春野は猫が好きだ。自他ともに認める猫好きで愛猫であるみぃーちゃんをそれはもう周りが引くほどかわいがっている。そんな春野の猫仲間と言えるのは本人に入っていないものの福沢であった。たまにどの道に猫がいた。あそこの猫が人懐っこく撫でさせてくれるなんて話をすることがある。ただ福沢の方は己が猫が好きであることはあまり表に出してなかった。なのでそんな頻繁なものではなかったものの春野は福沢との話が楽しみであった。
 そして福沢の着物についている猫の毛などを見てはひそかに猫と戯れてきたのだなと楽しんでいたのだが、
 ある日春野は気付いてしまった。
 福沢の着物についている毛が猫のものではなく犬の毛のものであることに。

「社長が猫じゃなく犬好きになった? そんなことあるわけないだろう。あの人は生粋の猫好きだよ」
「で、でも最近の社長は猫の毛よりも犬の毛をつけていることの方がずっとおおいんです。ここ数日も犬の毛をつけてきているんですよ。それに今までの毛は殆ど違う子のものでしたけど、……犬の毛はいつも同じものなんです。
 もしかしたら社長、犬好きになって犬を飼い始めてしまったのかもしれません」
「そんなまさか」
「でも」
「わかったよ。確かめてみるから」



 福沢の家に忍び込むため必要なことは二つ。
 まず玄関はつかなわい。少しでも変化があると福沢に気付かれる。ではどこからというと乱歩の部屋の窓から入るのが常だ。そして二つ目は福沢より早く侵入しておくこと
 あとからだとどうしても気付かれてしまうのだ。二年住んでいたのもあってなじんでいるせいか、先に来て隠れていると案外見つからなかったりする。
 そのために早めに帰って福沢の家に侵入した与謝野は乱歩の部屋に隠れて、福沢が帰ってくるのを待っていた。本当は家の中を見て回りたかったのだが、何かが動き回る音と、犬の鳴き声が聞こえて思わず隠れてしまったのだった。
 それからは何の音もしていないが、分かることは一つある。この家には今与謝野以外に犬がいる。
 犬がいるのか見つけてもいいが、それより福沢の反のを見て動いた方がいいそう思ったのだった。暫くして福沢が帰ってきた。ただいまという声が聞こえる。
 それからしばらくして福沢がおーーいと何かを呼んでいた。何か名前のようなものを口にして歩いている。犬を探しているのか。
 しばらくして音がやみ、代わりに犬の鳴き声が聞こえ始める。
 とても楽しそうな声だった。
 そろそろかと乱歩の部屋を出てとりあえず今に向かう。
 ふすまの隙間から覗いて与謝野ははあと声を上げていた。
 福沢の肩が跳ね、そしてその目が与謝野を見た。見開いた後、何故とでていく声。驚いているその横で福沢の足元がころころ転がる丸い塊。おそらく犬だ牢。
「なんで犬がいるんだい」
「なんでて、それはその」
「てか、それより何やってんだい!
そんなあほみたいな遊び方あるかい」
「は」
 猫好きと言っていながら犬と遊んでいるの見られて驚かれているのかと思っていたとおもっていた福沢は与謝野の言葉に固まっていた。何のことだと足元の犬をみる。小さな犬は福沢の足元に隠れていた。
「先なにをしてたんだい」
「さっきて、遊んでいただけだが」
 与謝野に問われて福沢は首を傾けていた。何を言われているんだというように犬を見ているが、その犬もまるでそういうように首を傾けていた。小さな鳴き声が出ている。
「ちょっと先までしていたこともう一回やってみてくれないかい」
「いや、もうそんな気分では」
「いいから」
 犬額うーーんとないている。福沢が引き気味なのに対して与謝野はぐいぐいと言って己の願いをかなえようとしていた。ほらという与謝野の顔は怖い。ため息をついて福沢の手が犬に伸び、抱きかかえ挙げる。そしてその犬の体を犬用スロープの上にそっと置いていた。背を柔らかく押してやるとコロンと丸まってふわふわした犬の体がスロープの上を転がっている。
 そして柔らかい布団の上に転がり落ちていた。
 楽し気に鳴いていた。
 与謝野の目が犬を見る。
「え、これって犬が登って遊ぶものじゃないのかい。これなんて遊びだい」
「……この方が喜ぶのだから仕方ないだろう」
  



[ 215/312 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -