それから二人はまたデパートのフードコートにきていた。そこで今日は何が食べたいと福沢が少女に聞く。少女の口元が小さくとがっていた。
「どうしましょうか。実は今日はお昼は人と一緒だったので食べないわけにもいかずしっかり食べてしまったのですよね。なのであんまりお腹すいてなくて。でもこんなチャンスあと何回あるかもわからないから今食べられるうちに食べておきたいんですけど……、この場合何処のお店のものを食べるのが正解なのでしょうか」
「ふむ、つまりは量が少ない方がいいということだよな。
 それであれば……あれではないか」
 うーーんと声を出して悩む少女。少女の話をじっと聞いていた福沢はフードコートの中を見渡して、一つの店を指さしていた。赤い看板の店。少女の目がそれをみて、大きく見開いていた。
 んとその首が傾いている。
「たこ焼き? ……丸いですね。上に載っているのはあ、鰹節という奴でしょう。見たことあります」
 少女は不思議そうに見つめては福沢の方を見てきていた。じっと見つめてくる少女はあれが何かを問いかけてきている。問われる福沢も首を傾けていた。何か分からないわけではない。ただ具体的にどういえばいいのかはわからないのだ。首を傾けたまま時間がたつ。二人の間を人が通り過ぎていく。不思議そうに見る者もいた。
 とりあえずと福沢の口が動く。
「うまいことは確かだ。食べてみたらどうだ」
 少女の目がぱちぱちと瞬きを何度かして、それから笑っていた。
「はい。じゃあ、買いに行きましょう」
 はやくと少女が赤い看板の店に向かって歩きはじめる。その後ろについていきながら福沢は己は何を食べようかと周りを見渡していた。長いこと待っているのでお腹が空いている。たこ焼きではお腹が張らないだろうと周りを見渡す。目についたのはラーメンであった。あれにしようと決めて、まずは少女とともにたこ焼き屋に行く。
 少女の意見を聞きながらたこ焼きを注文して目星をつけていた席に少女を連れて行っていた。ここで待っているように告げてからラーメン屋の方に向かう。ラーメンを注文し終わったころに丁度良くたこ焼き屋の予備札が鳴っていた。それを取りに行ってから少女の所に戻り、今度はまたラーメン屋に注文した分を取りに行っていた。 
 慌ただしく福沢が動く中で少女は福沢に言われた通り大人しく座りながら目の前のたこ焼きを興味深そうに見ていた。時々匂いを嗅いだりしながら嬉しそうに見ている。福沢がラーメンを手に戻ると待てをしている子犬のような目を向けてきていた。
 そんな少女に福沢は思わず笑ってしまっていた。これが福沢の所に住む子供たちであれば福沢が戻ってくるのまぞ待たずに勝手に食べているだろうに。
 席についてじゃあ食べるかと少女に向かって言っていた。少女の首が大きく動いてはいと笑顔を向けていた。
「では、さっそく」
 少女の手がつまようじを手にして大きなたこ焼きに一つ挿していた。あーんと口を開いて食べていく。あっつ! と少女が肩を飛び跳ねてさせていた。はふはふと口を大きく開けては空気を口の中で熱を冷ましていた。
 やっとのことで飲み込んで美味しいと少女が頬を落としていた。美味しいですと少女が笑う。
「タコが入っているんですね。あ、だからたこ焼きなんですか。でもこれ美味しいですね。何個でも食べられてしまいます」
 少女がにこにこ笑って食べている。とても美味しそうな姿。目元がほんの少しだが緩むのが分かる。少女の姿を見ながら福沢も己のものを食べ始めていた。たこ焼きとラーメン。結構なボリュームだがなくなるスピードは速い。
 少女はたこ焼きだけなのであまり相手の食べる速さを気にしないでいいかと思っていたからであるが、その途中で福沢は箸を止めていた。少女の手が止まっていることに気付いたからだ。
 どうしたのかと少女を見る。少女はまだお腹いっぱいという感じではなかった。ただ福沢を見て手を止めている。じっとその目は福沢が食べているものを見ていた。ラーメンをつるつると飲む。
「食べたいのか」
 ふむと頷いてから問いかける。少女がえっと声を上げて福沢を見た。フルフルと首を振ってそんなことありませんとそう言っていた。
「ただちょっと気になっただけで、……あの人私に隠れてよく食べているし」
 むうと口をとがらせる少女。じっとその姿を見て福沢は端に寄せていた蓮華を手にして箸でつまんだ麺から汁が机に落ちないよう気を付けながら少女に向けて差し出していた。ほらッといえば少女の目が大きくなって見てくる。
 首が傾きながら差し出された箸を見る。あーーんと福沢が口をひらいた。少女がそれでやっと意図に気付いてあーんと口を開ける。その姿はとてもうれしそうだった。
 少女の口の中に入れる。
 ぱっくりと食べた少女は嬉しそうに笑って、美味しいとそう口にしていた。
「これもおいしいですね。あの人が食べたくなる気持ちがわかります。でもちょっとこってりしすぎですかね。私一人だとその器全部は食べきれそうにないです」
 少女の言葉に福沢が己の器を見た。もうほとんど食べ終わっている器を見ながらそれもそうだろうとまた頷く。なんといっても福沢が頼んだのは大盛だ。確かに少女の細さでは食べきれないだろう。もう一口食べるかと少女に聞いていた。
 少女の首はまたも振られる
「食べてしまったらたこ焼きさんが食べられなくなりそうなので、十分です。さっきの一口で満足しましたしね」
 そう言って少女がまたたこ焼きを食べ始めていた。美味しいとそう笑っていた。


「今日もまたありがとうございました」
 食べ終わった後少女はにこにこ笑っていた。とても美味しかったですと少女がそういうから福沢はそれはよかったなと頷いていた。それよりどうすると聞く。
「今日はこのまま帰るか。それとももっと回るか」
「そうですね」
 少女が上を見上げていた。悩むようなそぶりをしているが、その実答えは決まっているような気がして、福沢は静かに待つ。少女は肩を落として笑った。
「今日はもう時間がないので帰ります。本当にありがとうございました」
「いや、よい。それで次はどうする」
 聞けば少女の目がまた大きくなっていた。驚いた目で福沢を見つめてきてへッとそんな声を出す。驚かれるのは分かっていたので福沢には少し愉快であった。どうしたのだとそう笑う。
「今日で終わりでいいのか。まだ全部食べてないだろう。食べたいのではないか」
 少女の目が福沢を見つめる
「いいのですか」
「ああ、それで今度はいい」
 少女の頬が赤くなってそれで微笑んでいた。
「では来週の金曜日は駄目でしょうか」
 少女の答えはすぐにでていて、福沢は少し考えてから頷いていた。その日は仕事の予定だが、特に大事な予定は入っていなかったので休みをずらすことはいくらでもできるだろう
「楽しみにしている」
 少女の目がまた見開いていた。今度はどうして驚かれたのか分からなくて福沢の首が傾く。あ、じゃあって少女が言って去っていた。



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