赤い火が燃えていた。
 ごうごうと激しい音を立てて山の上に立つ館の全てを包み込んで燃えていた。助かる命なんてないだろう。その日を前にして己の中で何かの糸が切れるのを聞いた。


ぱちぱちと乾いた音が聞こえてくるのに敦はふっと我に戻っていた足元が崩れて倒れ落ちながら己の前の光景を見つめてしまう。そこに在るのは赤い血。
 そして……そこに倒れる男の姿。
 ごろりと首が転がって
 ぱちぱちとまた軽い音が響く。全部が全部作り物のように思えてしまう軽い音。その音を立てて男は笑っている。そして赤い色など何も気にせずに歩いてくつを汚す。浮かべた笑みは凄いねなんて感嘆の声を零していた。
 叫び違った声が音にならずに掠れた吐息になっていく。そんな敦の前で男はなおも笑っている。
「そんなに行きたかったの」
「あ、ああ、……あ」
 男の声は優し気に敦に聞く。だが敦は答えられない。己の体に纏わりついた赤を見、そして床の光景を見下ろす。そこに転がる男を。
 その男が生きていた姿を敦は思い浮かべることができる。
 先ほどまで見ていた。敦が……
 ふふってその柔らかな声が聞こえる。敦の目は男を見ることができない中で男の手が敦の顎を掴んで無理矢理その目と目を合わせてくる。
 大丈夫。なんてその男が囁いた。
「生きたいと思うことは悪いことじゃない。その為に人を殺めることもあるだろう。それを君は気にしなくてもいい。彼は君を殺そうとしたんだ。君は己を害するものを振り払っただけ。人は生きるために生きている。そんな欲望を考えれば仕方のないこと。
 まあ、私にはないのだけど」
 男の手が柔らかく触れては敦の頬を撫でていく。その手にまで赤い血がついていた。姐と男が囁く
「おいで。私と一緒に行こう」
 ふふと微笑む男を敦は呆然と見つめた。


「はぁ? 今……何って……」
 呆然とした声がでていくのに太宰はふっふと笑っている。美しくて見る者の心を虜にしていく笑みだが、そんなものに今の敦は騙されたりしない。その目は大きく丸く見開いて太宰を見ている。
 手から零れたスプーンがカラント音をたてたが、それは二つ重なった。
 久しぶりに夕食を共に食べていた鏡花と芥川の二人も敦と同じような顔をして太宰を見ている。彼らも今なんてと同じ言葉を繰り返す。
 だからねと太宰が柔らかく笑う。
「私に恋人ができたのだよね。その人にもっと私と過ごしたい。共に暮らさぬかといわれたから私はこの家を出ようかと思うのだよ。帰ってこないわけじゃないけど、週に三回だけとかになるかな。
 でももう三人だけでも問題ないよね。芥川君は大人だし、敦君も立派に成長した。二人とも最近は喧嘩もしなくなったしね。というわけでしばらくしたらでていくから」
 にっこりとそりゃあもうにっこりと笑う太宰を三人の目は見てそれからはあと大きな声を出していた。
 芥川が壊れたレコーダーのように恋人とその言葉を繰り返し、鏡花がスプーンをしてはいけないも力をして誰と聞いている。敦もまた太宰に詰め寄っていた。
「駄目ですよ駄目! 太宰さんに恋人なんて絶対おかしい! ありえません。
 そうだ、太宰さん自分のことなんてどうでもいいからいい寄ってきた人の言葉をあっさり頷いたんでしょう。そんなのだめです。
 太宰さんはもっと自分を大切にしてください」
「え……。いや」
「癪だが人虎の言う通り。太宰はさんはもっと自分を大切にするべきです」
「振るのが無理なら私がやるから」
 敦が思いのままに叫んだ。その言葉を受けた太宰は戸惑う様子を見せるが、芥川や鏡花は己を取り戻して太宰をじっと見つめてきている。大切にしてと言われる太宰はえーーと声を零して、頬をかく
 そうはいってもと太宰の目は三人を見た。
 あのねと呟く声。目が流れた。
「私が好きな人なんだけど。……告白されたからとかじゃなく、むしろ告白したのも私の方だし」
「「「は」」」
 また三人の目が見開いていた。
 はいと声が出て芥川が膝から崩れ落ちていく。太宰さんがってまた壊れたレコード〜のようになっていた。敦は固まって……、そんなわけないって叫んだ。
「太宰さんが好きな人とかありえません。貴男自分がどんな人かわかっているんですか!自分を誰よりも大切にしない人でしょう。好きとかありえないじゃないですか」
「えーー」
「僕がどれだけあなたのことを心配してきたと思っているんですか」
「いや、それは悪いと思うけど、でも私のことだって信じてほしいな」
「「「無理です」」」
「そんな強く言わなくとも」
 敦だけでない。呆然自失としていた二人までそろって太宰の言葉を否定していた。じっと見つめられて肩が少し寄っている。ん−ーと声に出す彼はじゃあどうしたら信じてくれるのだいと敦たちに向けて問いかける。
 三人が目を合わせた。
 膝を床につけた芥川が目をそらし、鏡花も目をそらしていく中で、太宰の目はじっと敦に向けられ問いかけている。ええっと敦から声が出て見つめてくる太宰を見ては目をおよがせた。
 それはそのとでていく声は先ほどまでと違い弱い
「じゃあ……じゃあ、恋人に会わせてください!」
 そんな声が出ていた。




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