また一週間後、福沢はいつもの通り、路地裏に来ていた。そこで少女が来るのを待つ。今日は朝のうちには来なかった。もしかしたらと思って朝ご飯を食べてきていなかったので昼になるころにはだいぶお腹が空いていた。次からはおにぎりでも握ってくるべきだなと音のなる腹を抱えながら、少女が来るのを待つ。
少女が来たのはその日はだいぶ遅く、夕方を過ぎたごろであった。
遅くなってしまい申し訳ありませんと少女が申し訳なさそうに謝るので、福沢はすぐに大丈夫だと伝えた。
「忙しいのだろう。私には時間があるのでいつまでも待っている。気にすることはないさ」
柔らかく伝えると少女は少しだけ不思議そうにした後、小さくその口元を歪めていた。ありがとうと小さく聞こえてくる声。優しいんですねと少女が微笑んだ。
行こうと伸ばした手を少女は掴む。
時間次第では先にデパートの中を回ってみるのがいいかと思っていたが、そんなことをしている余裕が福沢の方に今日はなかった。いつ来てもいいようにと動くことなくずっと待っていたからお腹はもうペコペコだ。少女と歩いている間も腹はなって、申し訳なさそうにしていたからすぐにでもフードコートへと足を運んでいた。
「今日は何を食べる」
「んーー、どうしましょうね。今日はお腹いっぱいすかせてきたので、沢山食べられるんですよ。そうだな、うーーん、あ、私あれ食べたいです。から揚げって人気料理なのでしょう。名前だけならば聞いたことがあります」
「そうか。ではあれにしようか」
少女が指さすお店を見て少しだけ驚いたものの顔には出さなかった。まさかから揚げまで食べたことがないとは。本気で砂糖菓子しか食べさせていないわけではないよなと不安がよぎってしまう。ただ他所の家についてあまり深く踏み込むのはよくない事。
聞くことはせずに少しできている列に並ぶ。
「セットでいいか」
「はい。お願いします。福沢さんは今日は何にするんですか」
「そうだな。腹も減っているし私も今日はからあげでいいかな」
「あ、そうですか」
すきすぎて選ぶのも面倒になっていた。その為すぐに答えたが少女の様子が少し変わった気がした。何というか少しだけ悲しげだったような。期待を裏切られたようなそんな感じであった。少女を見てすぐに気付く。
「やはり変えようか」
えっと少女が福沢を見上げた。その目は悲しみが消えて期待が滲んでいる。そんな感じだ。当たりだったかと口元を少し綻ばせ店内を見渡した。変えようかと言ったもののどれがいいのかすぐには思い浮かばない。
フードコート内のものはもう大体少女は食べていた。そろそろ別のデパートに行ったほうがいいかとも考えていたところであった。きっと新しいものが喜ぶだろうがどうするのがいいのか。生パスタや中華料理店などはまだだがそれは食べていると流石に思いたい。からあげは食べてなかったけど。
少女の父は可愛い女の子は砂糖菓子しか食べてはいけないみたいな発言をしていたらしいから、可愛くない感じの食べ物ならきっと食べていないのだろう。それがなにか食べ物をそんな感じで見たことがないからわからないが、必死に考えていく。ふっと映ったのはラーメン屋のメニュー看板だった。それを見て決める
「ラーメンと炒飯のセットにしよう」
「炒飯? あ、中華料理ですよね。見た目が地味だから駄目って言われるやつ」
あまり派手でもなく全体的にシンプルだから可愛いの基準から外れるかと思って選んだものはどうやら正解だったらしい。この少女の父はどういうやつなのかその姿を一度で見たくなる。と思ったがとんでもないやつだろうから会わないですむなら、会わないでいたいなとも思ってしまっていた。少女が楽しみです。とニコニコ笑う。
そんな少女のためからあげ店てセットメニューを注文したあとはすぐにラーメン屋に向かっていた。お腹が空いているのでセットに煮卵とチャーシューのトッピング追加と餃子も頼んでいた。
席に唐揚げ定食とラーメンと炒飯のセットが並ぶ。フードコート二人分の席は案外狭くてぎりぎりだ。そう言えばこんなにしっかり二人で食べるのは初めてであったことを福沢は思い出した。
いただきますと少女がにこにこ笑い食べ始めていく。福沢は食べ始める前にもらっていた器の中、少女のぶんを少しずつ取り分けていた。少女の前にそっと置くと目が輝いて笑う。
「ご馳走様でした!」
美味しかったですと少女が笑う。幸せそうな笑顔。その姿をじっとみてからすでに終わっていた福沢は立ち上がる。少女も立ち上がって、今日もありがとうございましたと頭を下げていく。
それではと言いそうな少女に福沢は手を差し出していた。ほらと口にすれば少女の目がぱちぱちと瞬きを繰り返す。何ですとその首が傾いていた。
「もう遅いが少しは時間もあるだろう。食べるだけも味気ない。デパートの中見て回るのはどうか」
少女の瞳が大きく見開いていた。その中に福沢を移しながら口が小さく開く。ぱちぱちと2回瞬きして少女は戸惑ったようなそんな声を出した。
「いいのですか、これ以上はその」
「いい。貴君との時間は息抜きに丁度よいからな。もう少し長くいたい。……駄目か」
少女の目が福沢を見てくる。その瞳の中には不安だとか迷惑をかけてるだとかそんな色も混じっていて福沢は考えて言葉を紡ぐ。実際嘘はあまりない。仕事で話すことになる狡猾な大人たちより少女と話すのは好ましい。我がままな子供たちの相手をするよりは楽で心地よい。変態臭くて言うことはないだろうがころころと変わる表情を見るのもそれなりに楽しい。気になることはいくつかあるが総じて良い時間であった。
少女はじっと見ている。
少女の瞳はまるで何もかも映し出すような輝きがあった。そしてその瞳で見つめてきた後、暫くしてその口元を綻ばせていた。
「本当ですか。ヤッター! 私行きたい場所いっぱいあったんですよ。変態親父はお洋服とかふりふりふわふわのものしか持ってこないからそれ以外とか見てみたかったし、他にもちびがゲームセンター行ったとか話してたから行きたかったし、映画館とかも興味があるんですよ。このデパートに何があるかわかりませんけど、でもデパートって変なお店とかあったりして楽しいでしょう。よくちびがでかけたりする話をしているので知っていますよ」
弾けるような笑顔が福沢に向けられていた。少女の手が福沢の手を握りしめて力強く引っ張る。そんな動きに少しだけ驚きつつも福沢はああと頷いていた。
「何処にまずはいきたい」
「そうですね……、あ、今日はもう時間があまりないのでお洋服みたいです。女の子は可愛いカッコウが一番だよ。君にもそれが似合うからって動きづらいようなものしか寄越してきませんが、父の下は女の子の社員もいますからそういう服装だけじゃないこと知っているんですよ。
一度でいいのでそういうお洋服試着してみたかったんです。そりゃあ、こう言ってはなんですが、可愛くて美しいのでふわふわスカートも会いますが、細身なのでズボンスタイルだって思うんです。樋口ちゃんのあのスタイルちょっと憧れていたんですよね。格好いいし何より動きやすそう」
少女がねえと手を引っ張る。わかったと答えた福沢は頭の中にデパートの地図を描いていた。少女とくるようになってからなにかあったときのために全部頭の中に入れていた。それでは行こうかと引っ張っていく真逆に引いて歩き出した。
試着室のカーテンを開けて少女が出てきた。
服売り場につくなり凄いですと店の中を見渡した少女はその後の動きが早かった。いつも行くお店とは違うような服ばかり。ズボンもあるしふりるがなくてこちらの方が好きなんて言いながら品物をさっと見
、そして一セット分を手にしていた。好みだったのか、単純に似合うと思ったものなのかは分からぬが、福沢の知る女子の買い物より数倍早かった。一度だけ試着していいですかと聞いたあとは福沢が頷くや試着室に入ったのだ。
勘違いされぬよう少し離れた位置で待つ間も少女の楽しげな声は聞こえていた。ジャケットなんて初めて手にしたけど裏にポケットとか付いてるのだ。おお、こんなところにもある。便利。一箇所かもしくはついてないワンピースやブラウスより絶対こっちのほうがいいじゃん。だとか。凄い。ズボン動きやすい。ひらひらしてなくていい。だとか、やっぱりこっちのほうが私の魅力的なスタイルでて似合っているのだよ。本当あの人そういうことわかってないのだよとかそんな言葉だった。その中で聞こえた気の強くて可愛い子が私の好みの服を着てくれている姿が愛らしいんだよとか言ってくるけど、仮にも娘になってる相手にそんなこと言ってくるのがきもいのだよね。という言葉には一瞬だけ般若になってしまっていた。
心の中慌てて抑え込んでいたときひとしきり鏡を見て満足したのか少女が出てきたのだ。
「どうですか。……似合いますか」
試着したまま出てきた少女は試着室の中で散々自画自賛していたときの様子は見せず、少し恥ずかしそうにしていた。わずかにだけ固まりながら福沢は少女を見る。別に少女の変貌には驚いていない。女なんてものがそんなものであるのは何度となく付き合わされて理解している。固まったのは正解の言葉を探したからだ。何度となく付き合ってもこの瞬間だけはいつもなれない。褒めたところで喜ぶときもあればでもちょっといまいちじゃないか。本当に思っていると不機嫌になられるときもある。かと言って女子の服のことなど言えることなんてなくいつも取り敢えず褒めるのだ。
「良いと思うぞ。似合っている。その……いつも長いスカートで気付かなかったが足の形がキレイなのだな。その辺がしっかりと出ていて魅力的だと思う。それに大人っぽく見えるな」
その際ちゃんと自分なりの感想を言うことも忘れない。気分がいいときはいいが悪いと言わなければ何度も求められるのだ。だがいささか変態臭かったか。いつもと違う格好だからその中でも一番の違いを行ったほうがいいだろうと思わず口にしたが福沢は少し後悔していた。子供に言うような内容ではなかったのではと思ってしまうが、少女は嬉しそうに笑っていた。
「分かりますか。パンツスタイルは体型がよく出るのですが、今回はとりわけ足をよく見せようと細身でしっかり形のでるタイプを選んだんです。クールな感じで格好良いでしょう」
どうやら今回は正解を選べたらしい。少女がより一層楽しげになってくるりと福沢の前で回っていた。少女の言うように美しいスタイルであることが様々な角度から伺える。
そうして一頻り見せびらかしてから少女はそれでは着替えてきますと試着室の中に戻っていた。
数分後には今日着ていた服に戻ってでてきていた。綺麗に元に戻した服はテキパキとあった場所へと戻していく。それが終わると福沢の手を引いてふくうりばをでていた。
「はぁ〜! 楽しかった。ありがとうございます。今日はもうこれぐらいでいいですよ。でもよかったらまた次の時も回ってくれると嬉しいです」
少女の目が福沢を見てくる。伺うような瞳答えた一つでそれを言えば少女は笑顔を輝かせる。だけどそれを見る福沢には言いたいことがあった。
「さっきの服、買わなくてよかったのか。気に入ってただろう」
「え? なんですか。それは意地悪ですか。私がお金持ってないこと知ってるくせに。それに仮に持っていても家に持って帰ったりしたらあの変態父にバレますし買えませんよ」
少女の頬が大きく膨らむ。ジト目になる目。初めて見る表情だがそんな顔も作ったように愛らしかった。その顔を見下ろしながらそれもそうかと呟く。一セット程度など私が出してやると言おうとしていたところだが、後半の言葉には頷かざるおえなかった。デパートの入り口まで向かう。
「ではこのへんでそろそろ」
「否、今日は遅い。もう少し近くまで送っていこう。もちろん家を知ろうとは思ってないので大丈夫だと思える場所まででいいが、出来る限り近くまでは送らせてくれ。まだ十九時台ではあるが外は暗い。子供、それも女性が一人で彷徨くものではない」
少女の目がまたも大きくなって福沢を見る。何かを考えた後はすぐに頷いていた。そうしてではこちらですと前を歩き出す少女についていきながら一瞬だけ後ろを見てた。
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