わんわんわんわんわん

ポメラニアンになった太宰は甘噛みをするのが癖である。ボールや犬の骨などをいつも甘噛みしている。その姿はとても愛らしくて可愛らしい。そして抱かれ撫でられるのも大好きである太宰は、その間に福沢の手を甘噛みしてしまうこともよくあった。
 ハムハムと噛むの姿はとても愛らしい。牙が皮膚を少し突き破ってしまうこともあったが、基本的にはそんなに痛くない。むしろ可愛らしさが勝って福沢はいつも甘噛みしてくる太宰をにやにやしてみてしまっていた。
 なのだが……
 福沢は太宰を見た。元の姿に戻った太宰は福沢の手を見つめては悲し気にしていた。ごめんなさいと呟いている。むうと尖った口元。泣き出しそうな顔だ。気にしなくていいことは毎回言っているのだが、いつも気にしてまうようだった。
 包帯を巻くことになるのでみんなには気にされてしまうが、福沢としては痕さえとても可愛くて満足なのだが。どうしたらと悲しそうに手当していく太宰を見ながら考え、福沢はそうだと一つ思い出していた。
「太宰、春野が飼い猫に手をひっかかれても嬉しそうにしていたのを見たことあるだろう」
「え、それはありますけど……。そんなところも可愛いってデレデレしてましたよね」
 話しかけたこと。太宰の目が瞬きをしながらも一つ頷いていた。あの時の国木田君の顔今思い出しても面白かったですよなんて笑っている。そうだったかはその時の国木田の顔を見ていない福沢は覚えていなかった。福沢はその時猫を視線で追いかけながらそうだよなと春野の言葉に頷いていた。
 猫もそうだが、犬の太宰もそうであった。
 それがどうしましたと太宰が聞く。
「その時と一緒だ。必死に手へ噛みついてくる姿が可愛くて痛みなど全く感じなかった。だから気にするな。今も全く痛くない。それに歯の形も可愛い」
 我ながら変なことを言っているとは思うものの福沢は自分の思いを正直にしていた。太宰は不思議そうにその首を傾けて福沢の手を見る。くっきりと太宰の歯の痕が残ている。ポメラニアンは小型犬。その牙の痕も幾分か小さい。かといって可愛いかと言われても太宰にはわからないのだろう。唇を尖らせて不満げに見ていた。福沢にしてみたら本当にかわいいのだが。
 まだ不安の残る太宰の頭を福沢の手が撫でる。
 小さな姿で甘えて噛みついてくる姿はとても可愛いし、何よりこうして心配そうに福沢の手の手当てをしてくる姿が可愛いのだということまでは福沢は言わなかった。
 それでも自分の口角が上がっていることは知っている。


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