コナン猫の日

「社長!! 貴方の太宰が来ましたにゃーーん!」
 そろそろおやつを食べようかという時刻。聞こえてきた言葉に探偵社の面々は耳を疑い、飛び込んできた姿にその目を丸くしていた。扉を音が出るほど勢いよく開けた太宰は満面の笑みを浮かべている。
 それはまあいい。
 今日は事前、と言っても一時間前だが、どうしても今日行きたいというのでそちらに向かっておりますと保護者である阿笠からも連絡は来ていた。問題はその太宰の姿で何故か頭に茶色の猫の耳をつけ、手にはもふもふとした猫の手を付けているのだ。
 そんな太宰は、そろそろ来る頃かと部屋から出て待っていた福沢を見つけると社長! とその小さな体で掛けていく。飛び跳ねるように抱きつく体を抱きとめながら福沢の目は太宰がつける猫の耳を凝視していた。
 お邪魔しますと遅れてやってきたコナンと阿笠が呆れた目でそんな太宰を見ていた。はぁとコナンから出ていくため息
「太宰……。何だその姿は」
 少し引いた声に聞かれても太宰は笑顔のままだった。よくぞ聞いてくれたとばかりに見ていた他の者たちが全員顔をそらす。
「今日は何と2月22日、2が一杯で猫ちゃんの日にゃのだそうです! あゆみちゃんから教えてもらったにゃんですが、これはこんにゃ日でもきっと猫から逃げられるだろう社長のために私が猫ちゃんににゃってあげにゃければと思ってやってきましたにゃーん。
 今日一日は私は社長の猫ちゃんにゃので一杯構ってくださって構わにゃいにゃんですよ。にゃー」
 輝かんばかりの笑顔。
 そらした者たちが一様にため息をついていく。国木田は椅子から崩れ落ちそうになりながらなんとか机にへばりついていた。彼が抑える机がめきめきと音を立てていて近くの席の敦が少しずつ距離を取っている。
 みゃーみゃーみゃーーん。
 知ってだろう。太宰は上機嫌に笑いながら抱え込まれた腕の中福沢のもとに擦り寄っていた。天井を見上げる福沢。その手は太宰の頭についた猫耳を触っている。
「あーー、今日は私の家に泊まるということでいいか」
「にゃん!」
「? 明日の学校はどうする? 送っていけばよいのか」
「にゃんにゃん」
「??」
「あ、そいつなら駅にまで連れて行ってくれたら帰ってこれるんで、甘やかさなくてもいいから」
「コナン君!」 
 福沢の顔が凍りついて太宰を見ていた。ぴくりとも筋肉を動かさないまま静かに見下される太宰はみゃーーってちょっと小さな声を出しては上目遣いで見上げる。コナンからため息が出ていた。
「何故喋らん」
 みゃん? 太宰の首が傾く。その目はキラキラとしていて……。
「にゃ、にゃにゃん」
「……そうか」
 いや、何がそうかなんだ。二人を見守っていたというより、そうするしかなかった全員が思ったが口に出せるものはいなかった。国木田なんかは頭と胃を抱えてへたり込んでいる。あ、じゃあって片足をもうすでに事務所の外に逃しているコナンが手を降る。
「僕たちもう帰るんでそいつのことよろしくお願いします」
「あみちゃん、いい子にしとるんじゃぞ」
「はーーい! ばいばい! また明日ね!」
 挨拶もそこそこに帰っていく二人。まるでというか間違いなく逃げていく者の動きである。何処となく来たときから疲れた様子を見せていた二人にまさか道中ずっとこのテンションだったのかとみんなの目が太宰を見てしまう。それとは違う意味で福沢に凝視されている太宰はにゃにゃーーんと喉を鳴らしてはその喉を少し見せるように首を上げていた。
 見下ろす福沢の指がしばらくして太宰の顎の下を擽る。みゃーーと心地よさそうな声をあげた太宰はゴロゴロと喉を鳴らしては福沢の腕の中で伸びていた。
 探偵社の事務室。自然と全員の目が福沢と太宰から離れて各々の仕事をし始めていた。


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