意識が暗闇の中から浮上していく。
 その途中、福沢に周りに群がる奇妙な気配に気付いていた。目を開けることなく周りの気配を探る。
 それと同時に昨夜の気憶を思いだしていく。
 体がやたらと熱かった。
 町内二周したわけでもないのに息があがる。全身がほてり思考も少々ぼやけていた。何らかの薬を飲まされていることは間違いなく。そして恐らくそれは興奮剤の類。それも性的なもの。
 目を閉じていても福沢は己の雄の部分が勃ち上がっていること。そこから先走りが垂れ流れていることを感じとることが出来ていた。息も荒く、何かに縛られているのだろう体が少し動くだけでも肌に喰い込む感触や触れていく空気で感じてしまう。唯一の救いは口を何かで塞がれていることだろう。
 寝たふりをする今、声を噛み殺すことが難しいが、おかげで不様なこの声を聞かずにすんでいた。
 体に渦巻く熱で思考が飛び飛びになる中でも、福沢の耳は外の情報を集めていた。
 分かったのはここが屑共の本拠置であること。そして、今から下品で不快極まりないことが催されようとしていること。
 その催しに福況が商品として参加させられようとしていること。
 逃げられるか周りの気配を探る。
 恐らく今周辺にいる者達はほてる体、拘束されている状況でも問題なくやれる。ただ捕まっているだろう部屋から少し離れた所に大勢の人がいる気配を感じられる
ことから逃げるのは難しそうであった。
 その半分は僕でものの参加者。力を持たないただの下衆であろうが、もう半分とその護衛。中には手強いものもいるかもしれない。
 ここは一人でどうにかしようとするより助けを待つ方がいい。不快な姿を晒すことにも、心配をかけることにもなるが、無理して事態を悪化させるようなことはしたくなかった。
 それに気になることが一つある。
 考えを何とかまとめつつ福沢は寝たふりを続ける。
 催しはもうすぐ始まるのだろう。周りは慌ただしくなっており、誰からこいつ起こしますかと福沢のことを聞いている。
 それに答える声は否だった。
「盛り上がりにはかけるが、暴れられると困る。催淫剤を打てるとはいえ、化け物って噂の奴だからな、それよりいつも以上購入、引き渡し後はこっちは何の責任もおわないこと言い回っておけ。どうせ後で逃げられるだろう。後今回の稼ぎ終わったら高飛びするからそっちの準備もしておけ」
 ボスなのだろう男が手際よく指示していく。その声を聞き福沢はわずかに眉間をよせそうになってしまう。何とかこらえつつ、 もう一度人数を探る。そう多くはない。ここにいる程度なら今の福沢でもやれる。高飛びされては捕まえるのが面倒になる。それならばいっそと。
 やることを考えてみるがしばらくしてから福沢は入れかけていた体の力を抜いていた。
 多分大丈夫だろうとそう判断したのだ。
 口の中、涎があふれては抑える何かをぬらしている。己の延で窒息しそうでもあった。
 意識が目覚めてしまったせいか、薬がどんどん回っていく気がする。
 熱さがまして、中心が触られてほしくてうずく。
 体が意思とは関係なく揺れ動く。
「そろそろだ。連れていけ」
「へ……」
 催し物が開催されるのか。福沢の体が動く。車輪付きの檻か何かにいれられているのだろう。がたがたと揺れ乗り心地は最悪だが、目は開けないまま進む。
 振動だけでも体の奥に響く。
 情けない吐息が出ていくのを止められない。
 少し広い場所に出た。大勢の人がいる。肌に突き刺るような視線をそこら中から感じる。
 熱気のようなものが部屋の中に満ちていて、流石に気味が悪い。ざわざわと人の気配が蠢いて好き勝手、口にしているのが届いていた。
 怒りが沸きあがってくるようなものばかりだが、それを口にすることは出来ない。
 寝たふりを続けていく。
「ご覧の通り、現在は薬で眠らせており大人しい状況です。
 ですが、まだ躾などは行っておりません。是非幾人もの悪逆非道を切り刻んできたあの武装探偵社社長をご自身で躾けてください」
 会場の声があがり、熱気が強まっていく。
 ふざけるな下衆共がと罵ってやりたいぐらいだが、今はそれも難しい。寝たふりをしているとかではなく体のほてりが強くなって、少し動くだけでも口が無事なら吐息がでてしまいそうなぐらいどこもかしこも感じてしまうのだ。
 早くだしたいと陰茎が震える。
 なんの刺激がなくともいってしまいそうだった。
「また強力の催淫剤を打っておりますので、落札後すぐ遊んでいただくことも可能です。勿論後ろは初物。こんな機会は中々ございません。
 今は起きたら会話ができるように調整しておりますが、後からお好みの量を入れさせてもらいます。
 スリリングを楽しんでみるもよし、最初から意識を壊し人形としていくもよし。どうぞお好きな可愛がり方をしてあげてください」
 野太い歓声があがる。
 目を閉じたままぞっと青冷めるが動くにはもう遅すぎた。
 薬が体に回り、会場にいる全員を相手ではまともに戦えない。戦いの中の動きさえも快楽として変換してしまうだろう。
 呑気にしすぎたかと奥歯を噛みしめる。
「それでは武装探偵社、その長である福沢諭吉。100万から始めさせていただきます」
「110万円!!」
「120万円!!」
「150万円」
「200万円!!」
 会場にいる者がどんどん値段を口にしていく。最終的には一番多い値を口にしたものに買われると言う悪趣味極まりない催しであった。
 どんどんつり上がっていく値に司会は興奮を隠せないでいる。
「1000万円でました。どなたか1010万円の方はいらっしゃいませんか」
「1030万円!!」
「1100万円だ!!」
 声は止まらない。
 こんなことに使うのならもっと別のことで使えと苛立つが、それに反して体の力はどんどん失っていく。
 熱くそれでいて足りずに体が動く。
「5000万円!!」
「55050円!」
「5500万!!」
 時間がたつにつれ声が少しずつ止んでいて今は幾人かの勝負になっていた。
「一億!!」
「一億円、一億円がでました。どなたか他に」
「五億」
 シーンと当たりが静まり返った。それはまたすぐに騒がしくなるが止まった福沢の時は中々動き出さなかった。
「ハンマープライス。ハンマープライス。五億円で落札です」
 司会の声が大きく響く。
 だが福沢にはそんな声はまったく聞こえず、己の落札した男の声だけが耳の奥に残っている。
 そしてその男の笑った姿が浮んでいる。




「さて、もう目を開けてもらってもよろしいですよ。社長」
 柔らかな声に促され目を開さった先に見たのは美しく笑う男の顔であった。
「解毒剤を打ってもらったのでもう少してたら落ちつくと思います。 それまでは我慢してくださいね」
 ほぅと福沢の口から吐息が出ていく。
 ひとまずは助かったのかもしれない。
 あの男達はと聞く声は少しばかり震えていた。体は少しは落ちついているが、まだまだ熱く身動くだけでも股間が苦しい。
「安心してください。全員を捕まえる準備はまもなく整いますよ。明朝には全員お縄につくでしょう」
「そうか。……助けてくれてありがとう」
「礼を言われるほどではありませんよ。だって私、助けてなんていませんもの」
 太宰の口元は歪にあがっている。
 無邪気でいて禍々しい。
「私は五億で貴方を買っただけ。何もせずに解放してあげるわけじゃないです。
 一日二万として残り六八年ずっと私に飼われてもらいます。まぁ、その前に私は死ぬと思いますけど。
「お金を払うでもいいですけど、五億なんて大金いくら社長でも簡単に用意は出来ないでしょう。
 だから飼われるしかないんです」
 見聞いていく銀の目。
 でも何で何てことを福沢は思わなかった。
 思ったのだからだ。
 昨夜、福沢は何者かに酒に毒を盛られたことを店を出た後に気付いた。
 重い体にぼやける目の前、そしてそこにやってきた気配。福沢が応戦しなかったのは薬のせいで出来なかったのではなく、する必要を感じなかったからだ。
 それはよく慣れ親しみ愛しんだ者のものだったから。
「ねえ、今日からよろしくお願いしますね」
 太宰を見る。綺麗に笑っている。
 彼にとってこんなやり方、やりたくなかっだろうに嬉しそうに笑っている。
 理由は分かっている。
 太宰よりも深く福沢が分かっている。
 嫉妬に独占欲
 可愛いものだ。特に乱歩に強く向けられるそれらを福沢はにこにこして見守っていた。
 その気持ちが太宰の中にずっと前から芽生えている。いつ気付くのが楽しみにし続けているその思いに目を向けるきっかけになるのではないかと思い……。
 だが太宰は福沢が思っていたよりもっと臆病で、そして福沢が思っていたよりずっとその気持ちは大きすぎてこんな事態を引き起こしてしまった。
 このままではあまりよくない方向に進みそうで、さて、どうしようかなんて考えてみるが、考えることなどなかった。
 福沢の手はまた伸びて太宰に触れていく。
 何かしらの反応があると思っていたのだろう。太宰は不思議そうにするものの拒否するようなことはなかった。
 己と同じ姿に笑い、腹に力を込めて上下を逆転させる。
 太宰の目が見上げてくるのが愉快で喉の奥からは笑みがこぼれる。
 唇を太宰の頬によせ、首すじをなめ、手が体を這い回る。
「えっ? しゃちょ、な、な、んあ」
 耳朶を噛んで歯で包帯を外す。
「私は飼われるのだろう。ならそれろしく犬にでもなってみようかと思ってな」
「は? 何を」
 あらわにさせた白い肌を舐め回す。右手を絡みとっていくがさほどの力も込めていない。抵抗しようと思えばいくらでもできるだろうか太宰はそうしない。
 否、できない。
 だって嫌じゃないから。
 声はもうすでに甘くて待って何て声もでてこない。ただただ戸惑い続けるだけだ。
 強引にことを進めるのは好きではないのだが、こうなってしまった以上は何かのためと理由づけれる状況ではない場で私の思いの全てを注ぎこまないといけない。
 薬が邪魔ではあるが、今この瞬間が一番何もない。
 好きだって耳にささやく。愛している。と口にする。
 褪せた目が見開いている。
 私が重いことが少しばかりばれてしまうが、思っていた以上に太宰は私に溺れてる。
 どれだけ臆病でももう離れていくことだけは出来やしないのだ。
「太宰ずっとずっと愛してる」

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