起きろといつものように起こされた太宰が見たのは、いつものように呆れた顔をしている福沢ではなくて、目の下をわずかに赤らめて唇をぎゅっとと噛みしめている姿であった。その福沢の目が太宰を見て少しだけ歪む。
噛みしめた口元もわずかに微笑んでいた。そんな変化を見て太宰の唇の方が噛みしめられる。実は数分前から起きていた太宰は福沢の姿をじっと見下した。
「すまぬが今日は時間がなくてお弁当が出来てなくて昼は売店で買ってもらえるか。朝食も簡単なものになってしまうが許してくれ、今から急いで作るからお前はその」
「ねえ、諭吉。やはりもう私の家にはこない方がいいよ」
早口で捲し立てていた諭吉の口は太宰の言葉に一度聞いて、そして閉じられていた。諭吉の目が太宰を見ては揺れていて、その瞳を見る太宰は静かなものであった。
「お母さんと喧嘩したでしょう。もういかないでって言われていた。何であんなに貴方が搾取されなくちゃいけないのってその通りだよ、何で私のようなもののために君が無理して時間も何もかも奪われないといけないの? 君は私のこと何て気にせず生きるべきだよ。だからね」
太宰はベッドの上、福沢をみることなく訥々と語っていた。感情を一切排除した悟らせるための声。その声で語られる話を聞きながら福沢からもまた表情と言えるものが消えさっていた。
福沢の目が太宰を映していく。
怖くなるぐらいに静かな銀灰のまなざし。その先を語ろうとしていた太宰の口が自然と閉じていく。太宰と呼ぶ声は穏やかなのに逆らえない色があった。褪せた目がふるえながら見つめるのを福沢の口元はわずかに笑っていく。
「それはお前の本心ではないだろう。ならば口にしない方がいい。それに私の気持ちをお前まで無視しないでくれ。母上のことはもう仕方ないと思っている。あの人はどれだけ俺が言っても理解してはくれないのだろう。子供とて真剣に恋するし、気の迷いでも同情でもましてお前に脅された訳ではない。
ただ好きなだけだ。その気持ちを頼むからないことにはしないでくれ。私はここにいたい。お前の傍にいたい。お前に出来ることをしてやりたいって思っているんだ。否定しないでくれ」
銀の目は真っ直だ。恐ろしいくらいに見てくる。偽りなどあるはずもないその声を前にして太宰の目は向いていた。子供の目を見ることは出来ない。
「……昨日いかなかったこと怒られてるの知っているよ。大会に出るよう言われるのが嫌だって言ってたね。知らないけど町で一番強いらしいじゃないか何で嫌なの」
太宰の言葉は福沢の話に答えるものではなかった。そのことに福沢の目は見間くもののすぐに微笑んでいた。銀の目は太宰を見つめつづける。
「だって大会は泊まりこみになることが多い。太宰といたいから、だからやだ」
そしてそんなことを言った。福沢から逃げていた目が見聞いて、はあ、何て声をこぼしていく。福沢を見るが、福沢は穏やかに微笑んでこそいても嘘など言っている様子かないのは変わらず、真剣に太宰を見つめている。開いた太宰の口が閉じた。
「……それは私が修学旅行行きたくないって言っても行かせてきた君の言うことではないと思うけど、でもまあ学校行事とは違うというのだろうね。そう言えば合宿
にもいかないと聞いたことあったな、ん〜〜仕方ないね。じゃあ私も君の試合ついていこうかな。と言っても部外者は一緒には行けないからホテルと同じ場所とるだけだけど、まぁ夜とかは会えるだろう。それでいいだろう」
そしてしばらくしてから話しだす太宰に今度は福沢が驚くだけであった。その目が丸く見聞くのを見ていつも見聞かされてばかりいる太宰は少しだけ愉快な気持ちになる。
「これ以上君をご両親と喧嘩させてもいかないとね。最終手段として向こうは君を転校させ遠くへ引っ越すことを検討しているらしいけどそんなことしたら君は家出してきそうだし、誘拐犯として捕まりたくもないし、仕方ないよね。
それに部外者が行くのもどうかと思って行かなかったけど諭吉の剣道ちょっと興味あるし、道場一番ならまだ分かるけど町一番の強さだ。
そんな親の贔屓目などもあるのだろうけど、相当強いのだろう応援してあげるから私のために頑張ってね」
「……金は」
「子供が変な所を気にしないの。私はたくさんもってるしね。大学とかはもう行くつもりもないからいいのだよ。パァーって使ってやらないと」
ふっふて太宰が笑う。呆然としていた福沢がその姿と眉を寄せるもの口を閉ざして何も言うことはしなかった、楽しみだなと太宰が笑っている。
「よし、今日も来ているな」
「だから毎日、あれ国木田君」
今日も今日とてかけられる毎朝恒例の言葉、体を起きあがらせた太宰は姿を見て首を傾けていた。どうしたのと国木田に問いかけている。
「目の下の隈酷いけど、また夢見が悪かったのかい?」
「あ〜〜まあな。どうも良く分からん夢を見て気分が悪い」
「? どんな夢なの? あれだったら一度お祓いにでも行ってきたらどうだい。それでどうにかなるようなものでなくても気分は晴れたりするよ」
「それでどうにかなるものではないと思うが……何故か俺が手帳で戦っているんだ、他にも知っている奴や知らない奴がでてきてよく分からんことをしている。人
が死んで、そうさせないためあがくがそれでも死んで······そんな嫌な夢だった。やってることはファンタジーなのに妙に現実味があるあたりも腹立たしい。
昨日はいつもより鮮明で朝起きても忘れられなくてな。
ああ、俺はこの夢を毎日みていたんだってことも何故か分かるのが余計嫌だったんだ」
「へぇ〜〜、そりゃあ大変な夢だ。ってか手帳で戦うって何? 意味分からなくて国木田君らしいと言えばらしいけど、そう言えは昔から国木田君は手帳愛用しているものね、それが夢にまでてきてしまったのかな」
「だと言いのだがな……」
はあと国本がため息を吐く。その言い方に何かひっかかるものを感じて太宰は首を捻るが深く考え始めるより前にそれよりどうしたのだって国木田にとわれて、疑問は流れていた。
「え?」
「何か用があったのだろう」
「おや、何で分かったのだい」
「いつも寝ている奴が起きてくれれば大体分かる」
首を傾むけていた太宰はああって納得して頷いている。なるほどね。何てで
ていく言葉。それでねと太宰は話しだす。
「ちょっと困ったことになってきたので聞いてほしいのだよね。まぁ問題を解決してくれるとは思わないから聞いてくれるだけでいいのだけど、諭吉がついにお母さんと私のことで大喧嘩ししまったのだよ。まあ、前々から予兆はあったのだけどね、このままだとあの子とご両親の間に大きな溝を作ってしまうことになりそうなのだよ。今もあると言われればそれまで何だけどね。どうしたらあの子を私の元から離れられるよう説待できるのか。
今回は剣道の大会で出る出ないでもめていて、諭吉が私と離れたくないから出たくないと言っていたので、私が諭吉の泊まるホテルに泊まることで話をつけたけど毎回こうはいかないし、そもそもご両親は私に諭吉がかかわることを嫌がっているからね、まあ普通の反応ではあるのだけど」
はぁ〜〜と吐き出し肩をすくめる太宰を見て聞いていた国木田は頭を抱え吐息を吐いていた。
「本当に聞くだけしか出来ん話をしてくるな。全く何の解決も出来んぞ」
「私が話して吐きだしたいだけだからいいのだよ。人に話すことで考えがまとまるというだろう。いいかい。女の子とかは特に共感や話をきいてもらいたいだけだから。うんうんそうだねって話をきいてあげるだけでいいのだよ。正論とか言う必要はないよ。相手が何を求めているかを考えて接してあげるのが上手な人間関係の築き方さ。
まぁ、私は興味ないから正論ばっさり、さっきと解決させなよともし相談でもされたら私は言ってしまうけどね、そもそも想論してくる相手がいないだろうけどこの太宰がくすくす楽しそうに笑う。はあって頭を抱えていた姿は嘘のようである。今だ。頭を抱える国木田はそんな大宰を見て吐息を吐きだしている。お前と言う奴はとでていく。ゲラゲラと笑う。
「どうせ、また酷いことが起こるまでは放置にしようとでも思っているのだろうが、生活ぐらいはもう少し頼らないようにしてやれ、そしたら子供ももう少し生きやすいだろう。そもそも世話するなは分かるが、近付くなとまで言っているのはどうかと思うしな」
笑っていた太宰が昔を傾けて、それからへらりとまた口元だけ上げていた。
「私はご両親の気持ち分かるんだけどな。
私のような厄介者と関わってほしくないと思うのは当然でしょう。ご両親からして見れば傷付いて何てほしくはないだろうし」
「傷付くのか?」
肩をすくめるような姿をする太宰に国木田は問いかける。その口は閉じて言葉は帰ってこない。ただ色あせた目がどこかを見ていた。





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