社長と一緒に私の好きな人と言うのを探すことになった。無駄だとは思ったものの私のことを考えて必死なになってくれる社長を前にするとその言葉は言えなかった。好きな人の探し方は簡単で探偵社にいるみんなとそれぞれ一日二人きりで過ごしてみるというものだった。
 何をどう感じただとか。そういうことを確認するのだ。
何故探偵社なのかと言うと社長が私は知らないものには恋をしないだろうといったからだ。好きになるとしたらとても近くにいるもの。考えられるのは探偵社の者たちではないかと言われそれは確かにと私は思った。
 見知らぬものに思いを寄せるほどふぬけたつもりはなかった。探偵社の者達でも怪しい。それでも社長が言うとおりにしてみることにした。


「なかなか難しいな」
「そうですね。やはり私が好きな人なんていないのでなはいでしょうか」
「……」
 結局私が好きな人など見つからなかった。どう考えても好きだと思えるような人はいなくて骨折り損のくたびれもうけである。それなのに社長はきっとそうではないというのだ。
 その銀の目を見た。
 長いこと付き合ってもらっている社長の目の下にはクマができている。最近は横になると吐くことが多くてその度社長が面倒を見てくれているのであまり眠れていないのだ
 とても申し訳なく思ってはいるのだけどそれを言うと社長はいつも気にするなと優しく笑ってくれるのだ。もう気にしないようになってしまっていた。
 好きでやっていることだから気にされる方がつらいとまで言われたのも原因の一つであった。社長は何処までも私にやさしかった。お前が好きになるとしたらきっととても優しい人なのだろうなと社長が言っていたが、社長より優しい人を見たこともあったこともなかった。
 社長のやさしさに甘えて今も手伝ってもらっているが、私はもうそろそろいいですと言いたかった。
 社長が頑張って解決してくれようとしているけれど私はもう既に諦めていた。好きな人など見つかるはずもないし、仮にもし言ったとしても両思いになれるなんてバカみたいなことは思っていなかった。
 私のような人間失格の男を愛してくれるような人がいるはずないのだ。もしそんな物好きがいるとしたらそれは社長のような優しい人だろう。そんなひとはまあいないのだ、
「やっぱりきっと勘違いなのですよ。少し不便ですが生きていけないわけでもないので私はこのままで大丈夫です」
 にっこり笑うと社長は唇をかみしめて私をみる。それは駄目だとそんな言葉が社長からでていく。
「そんな姿で苦しんでほしくないのだ」
「でも」
 社長の手が私の頭を撫で、私の背をたたく。なあと優しい目が私を見つめてくる。
「きっと見つかるはずだから」
 社長の声はいつだって力強く私を支えてくれようとする。だけど私は首を横に振っていた。もうこれ以上は嫌だった。
「……見つかりませんよ。だっていないのだもの。誰も思いつかないのです」
「そうだとしても……」
 社長が言葉を重ねようとするけど、私はまた首を振る。
「……探すのに疲れてしまいました。これ以上はもう嫌です」
「……」
 いるはずのない人をずっと探す。みんないい人だし。こういうところがお前は好きになりそうだなんて社長が話してくれるのは確かにと思えるものばかりだったけど、だからといって好きだとは思わなかった。傍にいるものとしてそれなりに好ましくはある。ただずっと傍にいることを思い浮かべることはできにない。好きって多分そういうことなのだと思うが全く分からなかった。それにもし敵になったらと考えた時すぐに殺せるなと思って、その考えた方に行きついてしまうことがもう嫌だった。好きの定義を自分なりに考えるのも疲れた。結局何も思いつきもしないのだから。
 社長の手が私の背を撫でていく。口を強く噛みしめて私を見ている。悲しそうな目だった。私が苦しむことを自分のことのように辛いと思ってくれている。
「すみません」
 あなたにそんな苦しい思いをさせて。そんな思いを込めて口にする。社長の首が緩く振られていた。
「否、私の方こそすまなかった。貴殿の気持ちを考えず。わかった。もうやめよう。
ただ私の家にはこれから先泊ったままでいてほしい。貴殿が苦しくないよう出来る限りのサポートをしていきたいのだ」
 社長の目が私を映している。私よりもずっと苦しそうなその目に頷くこと以外はできなかった。



 また花が出ていくのを眺める。
 吐き出すのにもだいぶ慣れてしまった。それでも吐き出すその間は息苦しくて社長の手が私の背を撫でてくれる。

 吐き出し終えた花を集めていく。袋の中にまとめてからごみ箱に捨てる。いつもの動作を社長はじっと見守っていてくれた。その手がなぜか動いていた。
 社長と声に出しながら見守ってしまう。
 社長の手は私が拾おうとしていた花を拾っていた。



 社長の口から花があふれていた。
 自分の目が静かに見開かれていくのが分かった。社長から零れた花を見る。花。白い色をしている。大きめの黄色い花も一輪零れていた。
 シーツの上に落ちた花。
 私の口元からも花がでていく。社長の花とはまた違う黄色の花と薄緑色をした花であった。社長が吐いた花と私が吐いた花が重なりあう。
 自然とでた花はまだ止まることがなかった。社長の手が私の背を撫でていく。奇妙な形の花がでていく。赤紫の花や、紫の花、葉っぱのような色をした花に、小さな白の中わずかに赤が見える花などたくさんの花が零れ落ちていた。
 こんなにもたくさんの花が出るのは初めてのことであった。
 何故こんな沢山の花が出ていくのかがわからない。目の前がどこかぼんやりとしていて社長の吐いた花だけが見えた。
 花がでていく。


 花がやむまでにはいつになく時間がかかってしまった。気づいたらもう朝になっている。社長の吐いた花が私が吐いた花で埋まってしまっていた。花で一杯になったシーツの上で私は社長を見た。
 社長は夜通し私の背を撫で続けていてくれて、大丈夫かと優しくその手でうっすらとかいた汗を拭っていく。心配そうなその目に答えることはできなかった。
 それよりも聞きたいことがあった。
 喉が震えた。
「社長好きな人がいるのですか」
 社長の目が少しだけ細まった。それはそのことを知っている者の目だ。社長はちゃんと己が好きな人に心当たりがあるのだ。誰を好きかわかっている。それでも聞きたくて、信じられなくて答えを求めて社長の名を呼んだ。
 社長の首が盾に振られた。そうだと聞こえる声。
 何故が愕然とした。唇が震えたまま言葉を重ねる。
「ではその人のももに今すぐ行きましょう。それで告白して両思いに」
「太宰」
 社長が緩く首を振る。優しい目で私を見る。その目は知っている。諦めたものの目だ。
「私のことはいい、気にするな」
「でも」
「私に好きな人はいる。でもその者とどうにかなるつもりはないのだ」
 尚言いつのろうとする私に社長は優しく話す。分かってと言いたげに背を撫でていた手が肩をたたいた。
「なんでですか」
「そのものにはもう他に好きな人がいるのだ」
 だからもう無理なのだと社長は言った。社長らしい答えだと思った。なるほどと思った。社長が吐いた花を見ようと下を見た。花は私のものに埋まって見えない。でも確かに吐いていたのだ。そのうちの一つの花は私でも知っている有名な花だった。花言葉は実らぬ恋だ。女性を手籠めにするときこういったものを知っているとよく思われるので有名どころであれば大体知っていた。自分が吐き出したものを見ても思い出したりしないが、社長のが吐き出している時は思い出してしまっていた。
 最初からあきらめていることを知っていた。それでも
「ではその人を殺しましょう。そして社長と付き合ってもらいましょう」
 酷いことを言っている自覚はあった。人として間違っている言葉だ
「太宰そんなことしても人の心は手に入らないよ」
 でもそんな私を社長は変わらぬ優しい目で見ていてくれた。驚くこともなく受け止めて、少しだけ嬉しそうにもしてくれていた。そうでありながらもやはり社長の首は横に振られていた。
 ふわふわと社長の手が私を撫でてくる
「私は大丈夫だ」
 社長の声が聞こえる。覚悟を決めたものの声。少しの寂しさが混ざっている。
「私はその人が幸せになってくれるのならそれでいいのだ。それが望みなのだ。
 多少不便になってしまったがな」
  社長が微笑んだその表情が歪んで、えずく。口の中から花がでていく。やたらと大きな黄色い花にさっきも見た白い花だった。
 社長がどれだけその人が好きなのか花を見るだけで分かってしまって、なんだか息が詰まった。何でなんてそんな声がでていく。
「なんでわかっていたのに触ってしまったのですか」
 それだけ愛している人がいながら。触ったらこうなってしまうことが分かっていたのに。どうしてと見つめる先で社長は苦し気にしながらも私に向けて優しい顔をしてくれていた。
「お前の苦しみを少しでも理解したくなったから。
これはとても苦しいな。やはり直した方がいいのではないか」
 花を吐きながら社長が言う。
「あなたはしないくせに」
「もう無理なことだから」
 声が震えながら社長を責めた。社長は困ったようにしながらももう変えようのない答えを口にしている。
「……私ももう無理なんです」
「そうか」
 社長の手が私の頭を撫でていく。なぜか今無性になきたいと思った。でも涙はあふれなかった


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