最近少しだけ福沢には悩みがあった。太宰が犬になった時は家で世話しているのだが、その時太宰がやたらと福沢の着ている羽織を奪っていくのだ。福沢が羽織っているのを見れば足にじゃれついて、撫でようとしゃがんだところを素早い動きでかっさらっていく。プロによる計画的犯行である。
 何度か繰り返され分かったもののその罠から逃れられたことはない。
 その他にも風呂に入ろうと羽織を脱ぐと待ち構えていたようにやってきては取っていこうとする。羽織どころか着ていたもの全部持っていこうとして、ふんどしさえ取っていこうとするので慌てて止めなくてはいけない。その結果ふんどしは守り切りそれ以外は奪われていくのが常だった
 それで太宰は家のどこかに隠しているようで、福沢の棚から確実に着物が消えつつあった。どうにかやめさせるか、取り返すべきなのだが、何故そんなことが起きているのかもわからないのに無理に止めるのもどうかと躊躇ってしまう。
 着物だけでも取り返したいところだが、太宰がどこに隠しているのかが皆目見当もつかない。さすが太宰と言うのか長く暮らす福沢すら見つけられない場所に隠しているのだ。どうしたらいいのかと悩みながら福沢は今日も愛らしい動作に騙され盗まれていた。



「ああ、それは巣作りですね」
 何かあるのかとお世話になっている医師に聞いて見たところ、そう言われていた。ただの医師ではない。ポメガバースについて研究を行っている医師で福沢の話を聞くとすぐに分かったように頷いていた。
「犬は嗅覚がとても鋭いのですが、ポメガバースになったものもそれは変わらず、特に安心できる匂いに強く反応するのです。そのなかには匂いのするものを集めて巣を作るものもいるのです。そこが安心できるんですよ」
 なるほどと福沢から声が落ちていく。浮かぶのは太宰の姿。頬が少しだけ赤くなっていた
「ならば仕方ないな。ありがとう」
「いえ、仲が良くてよかったです」
家に帰れば太宰が迎えてくれる。
 小さな体が跳ねて足に纏わりついてはそのふわふわのしっぽをぬらしながら見上げてくる。とても愛らしい姿だ。くすぐってくる毛が心地よい。わんわんと鳴いてはころころと転がっている。そんな太宰を撫でたくなってしゃがむ。その瞬間太宰の体が大きくジャンプして福沢の羽織を奪い取っていた。小さな体が離れていく。寂しくなりながらも福沢は口元に笑みを浮かべて太宰の姿を見送る。
「さて、あれが最後の羽織だな。どうするか」


「太宰、私の羽織をどこに持って居ているか聞いていいか」
 ポメガ化戻った後、思い切って太宰に聞いた。羽織と太宰が一瞬首を傾けてから、その頬を赤く染めていた。こちらなのですがと案内してくれる太宰。それは福沢の自室であった。その部屋にある押入れを開けてその奥にはいる。
「この床、実は横にずれるんですよね」
 言葉とともに太宰の手は床を横にずらしていた。ぽっかりと地面に穴が開く。上から覗くとそこには福沢の着物や羽織が大量に押し込められていて
「……貴君はなんで私が知らぬ隠しどのことを知っているのだ」
「こういうの探すの得意でして。あるとつい探したくなってしまうんです。申し訳ありません。それからこんなにすみません。次からは気を付けますね」
「気をつける必要はない。好きに取っていてくれていいが、ただ元に戻ったら戻すようにしてくれ」
「……はい」


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