「ねえ、パンツは何を履いているんだい」
 人よりもいい耳で聴きとってしまった言葉に敦はその口元を引き攣らせていた。またあの男って怒りがわくものの聞かれた張本人の太宰がえーー何てにこやかに笑っているから何も口にすることができなかった。なんとか平常を保とうと眼の前の仕事にする。
 それでも敦の優秀な耳は太宰が電話している相手の声を聞き取っている。
「もうそんなこと聞くなんて駄目ですよ」
「いやーー、ついね。で、今日はどんなものを履いているんだい」
 諦めろよと叫びたくなるのをこらえる。これがいつもの会話なのだと知っているから。耳が良いことを恨みそうになりながら二人の会話を聞く。
 ふっふと太宰は笑っていて、
「ひ・み・つ。
 知りたかったら当ててみて」
 ぱきりと手にしていたペンが折れる音が聞こえた。手が震えてしまう。電話の向こうからは声にならないような気持ち悪い息遣いが聞こえてきて、ぷつりと太宰が電話を切っていた。
 その姿を凝視してしまえば気付いた太宰が微笑んで見つめてくる。
「あの、太宰さん……今のって、いうか、その今日は何を履いているんですか」
「ふふ」
 ふわふわ笑う太宰は聞かれることを分かっていたようで。聞かせたかったんじゃないかってそう思ってしまう始末だ。いくら太宰でも後輩にセクハラをするとは思いたくない。たまたまだろうと敦は己に言い聞かせる。それに不規則にかかってくるいたずら電話のタイミングまで読めているとも思いたくない。そこまでできるのならさっさと捕まえてほしいぐらいだった。
「気になっちゃうんだ」
「や……。だって太宰さんいつもとは違ったじゃないですか。何か、その」
「エロいの履いているんじゃないかって。うふふ。そう実はね。
 今日はこれ……」
「え、ちょ」
 太宰の動きに敦が慌てふためく。太宰はなんとベルトを外してチェックも開け始めたのだ。
「履いているの」
「へっ」
 手で顔を覆いつつ指の隙間から覗いてしまった敦は固まった。開いたそこから見えるのはふわふわの綿パンツ。
「……
 …………何でそれであんな風に言ったんですか」
「だってこれ凄くエッチなパンツだから」
「え、それがですか」
 太宰の言葉に敦の首が傾く。くすくすと笑い声が落ちている。
「だってこれ社長が買ってくれたものだから」
「社長が……」
「そう。寒い日は股関節周りを温めるのがいいってくれたのだよ。でmそあ、恋人に下着を贈られるのってえろくない?」
 ねえって太宰が笑う。その頬は赤く染まっていた。うわぁなんて声がでてしまう。何を言っているんですかって呆れた声を出しても太宰はへらへら笑うだけだった。



「太宰、お前、敦に何か言ったか」
「え? ああ、敦君ですか。面白かったですよね」
 くすくす笑う太宰は楽しそうで反省なんて言葉は知らないようだった。
「綿パンツがエロいって話をしたんですよ」
「はあ?」
 福沢の首が傾く。銀の目が白黒するのに太宰はますます笑みを強くしていく。その手がちらりとふくの裾を捲っては綿パンツをのぞかせている
「……確かにお前が履いているのは可愛いが、エロくはないのではないか?
「え」


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