「拾っちゃった」
 雷が落ちたようなと言うぐらいの衝撃であれば長い人生何度も経験がある。が、雷が落ち火事になった上に地震がき津波が来るような衝撃を味わったのは今日が初めてであった。唖然と口を開けて見つめるのにその衝撃をもたらした人物は何その顔と実に不思議そうだ。
「それよりどうしよう拾っちゃった。怪我してるけど治るかな」
「け、けが? いや、え、あ怪我はしてるがそれより服を……」
 福沢は見開いた目で養い子、その腕のなかを見る。そこには何故か頭にうさぎの耳のようなものをつけた成人男性が抱かれていた。一体乱歩のどこにそんな力があったのかなんて考えることもできないぐらい福沢は男の存在に圧倒される。何せ男は裸だったのだ。
 白く筋肉の薄い肌を何一つ隠すことなく乱歩の腕に抱えられている。かなり体制がきついというか運ぶのも大変そうだが布団に丸まるように背を丸め足を体の下に隠すような姿で何もつけてない腰にもどうやってかうさぎのしっぽのようなものがついていた。それがふわふわと揺れている。
 服を着せたほうがいいんじゃないかってなんとか出た声。
 だが乱歩はその言葉にはぁなんて素っ頓狂な声を上げていた。心底心配するような目で見てこられる
「何言ってるの福沢さん。うさぎに服なんて着せる必要ないでしょう。それより早くどいて。与謝野さんは呼んでるからきっと治してくれるよね」
「え、いや、え」
 乱歩に押されながら福沢の目は何度もまばたきを繰り返す。今なんてとそう口から出てしまいながら乱歩の腕の中に抱えられた男を見る。
 蓬髪の髪にそして長い人の手足、肌の色。どこからどう見ても人でしかない。そりゃあ、うさぎの耳なんてものついてはいるが。
「お前は何を言って、それのどこが」
「無駄ですよ。この人には私が可愛いうさちゃんにしか見えてないですから。まあ、貴方からしても可愛いうさちゃんでしょうけど」
 はっと、乱歩を止めようとしていた福沢の口が開いたまま動きを止めた。乱歩の腕の中にいる男を見る。どうしたの大丈夫なんて聞いてくる乱歩の声は何処か遠くのような気もしてしまう。それぐらい男のことのほうが気になっている。男はニッコリと笑った。
「貴方性欲強いんですね」
そんでとんでもないことを言う。もう一度固まる。大丈夫なんて心配してくる乱歩だが原因はその腕の中だ。
「だって私が見えてるでしょう。私はどこぞの馬鹿げた異能科学者が作り上げた実験体で目的は性処理道具。性欲が一定以上強い人には本来の姿である人の姿に見えて、弱い人にはただの可愛いうさぎちゃんなんですよ。
 つまりあなたは性欲が強く、この人は性欲が弱い。さっきも言いましたがこの人には私はかわいいうさぎちゃんにしか見えてないんですよ」
 男は美しく笑う。卒倒しそうになる中、福沢さん早くしてよねと乱歩が声を荒げる。うさぎが死んだら恨むからねと怒鳴る声は成る程、確かに嘘を言っている様子はなく本物のうさぎだとおもっているようだった。
 乱歩の腕の中で裸の男は楽しげに笑い、後でやりますかなんてとんでもないことを言ってくる。それも乱歩の耳には届いてないのだろう。
 福沢は己の平穏な日常が崩れ去っていくのを聞いた。


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