと止められたみたいでさ。無理矢理。私なら大丈夫だろうって。趣味悪い服着せられて殺してやろうかと思ったよ」
正座から普通に座り直した太宰が靴を履いてから下に脱ぎ捨てた黒いスーツを踏んだ。上等な生地に靴の跡がくっきりとつくのを見た後に坂口ははあと深いため息を着く。太宰の足が森に貰ったのだろう服をボロボロにしていく
「それは、また死人がでそうな」
思わず口にしてしまったのにん? と太宰が坂口を見た。別に殺さないよ。その方が面倒だし。怒りは収まらないのだろう。一頻り踏んで茶色にした後も踏み続けながら太宰がいう。そう言うことではないんですよ。殺すのは貴女じゃなくて貴女の恋人さんです。言いそうになる言葉をのみ込んでそうですねと坂口はひとつ頷いて見せた。この話はこれで終わり。残りは太宰くんの愚痴を聞こう。思っていたのに、それとは違い太宰がねえと坂口に呼び掛けた。
そのめは不安そうに見上げてきていてあ、良くないことだと坂口は悟った。太宰が上目使いになるときはだいたい面倒なことがあるときだと知ってしまっていた。
「ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」
「何ですか?」
聞きたくないな思うもののそれは言えない。あのねと太宰が口を開きそれから閉ざした。言いがたそうに唇を尖らせる姿に嫌な予感は倍増した。逃げ出したいと思いながらもそれはできずに太宰の話を待つ。あのねと随分してからだざいは口を開く
「私社長のこと猫だって思ってたんだよ。森さん達もそんな話するから
……でもそうじゃなかったのかも」
太宰の話の内容に途中から坂口は固まっていた。まさかと思い太宰を見ている。そしてその口が最後まで言ったのにああと感極まった声がでるのだった。やっと気付いたか。
子供が初めて立ち上がった父親のように嬉しくなる。
「私のこと抱きたいって社長が」
太宰の頬が赤くなっていた。赤くなった頬で言われるのにそうかそうかと頷きながらんと後から首を傾けた。何と言ったと太宰の言葉を思い出す。そうすると自然に言われたんですかと疑問の声が坂口の口からはでていた。そんなはずはと思う。だが太宰は強く頷いて
「まだ先、私がしたいと思えるようになってからで良いが、もしそう言う行為をする時がきたなら出来たら抱きたいと思ってるって……。それで、もしかして社長猫じゃなかったんじゃないかって思い出して」
「まあ、最初から僕はそうだと思ってましたが」
ああ。何だそう言うことか。納得し安心した坂口は赤い顔をした太宰にあきれた目を向ける。寧ろなんで分からなかった。そう言う思いで見てしまうのを敏感に感じ取ったのだろう。でもと太宰は声をあげた。
「だ、だって森さん達が抱きたいっていつも言ってくるからてっきり猫なんだって。それにほら福沢さんの口の中は熱くて気持ちいいとか穴の中とろとろとかそんな話もしてたから」
「妄想ですよ妄想」
「私もう抱かれたことあるんだって」
「……思ってたんですか」
愕然とした声がでた。嘘だろ。可哀想すぎる。坂口が祈るように違ってくれと思うのに無情にも太宰は首を縦に振った。
「うん。森さん達以外にも社長をよこしまなめで見ている奴らがいるのは知ってるし、一人や二人抱かれていてもおかしくないなって。寧ろあんあんないて私のこと求めてなんて森さんが言ってるからたくさん抱かれてて淫乱なのかとてっきり……」
がっしりと坂口は太宰の肩を握りしめた。話の途中だがもうこれ以上は聞いていられなかった。太宰君と引き気味の声がでていく。えへっと太宰は笑って、それから泣き出しそうな声で安吾を呼んだ。
「太宰君、今すぐ社長さんに謝ってきなさい」
「そんなことできるわけないだろう。ばれちゃう……」
俯く太宰にこんなときだがああ良かったと安吾は思った。一応ばれたら悲しませる自覚はあるのだと。それならばそんなこと思ってたなんてばれないよう気をつけて貰わなければ。そう思っていたところに太宰は口を開き、なにかを聞いてくる。その話に坂口はまた首を傾ける
「でね、一番の問題なんだけどね。私どうしたらいいと思う。社長猫だから頑張って抱かなきゃって思ってたけど……。猫じゃないならどうやってピンチを乗り越えたらいいと思う。
抱く側なら服を脱がなくて良いから最悪女性だってばれないかもしれないけど抱かれる側だったら服を脱ぐし、あんなところとか触られるわけでばれる確率上がってしまうよ」
話の流れおかしくないかと思っていればやはり訳の分からない方向にシフトしていた。頭を抱える坂口はもう嫌だと思っている。
「今すぐって訳ではないのでしょう」
「うん。私の心の準備が出来たらでいいって。何年でも待つし、そんなことできずとも私と共にいられるだけで良いって」
「それなら暫くは考えなくとも良いんじゃないですか」
ありきたりな今だけの逃避の言葉を告げた。真面目に考えてと太宰の声が響いたが、こんな話いくら友人の話でも長いこと聞けるわけがなかった。
なかったから坂口はなカウンターにおいていた度数の高い酒を煽りのんだ。
「でも……」
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