「太宰!! 起きろ」
朝けたたましい声で太宰は起こされていた。うぇって布団の中を転がりながら太宰はうってもう一度口にしてく。
「輸吉。毎日、起こさないでよ〜〜」
なさけない声で懇願する相手は自分よりも九も年の離れた子供、福沢であった。福沢はじっと太宰を見下すとだめだってすぐに答えている。
「学校があるだろう。ほら早く起きて準備しろ。朝食はもうできているので急げ」
「え〜〜、いいよ。学校なんて行ってもどうせ何にもなれないし家でごろごろする」
「駄目だ。高校は義務教育ではないんだから留年するぞ」
「別にそれで私はいいのだけどね。学校なんてつまらないだけだし、それにほら考えてもみなよ。このまま学校にいかず社会で孤立して生きることになったら、私は本当に一人になって君だけのものになるのだよ。
そっちの方が君にとっては素敵じゃないのかな」
ふっふと布団にねころんだまま太宰は微笑んでいた。ねえって赤い舌を動かすのを福沢の目はじってみている。
そうしてから吐息を吐きだしていた。
「太宰。あんまりそんなことは言わない方がいい」
その姿は太宰の元に近付いて、そしてその頬をおさえ微笑んでいる。
「困るのはお前だ」
銀の目は幼いその姿に似合わないほど真剣なまなざしで大宰を見ている。
「私はそうしたっていい。否、本当はそうしたい。お前のこの綺麗な目に私だけを映してほしい。でもお前を求める者はだくさんいて、お前もまたもっと人と生きたいのだろう。
だから我慢する。それに今はまだお話を囲ってしまえるような力もない。お前は私が幼いことに感謝すべきだな。でなけれはとっくにお前は私しか見えなくなっていた」
口元にあるかすかな笑み。どろりとした熱い声、目を見開いて年下の子の話を聞いていた太宰の頬は赤くなっている。
くっくっと喉の奥で福沢が笑っていた。
「ああでもそれでもよいって顔をしているな、可愛いけどだめだ。今はまだ外の世界をちゃんと見て、いつか大人になってもお前がそれを望むのなら、私がお前を囲ってやる。だから今日は頑張って。
学校終わったら迎えに行くから」
ねえと目の前で見つめてくる銀の目。そこに映る熱にたえられなくなって太宰は目をそらしていた。これ以上見つめられるのも無理でこくりと頷いてしまう。良かったって笑っていた。



「ちゃんと今日も来ているな。この唐変木」
朝、自分の席でねむっていた太宰は声をかけられてその顔を思いっきり歪めていた。
「国木田君、毎日私が来ているかどうかを確認しにこないでほしいのだよ。教室隣だろう」
「中学一度も来ないまま卒業した男が偉そうに言うなよ。去年も今年を学校に来てはいるものの授業を受けてないこと知っているんだぞ」
「教室にはいるけどね」
「ほぼねてるだけだろう」
はあ、嘆かわしいと国木田が頭を抱えている。ごろりと机の上突っ伏す太宰はいいじゃないかとのんきなものだ。はあとあくびをしつつ寝ようとしている。
「おい寝るなよ。授業をちゃんと受けろ。いくらテストの点が良かろうとそう不真面目だといつ成績を落とされるか分かったもんじゃないぞ。
あのお前のお隣さんか毎日起こしてくれているのだろう。小学生に述惑かけているなどその時点で信じられんのだ。せめてその分しっかり卒業してやれ」
「別にこっちが頼んでやってもらってるんじゃなくて、向こうが勝手にやってくるだけだからそういわれても困るのだけどね。
でもまあ安心したまえよ。そもそも私がどんなに不真面目を態度取ろうと、授業中一度もおきることがなかろうと先生達は私を留年させたりはしない。無難な成績をつけて次の学年に上げてくれるし卒業だってさせてくれる。
だってみんな私に早く消えてほしいからね。
早くいなくなってほしいの。だから君に気にしてもらう必要はないよ。いい加滅、君も私の世話なんてやくの止めた方がいいと思うけどね。折角次期生徒会長との呼び声も高いというのに、私何かの世話をやき続けていたら評判落ちちゃう」
うふふって太宰は机の上から顔を上げることもなく笑っている。笑ってはいるもののまったく楽しそうではない姿だ。国木田の目がその姿を映し、眉間にわずかなしわができていた。
手が顔を抑える。そうしながら吐息が吐き出されていた。
「その程度のことで落ちる評判などを元からないも同じだ。くだらぬことを言う暇があるならお前はもう少し自分の態度をあらためてみろ。そうすればもう少しく
らいは周りだって」
「別にいいよ。興味ないのだよ、私は全部がどうでもいいし、周りの人の話も本も全部がただ退屈何んだ」
つっぷした顔、国木田の方も見ないで色あせた瞳はどこかを見ていく。そっと落ちていく吐息。全くお前はってそんな言葉がでていた。
「それだから小学二年生にまで世話やかれるんだぞ。一体何才差あると思っているんだ。恥だと思え」
「それとこれとは話が別なのだよね~。諭吉は私が何しようと世話やいてくるからもうどうしようもないのだよ」
「世話されるのが難だったんじゃないのか。前にそう言っていたよな。それならもう少し努力してみたらどうだ」
「嫌だよ、嫌だけどだからって何かする気にはならないの」
はぁって太宰から吐息がこぼれおちていた。机の上で太宰の体が転がる。だらしなく手が下に下がりながら、あのね。何て言葉を太宰は吐きだしていた。
「今日気付いたけど私あの子のあの目が駄目なの。私しか見てなくて私を誰より愛そうとしてくれる。私のこと大好きな目。私を愛して慈しんで大切にして、そうして私の心までドロドロにとろけさせてしまいそう。
その目に大切にされたら、それ以外全部駄目にされる。他のもの何て見えなくなってそれだけを見つめてしまうの。でもね、そうやってとらわれた後、その目がなくなったら私は何に縋って生きればいいの」
ねって太宰の唇から音は飛び出ていくけれど、それが自分に問いかけてのものではないことぐらい国木田も分かっていた。口を閉ざして太宰を見つめてしまう。太宰の体は別に震えてなどいないけど、彼の目には覚えているように見えたまるで泣いているように……。
そんな幻覚を追いだして、太宰に声をかける。
「もう朝礼の時間だ。俺は教室に戻るがお前はちゃんと授業を受けろよ」
「授業まじめにでなくていいって話だったじゃん」
「真面目に受けろって話だ!」
「はいはい。ガミガミうるさいのだよ。国木田君は」
はあって吐息を吐いて太宰の目は一瞬だけ国木田をみていた。すぐにまたそらされて机の上で腕につっぷす。そうしてから太宰の目が再び国木田を見ていた。誰のせいだと怒鳴っていた国木田は肩を怒らせて太宰を見てる。その国木田の目元を見て太宰は首を傾けていた。
「おや、どうしたのだい。隈ができているようだけど。······一応言っておくと睡眠時間を削ってまで勉強するのはあまり良くない。日中の集中力も弱まって授業を真面目に聞けなくなるし、徹夜が続くと気憶力を落ちて勉強しても意味がなくなる。真面目にこつこつ。普段の君でいいのだよ」
「ええい、貴様に言われずとも分かっておるわ。……まあ、心配してくれたのはありがとう。ただ気にするな、睡眠はしっかりとっている。
夢見が悪いけれどな。まあ、夢などすく別のものにかわるだろろ」
「ふ〜〜ん」
「それよりちゃんと授業受けるよ」
言い捨てて国木田が足を翻していた。まだ目元を見ていた太宰は小さく声をこぼしていたもののまあ、よいかと机の上につっぷしている。勿論授業を受ける気などはなかった。
腕の中顔を隠してしまうのに、ふっと誰かがぶつかるような音とすまぬと謝る国木田の声が聞こえていた。そのすぐ後に視線のようなものを感じた。一瞬だけそちらを見るけれど視界の中、赤い色が映るとすぐに興味をなくして目を閉じていた。

次に太宰の目が開いたのは起きろこの唐変木って国木田の声が聞こえてきたからだった。
ふわぁ〜〜ってあくびしながら起きあがった太宰はおはようとのん気に口にする。
「おはようじゃない。授業に出ろとあれほど口をすっぱくして言っておいたのにまたでてないだろう」
「授業に出たことになってるからいいの。それより今日も起こしてくれてありがとね。国木田君のおかげで閉じこめられることがなくて助かるよ」
「俺だって起こしたくて起こしているわけじゃないお前はもっとって」
くどくどと説教していた国木田の肩か話を聞かずに太宰が取り出したものを見て落ちていた。呆れた吐息が出てい<。またお前はって声を太宰は笑って聞き流していた。
いただきますと手を合わせている。太宰の目の前に広げられたのはお弁当である。ご丁寧にお手拭きまでついていた。
「弁当を放課後に喰う奴があるか。 昼に食べろ昼に」
「寝ていたのだから仕方ないだろう。普段は移動教室がある時に起きるからその時食べるけど、今日は何もなかったから食べなかったのだよ。でも食べてないとまた諭吉に怒られるからね。こうして帰る前に消費していくのだよ♪」
パグパクと太宰が弁当の中を食べていく。国木田が頭を抱えているが、それにしてもとその弁当の中身を見ていた。
「そのからあげ冷凍か?」
「いや、これも多分諭吉の手作りじゃないかな。こないだ揚げない揚げ物レシピみたいな本を買ってたし·······。一応私の家で料理してるから監督責任みたいなもので揚げ物禁止にはしてあるけど、もういいんじゃないかって気がするよね。主婦顔負けレベルだよ」
「いや、まだ早いだろう。本人の意思とは言え今ですら何かあったら対処に困る。向こうの親が裁判とか言いだしたらそれこそまずいだろう。だが確に主婦顔負け。また腕を上げているな。見ているだけで涎がでそうだ」
「食べる。何てあげないけれど」
太宰の口の中に少しこぶりのからあけが放りこまれている。羨ましそうにしていた国木田が肩を落とすのに太宰がケラケラと笑っている。
「いらんがしっかり食べてやれ。お前の為に毎日作ってくれているんだしな」
「ん〜〜そうだね、こう言う所が凄く重いのだけど、でもとても美味しいのだよね」
言いながら太宰は食べ終えてた。手を合わせて片付けを始める。 数分で終わると立ち上がり待っている国木田を見る。
「んじゃ、帰ろうか」
「そうだな」
二人は教室を出て、廊下を歩いた。階段を降り、下箱へと辿りつく。靴をはきかえ外にでてすぐだった。歩く二人の脇、グランドを囲むフェンスが大きな音を立てて揺れた。ボールがとんとんと転がる。国木田は肩を跳ねさせていたが、太宰はそちらを見ることもなかった。ボールをとりに赤毛の男が来る。
その男は太宰を睨むが、太宰が目を向けることはなかった。そのまますたすたと歩いていく。赤毛の男との距離がはなれていく。一瞬立ち止まってしまった国木田があわてて後を追う。
「お前大丈夫か?」
「何が~?」
かけよった国木田は肩を寄せて心配するが歩く太宰はのんきなものであった。
「中原のことだ。今日の朝、あいつにぶつかられたが、何やら笑っていて気味が悪かった。何か企んでいるのかもしれんぞ」
「でもぶつかられたのは国木田君でしょう。私には関係ないじゃないか」
「阿呆、目を付けられているのはお前だろうが。中学三年引っ越してきた当初から何故か彼はお前を目の仇にしている。何か仕掛けられるとしたらお前の方が可能性は高い」
あ〜〜何て声が太宰から出ていく。
「私はこれっぽっちも興味何てないのにね」
「お前がそうだからじゃないのか。大体奴は転校してきた時、やっと見付けたとか何とか言っていただろう。お前がどこかであって忘れているのではないか」
国木田から出ていくため息。歩きながら太宰はのんきに首を捻っている。
「私は気憶力がいいからそんなことはないと思うけど……」
「お前は気憶力が良くても人への興味関心が薄すすぎるから仮に忘れていても驚かんぞ。もう少しでいいから人へ興味を持て。大体昔はまだ〜〜」
そこで国木田の言葉は不自然に途切れていた。隣を歩く太宰がそちらを見る。足も止まろうとした。
「太宰」
聞こえた声に二人の視線はそちらに奪われる。そこにいたのは福沢であった。太宰を見ては目元をゆるませている。帰ろうってその小さな手が差し出されていて、太宰は国木田にじゃあねと手を振っていた。あぁって答えた国木田を福沢が見て「今日も太宰をありがとうございました」と頭を下げている
いつものことであるが国木田はい、ああ、いや、何て言葉だけが出てい<。「お気を付けてお帰りください。さようなら」と丁寧に頭を下げた後、行こうと太宰の手を握って福沢は歩きだしていた。
二人の姿を国木田が呆然と見送っていた。並んで手を繋いで帰る。と言っても太宰の手は握られているだけだが、福沢の手の力、子供の癖して強くて引き離すことも出来ない。太宰からいつものように吐息が出ながら、福沢を見下す。
「ねえ、諭吉。前から思っていたのだけど、何で国木田君には警護なの?」
「何でってお前が敬語でなくてもいいと言ったのだろう」
「それはそうなのだけどそうではなく·······」
「それとも太宰さんは敬語がいいんですか?  貴方がそう望むのなら僕はそうしますけど」
握る手は変わらないまま福沢は太宰を見上げていく。銀の目が己の姿を映すの太宰は見下し、その息を飲んでいた。その目が少しだけ寄って、口元が曲がっている。福沢の目が優しく太宰を見ていた
「寂しい? 大丈夫。お前が嫌なら私はこのままだから、全部お前が決めていい」
ふわりとゆるむ目元は太宰を映す。そうして微笑む福沢に太宰の口元はへの字になっていく。 太宰の手が福沢の頬をつまんだ。
「可愛いのに諭吉は生意気すぎるのだよ」
「ふ、ふ、可愛いからかな、それに俺にとって一番親しいのは、太宰だから。太宰だけが一番だから、だからこれでいいんだ。親しいのはお前だよ」
太宰の目がまた見聞いていた。



あれと太宰が首を傾けたのは家に帰ってからしばらくしてからのことであった。どうしたと問いかけてくる福沢をじっと見ていく。
「諭吉、今日剣道の日ではなかったかい? 道場にいかなくていいの?」
太宰の首がさらに傾いていくのを福沢の目が見ていた。ああと言う少し低くなったような気のする声が福沢から出ていく。その目は一瞬床を睨んでから太宰を見て微笑んでいる。
「今日はいいのでお前と共にいたいしな」
「……私は保護者でもないからごちゃごちゃ言うつもりはないけど·······それいつも学校行けって口うるさく言ってくる者の台詞ではないのではないかい」
「学校と道場は違う。それに剣は教わらずとも己で鍛錬できるからもともとわざわざ行く必要をなかったのだ。
打ち合う相手をおらぬしな」
はぁと太宰はつまらなそうな顔をして吐息を吐いていた。もういいけどと出ていく声に福沢の肩は小さくなでおろされていた。



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