まだ朝は早い。デパートの四階、そこにあるフードコートに向かう途中、福沢はお腹の方はすいているかと少女に問いかけていた。もしかしたらまだすいてないかもしれない。そう考えたからだが、少女の答えは福沢の予想と反対で朝食も食べずに抜け出してきたからお腹がペコペコだというものであった。
フードコートで食べるのをとても楽しみにしているというのに、笑いながら福沢の方はどうしようかなんて考えていた。まさかここまで早く来るとは思っていなくて朝食を食べてきてしまったのだった。別に福沢まで食べる必要はないかもしれないが、なんとなく同じ席にして一人食べていないのも相手に悪い気がする。小皿系でも頼もうかなんてそう考えていた。
フードコートは朝も早いからかとてもすいていた。過去二回はそこそこ人がいて座る場所を探すのが大変だったが、今日は何処でも選び放題といった感じで朝は人がいなんですねなんて少女がなぜか嬉しそうだった。席を先に決めて手荷物を一つ置いた後、フードコートの中にある店を見て回る。
今日はどれにすると聞くと少女は店をじっと見て、あれにしますと指さしていた。少女が指さしたのは黄色い看板が目じるしの長崎ちゃんぽんのお店であった。メニューが張り付けられているのを少女がじっと見っていた。
「ちゃんぽんというのがどういうものかわからないんですが、あの写真を見るとラーメンのように見えます。ラーメンの仲間ですか」
「否、確かあれはうどんではなかったか。皿うどんというぱりぱりとした、麺が特徴だったはずだ。その上にあんをかけて食べるんだったと思うぞ」
「あれうどんなんですか。麺が細いからてっきりラーメンだと思ってしまいました。面白いですね。食べるのもとても楽しみです」
少女が意気揚々と店に向かって歩いていく。福沢もその後に続きながらメニューを見ていた。メニューにはちゃんぽんの隣に美味しそうに並ぶ餃子の姿もあって、確かに一見したらラーメンのようだった。ラーメンを食べたくなりながら自分は餃子を食べようと決めている。
注文して席に戻る。渡された番号札は一番でどうも福沢たちが一番目であったようだった。人もまばらでほとんどいない。
料理ができるのも早くて水を取りに行ったりとしていたらすぐによばれていた。
長崎ちゃんぽんと餃子が机の上に並ぶ。いただきますと手を合わせて食べ始めると、福沢は別に頼んでいた小皿の上へ、餃子を乗せて少女に食べるよう差し出していた。少女の目がか輝いて福沢を見る。
「いいんですか」
「ああ。せっかくだ。たくさん食べたらいい」
「ありがとうございます。あ、私のも一口食べますか」
あーんんって差し出される一口分。福沢はそれを断っていた。お前が全部食べたらいい。そんなことを少女に言う。少女は嬉しそうに笑ったものの、どこか不服そうに口をとがらせては目の前にある皿を見た。
でもすぐに楽しげに笑って一口を食べる。
口の中に入れて咀嚼し呑み込む。その一連の動作をした少女はとっても美味しいです。とそう口にしていた。
「この麺の食感が独特でおいしいですね。あんが絡んで最高です」
にこにこと笑いながら食べ物の感想を口にする少女。そうかと頷きながら福沢ものんびりと餃子に手を付けていく。少女の方も餃子を食べては美味しいとそう笑っていた。口の中に頬張る少女を見る。どことなく癒されるものを感じる。
美味しいと口の中に食べ物をためた少女が言った。
愛らしい光景だったが福沢は何かその時引っかかるものを感じていた。だがそれが何かは分からなかった。
ごちそうさまでした。
食べ終わった少女が手を合わせる。美味しかったですと笑って、ありがとうございますと頭をまた下げてきていた。そんな少女に福沢はさてと考えていた。来るの事態が早かったからまだ午後にもなっていない。時間なら沢山余っている。どうするのか。どこかほかの場所にも連れていてみるか。そう考える中で、あのと少女の方が口を開いていた。なんだと福沢がとう。
少女は少しいい辛そうに目を泳がせて、眉をひそめていた。口元は少し前に出ている。深呼吸が数回聞こえた。福沢が見守る中、あのと少女はもう一度口にする。福沢を見てはすこしいうのを悩みながらも言葉は少女から出ていた。
「また来週も私と一緒に食べに来てもらえますか。あの……火曜日とかがいいんですけど
駄目ですかねと少女の首が傾く。余程緊張しているのか手をぎゅっと握りしめていた。もちろん福沢の答えは了承のものであった。少女の方が安心したように笑った後、また少しだけ目線を泳がせてから、では今日はこれでとそう口にもしていた。
えっと福沢から声がでていく。もうすこしいるのかと思っていたのだが、少女は名残惜しげではあるもののそれじゃあと一人帰っていていた。
追いかけようとしたものの福沢の足は止まる。食事ぐらいであれば付き合うと言ったのは福沢だ。少女はきっとそれを守ってくれているのだろう。もう少し言い方を変えればよかったと思いながら次回でいいかと今日は福沢もこのまま帰路につくことを決めたのだった。
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