はぁと福沢の口から吐息がでていく。目の前にいるのは最近いやいや期に入ったと社で話題の太宰の姿。
その手は一所懸命、砂を手にしてお山を一つ作っていた。その頬はどろんこまみれ。事務員や与謝野、ナオミが選らんでは買ってくるとても可愛いお洋服も砂ぼこりまみれ、一度洗濯をしたぐらいでは汚れはおちないだろう。
ぺたぺたぺたぺた。砂をつついてはきゃあきゃあ笑い、出来あがったお山を指さしては見て見てをしてくる。
「素敵に作れているな。だから今日はもう帰ろう」
「や~、まだあそぶのお山お山」
一度褒めてすかさず帰りを促してみるが、太宰が頷くことはなかった。やだやだと首をふり、作ったお山の横にまた山を作り始める。お砂遊びはまだまだ終わりそうになかった。はぁとまたも落ちる吐息。
そして福沢は空を見上げた。
静かに見つめては吐息を吐いていく。
空はもうじきあかね色になろうとしてて随分長いことここにいたことを伝えてくれていた。
「太宰、そろそろ帰らぬか」
「や~、お山作るの、大きいの」
「うんうん。そっか大きいの作るか」
ふぅと福沢からまたも吐息が出ていく。
帰りの途中、太宰がこうえんよりたい、あそぶのと駄々を捏ねるので少しぐらいならばよいかと入った公園であったが全然少しではおさまらなかった。もう一時間以上は公園で過ごしている。
ちょっと前まではすべり台で遊んでいたのが今はお砂に夢中だ。いつ終わるのかすら分からなかった。
「太宰。もう帰らぬか。このままでは夕食の時間が遅くなるぞ」
「や~」
ふりふりと振られる首。はたからみるととても可愛いいのだけど、今の福沢はそれに蕩けていられる余裕がなかった。
「分かった。それでは私だけ先に帰ってしまうがよいか。遊び終わったら一人で帰ってこい」
何んて言ったところでそんなことできるはずもないが、しびれを切らしてつい言ってしまっていた。砂場に夢中だった太宰の大きな目がやっと福沢を写した。
うるうるとその瞳が潤んで口元がへの字に歪む。かと思えばすぐに太宰の手は福沢の服を掴んでいた。
「ゆきちさんといっしょ、帰っちゃやー。
いっしょあそぶの」
ぎゅっと掴んできながらもう片手はお砂をぺしぺししていた。はぁともう一度でてしまう吐息。何度目かもわからない。
「では、あのお日さまが落ちて暗くなるまではは遊んでいい。だが暗くなったら今度こそかえるぞ。いいな」
「はい!」
きらきら輝いていい子の返事。
太宰はすぐに砂遊びに興じていく。でもその手が福沢から離れることはなかった。
日が暮れていく。
公園の明かりがついて周りはみえるが、それでもとても暗かった。限界まで遊んだ太宰ははおずおずと福沢を見てくる。
「もうかえる?」
「ああ、約束だろう。遊びたければまた明日な」
「う~」
太宰は嫌そうにしながらもそれでも手を伸ばし福沢に抱きついていた。
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