太宰との付き合いは順調と言えば順調であった。問題もなく二人の時間を積み重ねていく。恋人の距離感というのを分かってきて慣れてきた。手を握り、可愛いと口にするのも得意になっていた。でもそれでいいのかと言えばそれでいい筈がなかった。
福沢は太宰と恋人としてよくなりたいわけじゃないのだ。
あくまでこれは手段で、福沢の望みは太宰が太宰として幸せになってくれること。きずつかなくとも、女装などしなくても愛されるのだと知ってもらえることだった。
だから今のままでは行かない。
ふくざわはそろそろ次の手を打ちたかった。
どうするつもりかと考えたが福沢が降ったのはただの太宰とともにいることだった。
夕食の誘いとかなら器用な男は仕事をうまいこと終わらせていく前に着替える可能性がある。だからそれが難しい昼食に誘った。
「たまにはともに昼はどうだ」
そういった時の太宰の褪せた目はとても大きく見開かれていてはいとその首は傾いていた。何も言われたのですかと見つめてくる目はぱちぱちとゆっくり瞬きをしてから太宰の首は頷いてく。わかりましたけどという声は疑問に満ちている。
どうしてと言いたげな声を聴きながらも福沢はよかったと安どしていた。
どこがいいかと考えて福沢が太宰を連れて行ったのは個室のある店だった。そこで二人きりで食べる。
「気をつかわずいつも通り過ごして言い」
いつものデートの時を指してそういったのに太宰はちゃんとそれを分かったようだった。一瞬が混じったようにしながらも頷いて、。それからいつものように下を向いていた。食べたいものはあるか、メニューを聞きながら福沢が聞く。太宰藩でもいいですと答えていた。メニューを見て福沢が考え込んでいく。
静かな時間はいつもとほとんど変わりなかった。違うのは食べるスピードが少し早いことぐらいで太宰は落ち着いているようであった。
「また共に食べてくれるか」
ふっと微笑んで太宰に問いかけた。太宰は少し驚いて福沢を見ていた。
それからゆっくりと頷いていく。
初めての昼食はうまくいったのだった。
それから二人で食べることが多くなった。一週間に一度から始まって少しずる増やして三日に一度の頻度で昼食を食べるようになっていた。
その間にも二人のデートは続いていた。
ただ二人で過ごすだけの穏やかなデートの日。どこかに遊びに行くようなものもあった。何処に行くかを決めるのは太宰で大抵デパートや遊園地など普段福沢だけでなく太宰もいかなそうなところが多かった。
恐らくわがままだったのだろう。そう何度目かの時に福沢は思った。その時は中華街に来ていた。
場所としてはいつもより難易度は低め。福沢がうろついていても特に違和感はないような場所だった。そこでのわがままはまずチャイナ服を期待から始まった。
今日はチャイナデートをしましょうと太宰が言ってきたのだ。当然のように分かったと答えた。
太宰は貸し出しをしてもらえるお店があると聞いたのですよねと言う話はするもののそれがどこであるかは言わなかった。
だからまずそこがどこにあるのかを調べてその店までいった。
女のショッピングは長いというが太宰のショッピングもそうだった。太宰のサイズに合うチャイナ服は数が少ないというのに長い時間悩み、福沢が着るチャイナ服を選ぶのにもまた長い時間をかけてチア。
選ぶのだけで多分一時間以上かかった。
そんな長い買い物に付き合うなど苦痛でしかないがそれは顔には出さないよう気を付けこっちの方がいいのではないか。それもまた似合っていると太宰の買い物に付き合った。ようやっと選び終え着替え終わると街の中に出る。
選ぶのに体力を使ったのかお腹すいたと太宰は言い出して、それで料理を食べ歩いた。
阿中には行列のできている所もあって最長だと三十分以上並んだだろうか。
並ぶのを嫌いそうな太宰がどうしてかと疑問に思ったのが初めだった。
それ以外にも太宰とのデートにはいろいろと疑問に思うことがあった。
何かあったのかと考えた。
答えが出てたのはそのすぐ後で太宰がどうしても食べたいというから福沢が二十分ほど並んで買ったものを一口食べてもういらないと言って福沢に渡してきた時だ。
太宰の目は食べる福沢をじっと見てきていた。その目は叱られるを待つ子供のようであったが、何かを期待しているような目であった。
その目にああ、なるほどと思ったのだ。
太宰のこれは本人も分かっているわがままで、きっと福沢を試しているのだと。
そう気づいた。我が儘を聞いてもらえるようなら愛していて、聞いてもらえなければ愛されていない。
そんな多少雑過ぎる疑問が太宰の中にあるのだ。それに気付いてからはいつでも太宰のわがままをかなえるようになっていた。どこかに出かけるデートの時だけのわがままは回数を重ねるごとにかなえにくいものになっていく。試す為のものだと思えば折れるわけにもいかなかった。
何とかやっていたのに最近では太宰のわがままは落ち着いてきている。
いい加減に分かってきたのだろうと福沢はほっとしてきていた。
そうだったのだが
「どうして私を誘うのですか」
いつもの昼食の席で太宰がそう聞いてきたのだ。問いかけた太宰の目は下を彷徨いながらも時折福沢を見てくる。何かを探し求めているようなその目は愛を乞う時の目に似ちえた。
好きだからだがと答えが出ていくのは早い。えっと太宰の目が見開いていく
「女装をしていなくても貴殿が好きだから。何も関係なくただ太宰治というお前のことを好ましいと思っているからだ」
ずっと言いたかった言葉を口にしていく。太宰の目は見開いていた。その目は知らないものを見るように見ていた。そしてその目をそっと歪ませていた。
そっかと太宰から穏やかな声が出ていた。
そして美しく笑って、そう何だって嬉しそうにする。私も社長が好きですよなんて太宰が言った。
「これからも誘ってくれますか」
「ああ。当然だ」
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