子供が今日も楽しげに学校の門からでていく。友達と話している者が多く、中には追いかけっこをして帰っているものもいる。
 とても平和な風景。
 まなじりを落とし穏やかな気持ちでその光景を見ながら私は進んでいく。子供のうち何人かが私を見て太宰のお父さんこんばんはなんて声をかけてくれていた。こんばんは気をつけて帰るようにと言いながら歩いていく。
学校まであともう少しというところで足を止めていた。目的としていた声が聞こえてきたのだ。本来なら目元を緩めるところだが今日はそうではなかった。
 求めていた声の様子がどうにもいつもと違うのだった。
 もう知らないもんと言っている声は怒鳴るようだった。いつもなら楽しげに国木田と話しているはずなのだが。怒鳴るとしてもそれは国木田の役割なはずだが、喧嘩でもしたかと見つめる先、校門から小さな体が飛び出てくる。褪せた目と目が合う。
あった瞬間にすぐ抱き着いてきて福沢さんと涙をためた目で私を見つめてきていた。
 聞いてくださいよと小さな体が叫ぶ。どうしたといえばいじめられたのとそう口にした。
 口から低い声が出ていく。完全に目が座って太宰を見つめる。その馬鹿は何処のどいつだと口から出ていけば太宰の目は丸くなってそれから口を閉ざしてしまった。。
 えっとそのと太宰の目が泳ぐ。
 答えはすぐに自分からやってきていた。てめえ、コラ待ちやがれと荒々しい声で攻め立ててきたのは太宰と同じ小さな体の子供。
 その子供のことを福沢は知っていた。かつて敵たいした組織の幹部の一人にして、太宰の元相棒で何かと太宰に突っかかっていた相手のことだ。
 その相手は真っ先に周りを見渡し、あん?と首を傾けてから私を見て顔を上げていた。そうすることでやっと視界の中に私が抱え込んだ太宰の姿が目に映る。あんと瞬きをしていた。
「てめえ、何やってんだよ。こら」
 かつての名前は中原とか言ったか。子供は太宰を睨んでは変な顔をしていた。奇妙なもの、宇宙人でも見るような顔であった。太宰の小さな口が尖って私の首に抱き着いてきた。
 そしてべっと舌を出している。
「中也の馬鹿。変な喧嘩しかけてくるのはやめてなのだよ」
 ふんとそっぽを向いて抱き着いてくる太宰。ぎゅうぎゅうしがみついてくる太宰に子供は顔を真っ赤にして見ていた。
「変なも何もてめえが悪いんだろうが、コラ! ああ、ふざけんなよ太宰」
 怒鳴る子供。今にもつかみかかりそうな姿に太宰は怖いと私の腕の中隠れた。どう見ても子供の喧嘩という奴でそこに親が混じっているようなあまりよくはない光景だ。子供の喧嘩に親が混じるなというのは大体どこの世界でも共通しているはずで。
 あまりいかない方がいいと思いつつも腕の中の太宰を降ろすつもりはなかった。べっと太宰は舌を出していて、てめえ降りて来いやと子供は怒っている。歩く子供たちが二人を見てひそひそと話していた。
 何か今日いきなり喧嘩していたみたいな話も出ていた。とんでもなく仲は悪いのだろう。
かつてもそうだった。
 それでも仲良くしているのでよくわからない二人だ。
 後ろについてきていた国木田がどうしていいのか助けを求めるように私をみてくる。求められても私に求めていいのかと聞きたくなるのだが、国木田としてはいっぱいいっぱいなのだろう。
 記憶があるといっても精神的には子供なので一人でこの問題児たちを纏めるのは大変だろう。まあ、問題児なのは他の誰でもなく私の腕の中にいる太宰だけであるのだが。
 その辺は気にしないことにしていた
太宰はクレームをつけられるかつけられないか、そのわずかな範囲の見極めがうまい。彼に関してはやりすぎることもあるもののそれはそれとしてだが絶妙に立ち回るので私は様子見をしてしまうのだ。
 べえと太宰が舌を出していた。
 そうした後に福沢に私のこと怒らないでくれますよねとおずおず見つめてくる。太宰の頭を撫でていた。嬉しそうにその瞳を輝かせすり寄ってくる。次の瞬間にはまた舌を出して子供を見る。
 太宰の顔が勝ち誇った。やーーいこのちびと人を罵る姿は輝いている。罵られた子供があーーと叫んでいた。てめえいい気になるなよと喚くのを太宰は上から見ていて、へえともう一度声を出している。そろそろだなと治と太宰を呼んでいた。んと太宰の目が私を見てくる
「お友達をいじめるのはその辺にしておけ」
「……お友達ではないですよ」
褪せた目がとても大きくなっていた。ぽかんと口を開けてしばらく見たかと思えばやっと呟く太宰。子供の声もそんな感じで誰がこんなやつとと叫んでいた
「そうか。だがともに帰るのだろう」
「? 勝手にあれがついてくるだけです」
「俺もこっちなんだよ。てかお前降りろよ。いつまでそうしているつもりだよ」
 子供は腹一杯の力を込めて太宰に抗議を送る。太宰はというと不思議そうに私を見つめながらぱちぱちと瞬きをしている。
 ぽんと子供の肩を国木田がたたいた。諦めろとそう言っている
「あいつは毎日ああやって帰っている」
「は」
 青い目が太宰を見た後私を見た。
 はっともう一度呟いてはじっと見てくる。毎日と呆然と呟く姿。国木田はこくりと頷き、私はそろそろ行くかと歩き出した。太宰は腕の中にいる。
 私の腕の中で言い合うのには飽きたのか私の髪を編み始めていた。
はあ、てめえ歩いて帰れよな。と子供が当然のことを叫んでいるが、嫌だとすげなく断っている。前に一度先生にも同じことを言われたとき嫌ですと即座に答えていた。先生の心を粉々に壊しそうなぐらい鋭利な刃物で切り付けていたので私ももうあきらめていた。
 泣き出しそうな目で見られると私には何も言えなくなってしまうのだ。その件を目撃していた国木田はもう太宰に何も言うことはない。高学年に上がるまでだとさすがに私が宣言しているのもあるのだろう。
 ぎゃあぎゃあと子供は騒いでいるものの太宰はまだまだ気にしないようで髪に夢中だ。とんとんと国木田が肩をたたいている。
 それでと私は子供に声をかけた。
「家はこっち方向だということだが、何処なのだ」
 話題の転換も含めて聞いた。腕の中の太宰がゲッとものすごく嫌そうな顔をしていた。むーーと口をとがらせてどこかを睨む。どうしたことかぷくぷくと頬を膨らませていた。
 それは子供の方も同じで顔をゆがませてぶすくれていた。
 答えてくれるのは国木田だった。ため息をつきながら同じ地区ですと言ってくれる。少しだけ驚いたが、同じ学校そういうこともあるだろう。そうかと普通に頷く。太宰は不機嫌そうにまだ頬を膨らませてもうなんて言っていた。
「なんでみんな同じ地区なんですか。集まりすぎでしょう。中也はいらないのに」
「そんなことを言うな」
「だって」
 こっちのセリフだと子供が怒鳴っている。むくれた太宰の額を一つ小突いた。まあ仕方ないのだろうと笑う。
「この辺は治安がいいからな。ここまで治安がいいところも稀、子供と安全に暮らそうと思えば集まってしまう」
「治安の良さに全ぶりした考え方はしないでほしいんですけどね」
「治安の良さだけではないが、まあ、それは大きかったか。そうだ。今日は国木田が遊びに来るのだったな。お前はどうする」
 腕の中の太宰。それを睨む子供。そして国木田が顔を見合わせて微妙な顔をした。
 

 数分後二人とも福沢の家の中にいた。


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