デートと言うのを福沢はしたことがない。だからどういうことをすればデートになるのかもよく分からなかった。二人で街を歩く。そう言うのをデートと言っていいのか。分からないが何時までも悩み続けているわけにもいかず福沢はついこないだ二度目のデートを実行している。
 一度目のデートは悪くはなかったものの、良いとはいいがたいものだった。デートコースは太宰が考えてくれたものだが、福沢が喜んでくれるようにと考えられているもので太宰が楽しめるものではなかった。
 始終緊張していて、気まずく感じられているのが伝わってくるようなそんなデートだった。今度のデートは福沢が考えて太宰が楽しめるようなそんなものにしたいとずっと考えていた。だがいい答えは見つからないまま当日を迎えることとなったのだった。
 そして今いるのは待ち合わせ場所に有名な駅であった。
 人が歩いていく駅の前で太宰が来るのを待つ。太宰は意外なほどすぐにきていた。遅刻癖のある男とは思えないぐらいの速さ。まだ五分前にもなっていなかった。今日の格好は赤いシフォンスカートに白のブラウス。鬘だろう黒く長い髪をそのままにして風邪に遊ばせてチア。
 当初福沢は全く気付かなかった。
 綺麗な顔だと思っていた男の顔は化粧によって愛らしい人形にまで変化されており、二、三歩離れた所で立ち止まって見つめることで太宰だと気付けた。
 治と呼ぶと太宰は嬉しそうに口元を小さくゆがめて福沢の元まで来た。あと一歩の距離だけ残す。手を差し出した。
 差し出した手を太宰が見つめる。その手をぎゅっと細い手が握りしめてくる。細くつややかな手だ。握りしめて福沢は少しの間言葉を探した。
 デートの待ち合わせ。その後に何と言えばいいのかと考える。太宰がじっと見てきていた。よい言葉は思いつかずまずはと太宰の姿を見つめた。少々幼くも感じる服。服に合わせて化粧も幼くしているのだろう。 
 全体的に愛らしい仕上がりだった。
「今日も可愛いな。その服も似合っている」
 太宰の頬が見る間に赤くなってそれから嬉し気に微笑む。ありがとうございますと小さく聞こえてくる声。つないだ手が少し強くなった気がする。
 歩き出した。そう言えば何処に行くのですかと太宰が問いかける。


福沢が太宰と連れてきたのは映画館だった。映画を映画館で見ないものでも名前だけは知っているような有名チェーンのお店ではなく、町にひっそりとある小さな映画館。そこに二人で入って映画を見る。
 内容はほんわかとしたふんいきのあるコメディもので福沢が初めて見るような内容だった。恐らく太宰もそうだろう。その映画を二時間見る。デートの内容を決める時福沢が一番困ったのは太宰の好みが全く分からない事であった。
 今度は太宰が楽しめるデートと決めていたが、どんなものが好きなのか全く知らず何がいいのか思い浮かんでこなかった。だから福沢は暫く太宰を観察したのだが、見えてくるものはなかった。どうも好きというものは特にないように思えたのだった。収穫〇。だけどその代わりに気付いたこともあった。太宰は恐らくだが町を意味なく歩くと言う行為が嫌いだ。嫌いというよりできない。
 ただふらふら散策しているように見えて、街を歩くときはあっちこっちのものを見て、町の情報収集をしている。そこからいる情報いらない情報を振り分け、気になることがあれば調べる。街を歩いているだけで堪えず情報を整理し取捨選択が行われる。それが習慣、もはや無意識下でのことであるから疲れてしまう。
 特に太宰レベルになると少し歩くだけでも収集できる情報は多いから当然だった。
 だから福沢はできるだけ歩かないデートプランにしようと決めた。ろくに仕事をしないように見えて、裏では人一番働いている男のためにもまずは休ませるためのデート。彼の脳が働かないで済むデート。歩く距離は少なく、また人はいない場所がいい。喫茶店などもいいがそこにずっとでは太宰はデートと思わないだろう、
 考えて決めたのがここだった。
 寂れた映画館の中には従業員も含めても一〇人程度しか見ていない。ついでに二人がいるスクリーンには二人しかいなかった。映画の内容も太宰を休ませるためだった。
 どうせ数年前の映画から等得られる情報を太宰は必要としないだろうが、それでもと思いただ頭をバカにして見られるようなものにしたのだ。
 ぼけええと見た後に次は昼食を食べ喫茶店に向かった。奥まった場所にある人の少ない喫茶店、周りからも自分たちからも見えにくい席につくとメニューを広げてどれにするかと聞いた。映画の感想などは特に言わなかった。太宰もじっとメニューを見ては適当に選んだサンドウィッチを指さしていた。
 丁度良いから福沢もサンドウィッチを頼む。具は別のものを選んだ。運ばれてきた料理を二人で食べる。喫茶店には落ち着いた音楽が流れて五r。
 デートの開始は一一時と少し中途半端な時間であり、今は昼を少し過ぎたころだったから他に人が入ってくることもなかった。
 太宰は基本的に人と食べる時はその人のスピードに合わせると言う事も観察して分かっていたので、いつもよりもゆっくりと食べていく。
 その後は近くにある小さな公園に行って時間を潰す予定だった。本当に小さく滑り台とブランコなどの遊具もないような場所で喫茶店と同じように奥まった場所にあるから人が来ることは少ない。そこでいい時間まで二人で過ごしてそして今日のデートは終了の予定だった。
 こう物足りないような気がしないでもないが、まずは太宰に休んでほしく、そして二人でいることになれて欲しかったから充分だろうと思っていた。
 サンドウィッチとともに頼んだ珈琲を飲む。少しそれは薄かったがあまり飲みなれない福沢には丁度良いぐらいだった。だが太宰には合わなかったようで一度口をつけてからは積極的にはつけていない。次の候補からは外すことにした。
 太宰との会話はなかった。
 黙々と噛みしめながらも何かを言ってくることはなく静かだ。机の上を見つめながらも時折福沢を見てくる。気まずく思われていないだろうか。もしそうならばどうにかしなければと少しの間考えたが黙々と食べている太宰には気まずい様子は感じられなかった。賢い男は福沢の考えを読み取ったのだろう。
 少々の緊張は感じるものののんびりしようとしているようだった。
 ことさら時間をかけて昼食を食べていく。食べ終わった後ものんびりとして過ごし、時が過ぎたころ店を出て公園に向かった。
 ビルや高い木で囲まれた公園は人の姿もない。ベンチに座り揺れないブランコを眺めていた。隣に座る太宰は綺麗な服を着ていてこの場所には不釣り合いのようにも思えた。
 暫くして日が暮れ始めたころそうそう変えるかと立ち上がった。夕食はどうすると太宰に聞く。一応お店は用意してある。食べに行くかと聞くと太宰は少し目を見開いて驚いたようにする。そうした後ゆっくりとその首を横に振っていた。
 いいですと苦い声が聞こえてくる。今日はここまででと太宰は言う。福沢はそうかと頷いていた。
 楽しかったと太宰は小さく囁く。だからまたと福沢が言えば太宰はこくりと頷いてそしてまたと言っていた。
 とても楽しかったですとそう言ってふわりと微笑む太宰。一度強く握りしめてから握っていた手を離した。



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