「どうして私があそこに居ること分かったんですか」
 太宰の手当てをしようとしていた福沢はそのあまりの酷さにこれのどこが大丈夫なのか。と再び太宰を叱ろうかと少し考えていた。そして口を開くが、その前に太宰のほうが口を開いていた。太宰の褪せた目が福沢を映す。
 偽装は完璧だったのにとでも思っていそうな顔をしていて、福沢からは吐息がでていく。本当のことを言っていいのか。うまいこと逃げるやり方を見つけてきそうだが。とわずかに考えるもののそんなことは不可能かと福沢は真実を伝えることにした。
「乱歩が私に言ってきた」
 目が少し見聞いている。
「何故。乱歩さんは私のこと嫌いでしょう。いつのたれ死んでもかまわないはず」
「好いているとは言いがたいが、お前の必要性は理解しているようだぞ。悔しいけどお前がいなくなると社が回らなくなって困るから。そう言っていた。
 これは伝えるか悩むが乱歩から貴君に伝言があって、無茶するのはいいが、僕に迷惑かからない範囲でやれ。お前が大怪我したり、死んだらしたら僕が気付かなかったのかって福沢さんに怒られちゃうんだからな。だそうだ」
「……別にそんなことで怒らないでしょう」
「わりと本気で怒るぞ。拳骨の一つはおとす。もちろん完治した後は貴君に対してもおとす。まぁ今回は勘弁してやるが今度一人で無茶してみよ。
  こぶができることは覚悟しておけ」
 手当ての途中ではあるが握り拳を見せてやると太宰は青冷め、唇を尖らせながらもはいって答えていた。満足して拳をおろしていく。
「そういえば貴君は夕食をたべているか? ないのなら簡単なものにはなるが、何か作るが」
「……食べてはないですけどお腹はすいてないのですよ」
「怪我をした時はいつも以上にしっかり食べねばならぬ。作ってくるから待っていろ」
 はぁ。何て声を出している太宰には納得している様子何てなかった。それでもそんな太宰をおいて福沢は夕食を作りに立ち上がっていた。


「どうだ」
 問いかければ、太宰はふてくされた顔をしていた。
「美味しいですけど……何で蟹がでてくるんですか。私が怪我するの望んでいたのですか」
「そんなことはない。ただいつか食べさせてやれるといいなと常備しておいただけだ。うまいのなら良かった」
 むうと太宰の口元はさらに尖っていた。
 でもそれは嫌とかそういうことではないのは目にとれていて福沢の口元は緩む。それを太幸は嫌がるのだが、分かっていてもおさえることは難しいものであった。文句を言いつつを食べる太宰は嬉しそうでもあった。
 箸は進んでいる。そして美味しいとそう零している。
 口元の笑みはどうあっても深まってしまう。



 社長はおかしな人だと思う。
 少なくとも私のこれまでの出会いの中ではいなかったタイプであることは間違いないだろう。それは探偵社にいるみんな似たようなものであるのだが、その中でも一等社長はおかしくそして私に優しかった。
 それが理解できないけれど……、でも私はそれが嫌ではなくなってしまっていた。むしろ心地良くてずっとそうであればいいのに何てバカげたことまで考えてしまう始末。
 それが嫌だったから。少し勝手なことをしてしまおうか。何てそんな気になった。誰だって命令違反をくり返すものは嫌いだろう。それも勝手にこそこそ動くような奴。
 そう思うからこそ、ではそうしてみようと決めたというのに私に言われたのは無駄なことはやめたらという声であった。
  私にそれを言った乱歩さんの見る目はきついものになっていた。口元は不服を表しているのか尖り、太宰を睨んでいる。
「お前が今からやろうとしていること。どうやったってお前の求める結果にはならないよ。てか別に望んでいるわけでもないだろう」
「……というと」
「だ~か~ら、社長は別にお前のこと嫌いにならないし、お前を構うのはやめないってこと。無闇に怪我してしんどい思いをするだけだから。止めろ。てか、ここまで言わなくても僕の言いたいことわかっただろう。わざわざ言わせるなよな」
 乱歩はぷんぷん怒って太宰を見ている。太宰はと言えばそんな乱歩からは視線をそらして遠くを見ては吐息をついていた。
「さっぱり分からないのですが、あの人は何をしたいのですか? 何で私のことを嫌いにならないのです」
「それを僕にきくの最高に頭の悪い行為だって分かってる。僕はお前のことこれっぽちも許してないんだからな。福沢さんが許してるし、お前の事情って奴も多少は分かると言うか、悪いのはあの男だと思うから探偵社にはおいてやってるけど、本当ならうち首にしててもおかしくないこと分かってる。
 後追い出しでもしたら福沢さんが怖いからね。何されるか分かったもんじゃない」
「だって貴方より分かっている人何ていないでしょう。本当に分からないのです。貴方が口にされていることも正直分からない。いえ、貴方に嫌われていることは知っています。
 悲しいことですが、仕方のないことだと受け入れています。ですが、その。別に私をおいだしても貴方にはあの人も何もしないのではないのですか?
貴方がしたことなら社のためであると理解してくれるのではないでしょうか」
 傾く首に演技なんてものはない。太宰は本気でそう思い口にしているのだが、乱歩の口はばっかりと開いていた。
 普段は閉じられているようにも見える目も見開いて太宰を見ている。そこに映る太宰はいつもは決してみせないような不安な姿を見せている。翡翠の瞳がその姿をじっと見る。それから盛大なため息をついていた。
「あのね、お前は本当に馬鹿なの。
 命令違反したぐらいで嫌われると思ってる時点で馬鹿なんだけど、お前に何かしたら福沢さんにやられるぐらい普通に予想がつくだろう。あの人がどれだけお前のこと大切にしていると思っているの。腹が立つ程、大切にされておいてそれが分からない何てバカなこと言わないでくれる」
 話しかけてきた時は何とかつまらなさそうな姿を保っていた乱歩は今や立ち上がり怒りを太宰にぶつけていた。つきさされる指を太宰は唇を尖らしたまま見ている。
 そしてふいと顔をそむけて吐息を吐きだしていた。
 褪せた瞳は嫌悪の色をのせる。そうしながら乱歩はみずに遠くを見て次第に太宰の顔は何ものでもなくなっていた。
 嫌悪だとか不満だとか、不安だとかが消えて、そこからは何も読みとれなくなる。ただ静かな目がどこかを見ていくのに、乱歩はその目を見てはまた不快で顔を歪めていた。あ~もうなんてあきらかに怒りの声を出している。
「何!! 何がそんな不満なのさ! 社長にあんなに大切にされておいて不満たらたらとかお前ぜいたくすぎなの分かってる!!」
 子供のように乱歩がわめく。それでも太宰の表情はかわることはなかったし、乱歩を見ることもなかった。ただ小さくその口が開く。それはとても小さくとともすれば聞き逃してしまいそうな声であった。
「理由もない優しさ何て気味が悪いだけじゃないですか。いつか手離されてもそれがどうしてかも分からなければ何もできない。ただ去っていくのを見つめるだけ。
 それに与えられるものになれて、それを当然としたらそれを亡くした時、どう思えばいいのかも分からなくなる。
 手にはいれば最後失われていくだけなのですから、ならさっさと失ってしまった方が良い。そうは思いませんか」
 ことりと太宰の首はかたむく。でも変化と言えるような所はそれだけで太宰の目は変わらず何処かを見ている。表情の一つも動いてなかった。まばたきをしていることだけが無機物でないことを伝えていた。
 怒っていたはずの乱歩が呆けた顔をして、それからまた怒りだしていた。
「おまっ!! お前、そういうところだぞ! そう言う所があの人の!! ……あ~~、もう分かった。分かった!
 お前の言い分はよく分かった。いいか、太宰」
 乱歩の指は再び太宰に向けられていた。先程と違い鼻先近くまで指先がおしつけられて太宰の目が乱歩を見る。翡翠の目はじっと太宰を映していた。
「失いたくないのは分かった。お前が傷付きたくないのも分かった。でもな。なら、お前がすることはそれを自分から手離すことじゃない。
 いいか。お前の手で守ることだ」
 太宰の褪せた目が見開いて乱歩を見た。表情を映すことのなかった顔が今はほうけて乱歩を見ている。乱歩の言葉を理解できている様子はなかった。
「お前にはこの先どんな脅威がこの町を襲うか見えているんだろう。そのために暗躍するのは良い。どんどんやれ。でも一つだけ間違えるな。探偵社をただの駒として見るんじゃない。共に戦うものとして、そして決して死なせちゃいけない守るべきものとして見るんだ。
 いいか。これは僕が探偵社社員だから、僕が探偵社を好きだから言っているんじゃない。
 お前が、
 太宰、お前自身が、探偵社を、そして社長を好きだから言っているんだ。
 探偵社を守れ。社長を守れ。決してその手を失わないようにするんだ。お前はさ足掻かなすぎるんだ。もう良いって諦めて手放そうとし過ぎる。
 いいか、お前が今みたいな馬鹿してもあの人はその手を離してくれたりしないから、あの人はお前が大切だし、それだけ優しい人なの。
 だからあきらめてお前も少しは足掻きな。
 この名探偵だっているんだから守れるよ。ううん。守るんだ。お前ならできる。
 仕方ないからこの僕が保証してやる。社長はお前が守れ。まあ、お前が守らなくともこの僕が守るけどね」
 太宰は返事なんてものは出来なかった。ただその目で乱歩を見ていた。





「うわぁ~~。本当に大きな会場何ですね。客席滅茶苦茶ありました」
 感嘆の声が敦からあがっていて太宰はくすくすと笑みをこぼしていた。歩きながら後ろを見れば目を大きくした敦と鏡花が見える。
「前から話してただろう。そんな驚かなくても
「だって実際みてみると違いますよ。視界全部席でうまっていて、人が入るともっとすごく見えちゃうんでしょうね。社長はそんな大勢の人の前で緊張とかしないんでしょうか?」
「さあ? そんな話はしたことないけど……しないんじゃないかな。
 そんなたまにも見えないし。それにもう何年も前からやっているからなれているでしょう」
 はぁ~と敦からは間の抜けた声がでてくる。
 今日は福沢のライブの日だった。
 ここ数年はずっと太宰一人で福沢のライブ警備の管理及び探偵社の仕事をしていたが、今回はチケット購入の時にいなかった敦と鏡花の二人も一緒にしていた。
 太宰と同じであまりアイドルというものについて知らず、福沢に対して他の者達のように強い興味をもたなかったのも理由である。
 今は配置が一通り完成したのでもれがないかや、いざという時すぐ動けるよう会場の中を再度三人で見回りしている所であった。
 歩きながら福沢がアイドルであるということにピンときていない所のあった敦がようやっと理解できてきてしきりに感心していた。それは敦のように大げさに顔に出さないだけで鏡花もかわらず、無言で会場の中を見渡していた。
「社長の歌ってどんな感じなんですか? 一度聞いてみるといいって国木田さんにCDは貸してもらったんですけど、まだ聞けてなくて。やっぱこんだけ人気ですからすごいんですか?」
「まあね。社長元々の声がいいから歌うとそれがますます際立つし、真面目な性格だから練習をかかさずして普通にうまいよね。でも何と言うのかな圧倒的な歌唱力があるのかと言われたらそれは違うと思うな。曲もいいし、すごく素敵に編集されてるからCDとかだと圧倒的なまでに聞こえたりするんだけどね。
 でも歌だけをライブで聞いたらがっかりする人もでてくるんじゃないかな?
 ただ社長をここまで人気にしたのは、天下五剣とまで言われるほどの武人の体で行われる他の者じゃちょっとまねできないダンスパフォーマのすさまじさだからね。社長のファンになりたいのならCDをきくよりライブ見た方がいい。
 何なら今からでも用意してあげようか」
 五分くれたらできるよと太宰は携帯に手を伸ばしていた。あ、別にいいですと敦の首は振られ、鏡花もいいとそう答えていた。
「あんまり社長と話したことがないからあれなんですど、そんなに興味ないんですよね。みなさん好きだからいつか聞かないとはなと思っているんですけど……。
 でも太宰さんはそんなに好きじゃないんですね」
「あ~~。私はね、みんなと違って入社したのも遅いし、アイドルというものには元から興味もなかったから。社長についてもあまりというか、探偵社のものとくらべたらほとんど興味がないのだよ。お世話には結構なっているのだけど」
 へぇ~~と敦が興味があるのかないのかよく分からない声をだしていた。聞いたはいいもののどう反応していいのか分からないのであろう。それに別にどうでもいいような感じで歩いていく。
「好きになった方がやはりいいの」
 問いかけてきたのは 鏡花だ。太宰のめが一度姿を見る。その目は少しだけよせられていた。
「ん~、そんなことはないと思うよ。まあ、知っての通り乱歩さんが社長ガチ勢って奴だから、社長を好きにならなきゃって感じに社長のライブ見にいてファンになった子達もいるけど、私は別にそれでどうこうされたことはないから。
 まあ、社長のライブかある時何かは全部仕事ふられるからそれが嫌ならファンになった方がいいけどね。でも社長はそれぐらいじゃ社員を嫌わないし、むしろライブの時とか迷惑かけるからって普段の時、他の人よりも優しくしてもらえたりするからお得だったりするから無理して好きになる必要はないのかな」
 へぇ、てそれぞれから声が聞こえる。
 なるほどと頷く彼ろについでにと太宰は言葉をつけ足すり
「本格的にはまるとCD代やら何やらで金が矢のように飛んでいくから止めた方がいいかもしれないとは思ってるよ。社長からどうしたらグッス代などで奴らが金を使わないようにできると相談されたことがあるぐらいだ。
 あの国木田君さえろくに貯金ができないと言うような世界だからね。
 あ、そう言えばこのことは新人にお前が伝えてくれって社長に言われてたな。忘れてたや。
 ……賢治君はライブはお祭りみたいで楽しいって言っているだけだから大丈夫だよね?」
 ことって傾く太宰の首。えって声を出した敦はおくれて首を振っていた。きかれても分かりませんよ。何て情けない声がでていく。太宰の首がさらに傾いていて、どう思う鏡花ちゃんと、今度は彼女にきいていた。
 彼女も分からないとそう答えている。
「そっか。そうだよね。まあ、いいかってことにしよう」
「そんな呑気な……」
 ふむと顎に手を当てた太宰は次の瞬間には笑顔になる。何も気にしないような顔で呑気に笑うから、敦はがっくりとその肩をおとしていた。
「でもアイドルを推すのってそんなにお金が掛かるんですね。あの国木田君がそんなに貯金できないなんて……」
「多少はしてるようだけどね。写真一つが彼らにとってはお宝だったりするから、探偵社でとれるだろうにね」
「へぇ」
 またも感心したような声だけが敦から出ていく。落ちないようにしようと堅実な敦の財布のチェックがとざされたのを見て太宰は心の中で一つ頷いている。頼まれたのはつまりこう言うことなのだろう。どうでもよいと思って賢治には忘れてしまっていたが、何とか敦と鏡花の財布は守られた。
 あとは知らないが言いだろうと二人を従えて会場内を歩いていく。そうして入口へと三人戻っていた。
「ざっと見た感じはとくに問題なさげだったね。さてふたりとも気になる所とかなかったかい。どうせ暇だし仕事と関係ないことでもいいよ。社長のあれやこれや私の答えられる範囲で答えてあげよう」
 にっこりと太宰が笑う。さあさあ聞き給えと見つめる。
うって顔をして敦が下がればそれはもっといい顔になっていた。
 ほらほらと敦に詰め寄る太宰。それを止めたのは敦自身ではなく鏡花であった。くいくいと太宰の服のすそを引っ張る鏡花が太宰を見つめる。見つめられる太宰は笑顔のままつめよっていた敦からはなれていた。敦の肩がほっと下がっていく。
「どうしたの? 気になることがあったかな」
「あれ」
 鏡花が指さしたのは人口の一番目立つ所にかざられたフラワースタンドであった。
「ああ、フラワースタンドだね。あれがどうかした?」
「……何で赤い花がないの?」
「赤って、あぁ、ないけど気になるの?」
「祝いと言えば赤。それに一番目立つから花束にもしやすいのにあんなにたくさんあって一つもないから。
 それに薔薇の花もない」
「へぇ。さすが女の子。そう言う所に目がいくのだね」
 感心した声をあげて太宰はフラワースタントを見た。色とりどりの花がきれいに飾りつけられてそこに並んでいるが、鏡花の言う通り赤色と薔薇の花だけがそこにはなかった。
 敦の目が遅れてスタンドを見てそういえばと呟いている。
「社長が赤い薔薇は嫌いって公言しているから、赤い薔薇だけでなく赤い色や薔薇自体も贈ってくる人がいなくなったんだよ」
「え、社長って赤い薔薇が嫌いなんですか」
「うん、そう言っているよ。本当かどうかは怪しいけどね」
 敦たちの目が花を見る。太宰の目もまた花を見て、そして過去を見ていた。

 あれと太宰が瞬きしたその横には福沢が立っていた。そうしてどうした何てといかけてくるのであった。その問は答えを知っていた。
「……あの人から今回は花はおくられなかったのですか?」
 太宰が見つめたフラワースタンドには赤い色や赤いバラなどはあれどあれほど派手であった真っ赤な薔薇だけでできたフラワースタンドは影も形もなくなっていた。
「……おくられてきた。だが燃やした。送り返すために灰ならあるが、みるか?」
「え」
 太宰の目が見開いてしまったのは仕方のないことだろう。それぐらい福沢が口にしたのは驚きの言葉で呆けてしまうが、福沢はなんということでもないように見ていた。なぜって思わずそう口にしてしまう。
「あの男のことは気に食わぬが、今まで花に罪はないと思い受け入れていた。だがそうでないことを知ったから」
「花に罪などないでしょう」
 唇が少し震えていた。見つめてくる目はそれでも優しい色をしていた。
「貴君にとっては何の罪もないのだとしても私にとっては貴君を……大切な者を傷つけるのはそらは罪だ。
 だからもうあの男がもってくる花を飾ることはない。前回も終わった後燃やして送り返したのだが、今回も送られてきた。
今後も送られてくるかもしれぬが、全て送り返すつもりだ。花屋の店員にはわるいとは思うが……」
 銀の目は真っ直ぐで、それから少しだけ微笑んでいた。そんな表情の変化を見ていく。今でもどうしてあんな優しくしてもらえたのか、今も優しくしてくれるのか分からないままだ。
 赤いバラはあの人のことを思いだしてしまうが、福沢が気にしてそしてわざわざ送り返すようなそんなことをする必要のあることではなかった。
 でもそれが嬉しいような気がしてしまったから太宰は半分冗談でそれなら赤い薔薇が嫌いと言ってしまえばいいとそう伝えていた。
 貴方ほど知名度が有れば注文されても花屋は作りにくいだろうし、そうなると森さんも頼みにくいからと。
 まさか本気でやるとは思っていなかったけど本当にやったのが福沢で、以来赤い花どころか赤い色や薔薇さえも消えたのだった。そんな日のことを思い出す。しまったなと太宰からは声が漏れていた。
「今日で最後かもしれないのだし私も一回ぐらいおくればよかったや」
 口に出しているつもりはないがつい溢れていく声。えっと敦や鏡花が目をまたたかせていた。
「最後って社長アイドルやめるんですか?」
 敦の目が太宰を見上げる。その声に我に帰って太宰は敦や鏡花を見た。へらりと笑う。
「そういうことではないよ。それに最後になるかも分からないし……。否、最後にはさせないのか。……敦君、鏡花ちゃん二人共頑張ってね」
 ことりと二人の首がさらにかたむいていた。はいと答えているものの何のことかなんて全然分かってない。今日の警備のことなのかな何て思っている始末。
 でも太宰がいいたいのはそんなことではなくこれからまもなく探偵社を襲うのだろう厄災のこと。
 魔人と恐れる相手の気配も強くなってきている。そのうちこうして息をつくことすらも難しくなる。彼ら二人、特に敦はその時のため太宰が用意した太宰の武器とも言える者、できる限りの手は用意した太宰は今はもう願うだけだった。
「これからの君達の活躍にすべてかかっているからね。頼むよ、二人共」
 二人に怪訝な顔をして太宰を見つめていた。

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