どうやらその昔、社員と寝てしまったらしい。


そんな事に福沢が気づいたのはとある事件によって社が上よ下よの大騒ぎとなっているときだった。
数か月前から巷を騒がせるその事件は処女や童貞の男女を狙い、無差別に性的なDVDや本、教科書を見せつけてくるというどう判断していいのかわからん事件だった。被害者は多数。それら全てが一人で行われたというのだから恐ろしい話で、探偵社もこの事件について調査することとなった。
だが、探偵社には年若いものも多い。未成年や女性にこの事件を任せるのも問題だろうと普段は調査に出ることはない福沢もでていた。そこにやってきたのが、ポートマフィアだった。
なんでもマフィアの要人の娘が被害者になったとかでマフィアも総力を上げて捜査しているらしい。だが一向に見つからず探偵社に協力を求めてきたというわけだった。頼りにされたのは探偵社を誇る名探偵乱歩だったが、残念なことに彼は出張に出掛けていていなければ、福沢には全く理解できないことに国木田や他社員がこの事件を伝えるのはと渋るために事件のことを伝えられてもいなかった。未成年でもなければ、社員がいなかった頃は似たような事件を担当していたとぞと言いたかったが、あの太宰にまで言わなくていいですと言われるので口を閉ざすことにした。
 そんな事はさておいて、やってきたマフィアと調査することになって暫く、変態を追いかけ続けて限界になっていただろう国木田がある疑問を口にしたことによって福沢は社員と寝てしまっていた事実を知ったのだった。
「そもそもこの犯人は処女か童貞かどうかなんてどうやって判断しているんだ? 見た目でわかるものでもないだろう。いや、何かしら分かるような変化があるのか?」
 まあ、まだ分かる疑問だった。それはたしかにと福沢も思った。おかしくなったのはその後で太宰、どう思うと問いかけられた太宰が全てをおかしくした。
「ふむ。確かに気になるところだよね。分かるかどうか検証してみようか。私は処女と童貞だと思うかい」
 なんだそれはと思わずずっこけかけた。しなかったが、心のなかではずっこけていた。お前はまともにやれと国木田のように脳内で怒鳴っていたが、それをするはずの国木田は限界をむかえ、馬鹿になっていたせいで真面目に考え出していた。
「童貞はないとして……、男とは……、やらんだろう。処女だ」
 いや、どう見ても非処女だろう。勝手にハニートラップ仕掛けては情報やら利益やら得てくるとんでもない奴だぞ。それがなくとも老若男女、この世のあらゆる相手に対してどういう仕草を見せれば落とせるか知っている奴が身奇麗なままいると思うのか。
 己の弟子に対してもう少し見る目を養えと目尻を抑えた福沢も多分だいぶ頭がおかしくなっていた。数日変態を追いかけ続けてろくでもない資料ばかり見てるから仕方ないことだったのだろう。
国木田の答えを聞いた太宰は肩を震わせて笑っていた。そして、そうだよなんて、絶対嘘だろうに答えている。それにツッコんだのは福沢ではなかった。探偵社に来ていたマフィアの男、中原中也だ。
「は、嘘言ってんじゃねえよ。非処女非童貞だろうが、てめぇは。何清純ぶってんだ。気持ちわりぃ」
「はぁ!? え、な」
「ふん。同じ非処女非童貞の中也には言われたくないよ」
「ちょ、な、マフィアが!?」
「しかも中也は私で二つとも卒業したもんね」
「……」
「ああ、そりゃあ、てめえもだろうが!」
「残念でした。私は君と違ってお利口さんじゃないから、君と理由のわからない性教育なんて一緒に受ける前に別の人とすませちゃってるんです」
 最初の段階で椅子から転がり落ちるように立ち上がっていた国木田が完全に床に座り込んでしまっていた。目が回り、言葉も発せなくなって言い合いを続ける二人を見上げている。と言っても焦点はあっておらず口から泡をふいていた。
 そんな国木田の代わりにやめるよう言おうと福沢はしたが、その後の太宰の言葉にその動きは完全に止まってしまった
「はあ!?いつ、誰と!?」
「ん、森さんに君と一緒に性教育を学ばせるって言われた次の日だったから、6年前の6月19日深夜、横浜港でだね。その辺歩いていた男を無理矢理襲ってやったから誰かはわからないんだけど、刀を持ってたから剣士じゃないかな」
「おまっ。無理矢理って……」
「君や森さんが初めての相手になるなんて最悪だったからね。私の初めては君じゃないのだよ。君の初めては私だけどね。ぷぷ、かわいそ
 真っ赤になったり真っ青になったりしながら中原がぱくぱくと口を開閉させていた。膝から崩れ落ちていく。床に座り込んだ男が二人もいる中で太宰は楽しそうに笑っている。
 なんともシュールな光景。傍にいた事務員たちがどんな顔をしていいのかもわからず必死に仕事に逃げている。
 そんな光景を視界に入れながらも、福沢がその時思い浮かべたのは6年前、初夏の暑さを感じ始めていた頃の夜の横浜港であった。その時、突然ぶつかってきたと思うといきなり口付けて媚薬を飲ませてきた子供のことが脳裏を駆け巡る。。
 当然すぐ捕まえた子供はかなり細い体。包帯を巻いているようにも見えて思わず何を考えているのだと説教してしまった。子供は驚いたような様子の後、拗ねた口調で何事かを口にした。声が小さかったのと、飲まされた媚薬によって意識が混濁し始めていたことによって殆ど聞き取れなかったが、どうやら保護者のような者に性教育という名目で犯されそうなこと、今後は性接待などをさせられることになることは理解できた。
 あまりにもな事に絶句して、そんな保護者のもとなどすぐに逃げろ。行き場所がないなら己のもとに来いと伝えたが子供ははっきりとそれは嫌だと言った。逃げたら死ぬまで追われるし、そうしてでていても外はつまらないだけだと。まだそこにいるほうが求めるものを見つけられるかもしれないと。そんな子供を無理に連れ出すことも、まただからお願い抱いて、抱かせてと縋ってくるのも振り払えずに福沢は子供を抱いた。一回の情事で思考の飛んだ子供に、抱かせてと言われていたことも思い出して挿入だけはさせてやった。尻の穴など触ったこともなくて一回入れてすぐだすような有り様だったが、蕩けてる子供にはこれでもいいだろうとどっちもやったぞと伝えてやれば、誰か、恐らくは保護者の名を呼んでざまぁみろ馬鹿野郎と口にしては乾いた笑みを浮かべた。
丁寧に体を洗い、そのへんのホテルの一室にまで運んでやった子供。
 夜だったのもあって顔も殆ど見ておらず、今の今までそれが誰かなんて全く知らなかった子供だ。
 その子供のことを鮮明に思い出した福沢は、中原をいまだ嘲笑い続ける太宰を見た。
 あんな真似する子供が複数いるとは考えられない。しかも時期も被っている。
 どうやら福沢は出会う前とはいえ部下を抱いていたらしい。
「しかも私の初めての相手はすっごく優しくてセックスの上手な人だったからね。私を血まみれにしてきた君とは大違い!まあ、私も君を血まみれにしてやったけど。はっは。最悪な思い出の初めてとは違ってこっちはとてもいい思い出だよ。後にも先にもあの時より気持ちよく感じたことだってないからね」
 なんてことだと頭を抱えながら、そっか。良かったのか。と言うかこの男の初めて自分のものなのかと考えてしまい、福沢は己が末期であることを悟ったのだった。

[ 307/312 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -