太宰との二人生活は幸せにあふれていた。
 私としては満足この上なくこのままずっと続けと思うような日々。時折太宰に福沢さんは私を中心に回し過ぎですと怒られもしたものの私にとってはそれが幸せであった。
 毎日送り迎えをして、いない間に家事や仕事を終わらせて帰ってきた太宰と家の中で遊んだり、町の中を散歩したりしてのんびり過ごす。静かで穏やかな百点満点の日々に突然やってきたそれはまさに悪魔だった。
 本日太宰の休みの日、鳴り響くインターホン。
 仕事で使う荷物かと確認もせずボタンを押してしまっていた。今度は家の扉のインターホンが鳴る。
 扉を開いた時、見えたのはよく知る騒がしい男。
 顔を見た瞬間にドアを閉めようとしたが一足遅かった。男の靴がドアの間に挟まったのだ。
「来るなら別の日に来い。今日は貴様と付き合ってやる時間などない」
「わしも今日しか時間がないんじゃ。警察が忙しいのは知っているだろ」
「ああ、気の毒に思うぐらいだ。だが私にはお前と話ができるような時間がないんだ。私は暇じゃない」
「嘘つけ。最近在宅ワークを始めたとかで一日家にいるそうじゃないか」
「家にいるからと言って暇なわけじゃない。大事なようがあるのだ」
 玄関で言い争うとどうしてもお互い小声になり押しのけあう力だけが激しくなっていく。何とか足を家の外に追い出そうとさらに力を籠める。ガシガシ蹴りつけるものの福智の奴は一歩も譲らぬとするだけでなく、さらにもう一本入れてこようとしているのだった。
 はたから見たら馬鹿らしい攻防を止めたのは、他の誰でもない太宰であった。
「福沢さん何をしているんですか。馬鹿なことしてないでさっさとそこのひげ男を連れて戻ってきてくださいよ」
 可愛い猫のエプロンをつけた太宰が扉の隙間から呆れたように声をかけてきたのだ。だがと私が眉を寄せてみせても太宰はいいからとぷりぷりと頬を膨らませる。
「私は早くイチゴとチョコのクレープが食べたいのです。福沢さんが焼いてくれないと食べられないでしょう。もう。あんまり来ないと私が焼きますからね」
「待て。さすがに今のお前ひとりでは火を使わせられん。今行くから」
 ぷりぷりと怒る太宰。その言葉に私は慌てて扉から手は放していた。邪魔だけはせぬようにと捨て置いてその場から離れた。太宰のもとに向かう。いや、客人で迎える方が優先じゃね。みたいな声が聞こえてきたが一切気にしなかった。ぷくぷくと頬を膨らませる太宰の手を取ってリビングに進んでいく。
 客でもないくせに福地はその後をついてきていた。そして部屋の中に入るなり、ウゲッと顔をしかめたのだ。なんだこれはなんて引いた顔で聞いてくる。リビングの机の上にはホットプレートが置かれ、その周りには生クリームや、フルーツ、イチゴ、チョコペンなどが置かれていた。部屋の中は甘い匂いが充満している
「早くやってください。もうずっと待っているのですから」
「うむ。すまない。ちょっと待っていてくれ」
 太宰の言葉にせかされてホットプレートの電源をつける。温まるのを太宰がワクワクとして見ていた。
「お前何をしているのだ」
「見て分かるだろう。クレープを焼いているのだ。太宰がクレープを食べたいと言い出したのでな。こうした方が好きなものを食べられていいだろう」
「お前甘やかしすぎじゃないのか」
「甘やかすために引き取ったのだ。甘やかさなくてどうするんだ」
 呆れた顔に真面目に返す。そうです。いってやってくださいと我が儘を言う本人が声を上げていたが、次の瞬間には喜んでいた。もう福沢さんたらと頬を赤く染め嬉しそうだ。問題じゃなさそうである。一つ頷いていた。それよりと福地に聞く。
 廊下の方をちらりと見た。
「そちらにいるのは誰だ。いったい誰を連れてきた」
 目元が険しくなるのが少しだけわかる。はあとでていくため息。家の中に入ってきたのは福地だけではなかった。福地がにやりと笑った。
「お前、気づいていたのか」
「当然だ。廊下にいられても気分が悪い。早く紹介しろ」
「はいはい」
 にやにやと福地は笑い、分かった分かったと立ち上がっていた。お前もよく知っている相手だと言われるのを聞きながら作っておいた生地をお玉ですくい上げる。熱くなったホットプレートの上に慎重に垂らしていく。
「あっははは。久しぶりだね。社長、太宰」
 お玉の上の生地がプレートの上に広がる。お玉が嫌な動きで生地を伸ばした。
「あ、何で」
「乱歩さんお久しぶりです」
 ひきつった声がでてしまった。太宰からは華やかな声が出ていく。うん。久しぶりと太宰と同じもしか、もう少し大きな体つきの乱歩が騒がしく笑っている。福地は相変わらずこいつは騒がしすぎかと言ってくるのはこの際気にならない。それより
「なんでお前が福地と一緒にいるんだ。どういうことだ」
 そっちの方が気になる。それにやたら神妙に答えたのは福地だった。
「上司がこのガキの親だったのだ」
「ちょっとそんな嫌そうに言わないでくれる。言いつけるよ」
「上司……。それは」
 脳裏に描いたのはその昔も変わらず乱歩の両親だった人物だ。あったことはないが噂や写真で人なりは少しばかり知っている。
 その人物のことを思い出しながら私はそれでもそうかと頭を抱えてしまった。また乱歩のお守りをする日が来るのかとそれよりと乱歩は乱歩で人の事など気にせず話す。
「僕もクレープ食べたい。三個くらい焼いてよ」
 きらきらとした翡翠の目が私ではなく手元を見ていた。ひくりと反応したのは太宰だ
「今やいているのは私のですからね。私が食べるんです」
「なんだよ。けち臭いな。こういうのは僕が一番だろ」
「違います。今のは私のために焼いてくれてるものだから私が食べるんです。乱歩さんのは福地さんが焼けばいいんですよ。今日の乱歩さんの子守り役でしょう」
「無茶なこと言いよる」
 太宰が小さな頬を膨らませて乱歩を怒っている。普段なら福沢は太宰に味方するだろう。今も味方したいのだが……
「太宰これは乱歩にやれ」
「でも」
「いいからおまえの分もすぐに焼く。なあ」
「……はーーい」
 太宰の口が尖った。尖ったのは太宰の口だけではなくなぜか乱歩の口まで尖っていた。目ざとく気付いたのか私を睨んでいる。待ってという声はふてくされているもののそれであった。
「それ絶対形がきれいじゃないからでしょ。なんだったら少し焼き過ぎたとか思っちゃってるでしょう。やだよ。僕きれいなの食べる」
ぎゃあぎゃあと乱歩が騒ぐ。気にせずクレープの生地をひっくり返していた。薄い気がしたが難なくひっくり返すことはでき、ほどなくしてきれいに皿の上に乗る。お前これ焼くの何回目だと福地が聞いてきたが聞こえないふりをした。乱歩の前に置いて新しく焼き始めた。
 乱歩はだから嫌だってと怒鳴り太宰は太宰で私の足を無言で蹴ってきている。
「福地皿を取ってきてくれ。平皿で銀の猫が書いている奴だ。あと乱歩の飾りつけを手伝ってくれ」
 太宰の頬がふくふくと丸くなっていく。嫌だよ僕次のがいいと乱歩が駄々をこねるが駄目ですと言ったのは太宰だ。
「銀の猫ちゃんの皿は私用なんですから。それに入れるのなら次は私のです」
 皿を持ってきていた福地が福沢を睨む。どうするんだよこのぷち戦争と言いたげな目を無視し焼く。わかったよと言ったのは乱歩だ。
「僕がこれを食べればいいんでしょう。二人ともというか主に福沢さんは後で覚えておいてよ」
 ぷりぷり怒りながら乱歩は話、私を指さしていた。んと福地に向かい皿を突き出す。やってくれの合図。福地はやったことないのにと肩を落としていた。生クリームを絞り出す。できたのはぶつ切れで不格好なクリームだ。その上に乱歩は机の上に載っているありとあらゆる飾りを載せていく。分かっていたことだが遠慮なんてものはない。
 呆れ横目で見る。今度は生地が綺麗にやけ、太宰の皿の上に載せていく。小さな手はぎゅっと皿を取られないよう握りしめていて愛らしい。
 真ん丸の生地が載った後にんと太宰も皿を差し出してきていた。生クリームを絞る。うまく絞れた上にイチゴとチョコチップを載せて、チョコクリームをかける。お店のもののようにくるくる巻いて太宰が食べたがっていたイチゴとチョコのクレープの完成だ。
 太宰が嬉しそうに笑ってそれを食べていく。
 うわっと引いた目で見ていたのは乱歩と福地の二人だ
「おまえどれぐらい作ればそんなにうまくなれるんだ」
「てか太宰。お前は何で何もしないのさ。そのエプロンは何。ただの飾りなの」
 私はうるさいというだけ言って再び焼き始めた。太宰の方は可愛いでしょうと猫のエプロンを見せびらかすだけであった。うわっともう一度二人が引いた顔をして太宰と私を見る。みられるものの気にせず太宰とともに生地の入ったボールの中を見ていた。
「生地少ないけど作りますか」
「そうだな。だができたところで飾りがないだろう」
「今晩のお好み焼きの分の粉もなくなってしまいます」
 むうと口を尖らせた太宰が生地を見つめる。きっともっと食べたいがお好み焼きも食べたいのだろう。どうしますと大きな瞳が見つめてくる。太宰が一番喜ぶ形にしたいと考えようとした中、うるさい奴らが騒ぎだしていた。
「え、何。今日の飯はお好み焼きなのか。わしはもっと別のがいいんじゃ」
「僕も」
「お前らは何処か店に行けばいいだろう」
 むしろなんで当然のように夕飯を食べるつもりでいたのか。半目になってしまう横で太宰は今日はお好み焼きなんですよと強めに二人に話している。
「せっかくホットプレート出したので今日は夕飯もこれで作るんです。こないだは焼きそばだったし、その前は焼肉。だから今日はお好み焼きってなっているんです」
 だからそれ以外ダメですと頬を膨らませるが、そんなことで二人が黙るわけもなくえーーと二人とも言っていた。乱歩はまあいいとしてお前はいい加減にしろよと福地に言いたくなる。
「もっと何か調べればよさげなのあるでしょう。パソコンは」
「福沢さんの部屋にあります。でも私も触らせてもらえません」
「仕事用だ」
 触るなよと言う意味も込めて少し声を低めた。さすがの乱歩もそれであきらめて福地の奴を見た。こいつの答えはなんとなくわかっていた。
「えーー、おじさん」
「肉でも焼けばいいんじゃないか。焼肉かステーキ」
「そんな気分じゃないです」
「ぼくも」
 思った通りのことを口にしていて、それは子供たちにはお気に召さなかったようで二人からじとめで見られている。二人とも頬を膨らませていて水族館にいるようだ。正直可愛い。今度ふぐの着ぐるみパジャマでも着せたくなる。
「何を作るにしても言っておくが材料はお前が買って来いよ」
 そんな不埒な思いには気づかれぬよう眼光を鋭くして福地を睨んだ。お好み焼きは太宰が食べたがっているので作るとしてもう一品ぐらい別のものも一緒に焼いていいだろう。たくさん作れるようホットプレートは最大サイズを買っている。それぐらいはできるはずだ。
「なんじゃわしはこの辺詳しくないんじゃぞ」
「嘘つけ。毎月ビールを飲みに来ているだろう」
「太宰も一緒に行こうね。僕とお買い物したいでしょう」
 ぎろりと福地を睨む。はあとため息をついた福地はじゃあと言いながら乱歩を見ていたが、それより乱歩の動きの方が早かった。にっこり笑って太宰に話しかけている。太宰の目は乱歩をじっと見ていた。嫌な予感がする
「なんで、太宰を」
「うん」
 止めようとしたがその前に太宰が頷いていた。ごめんなさいと下げられる頭。御機嫌取りって大事なんですと言われて分かりはするものの何かが腑に落ちなかった。
「私も行く。荷物持ちはお前らだ」
「いえーーい」
 乱歩がピースサインをして喜んだ。

「そうだ、福沢さんにお願いがあってきたんだ」
 夕食を終え二人が帰るのを待っていた時に言われてはあと低い声が出ていく。散々振り回されたと思っていたがまだふりまわそうというのか。つめたいめでみてしまう。
 その目に負けじと乱歩は笑う
「探偵社作ってよ」
「はあ」
 朗らかで大きな声。目をひん剥いて声を上げた。ともにいた太宰も目を瞬かせた。福地は分かっていたのか静かだ。中心で乱歩がにこにこ笑ってだから探偵社作ってともう一度言っていた。福沢からはまたはあと声が出ていく
「探偵社作ってって、もうそんな必要ないだろう」
「あるよ。このままだと僕が大人になった時仕事できる場所がない。警察なんて堅苦しいもの僕には無理。かといって普通の会社とかもヤダ。だから探偵社作ってよ」
 椅子の上小さな体を思い切りばたつかせて乱歩は叫んだ。お願いお願いと叫ぶ。嫌だと福沢は言った。
「なんで」
「面倒だ」
「太宰も一緒だろう。こいつだって僕と同じで団体行動とか嫌いだからね」
 その叫びは結構来た。ぐっと喉が鳴る。勝ち誇ったように乱歩が笑る。それを否定したのはほかでもない太宰だ
「あ、安心してください。私普通に在宅ワークするつもりなので。株のデーラーとかいいと思うんですよね。失敗しない自信あるし、もしくは経済アドバイザーとかもうまくやれる自覚があるので、私は在宅で働きながら家から一歩も出ずに甘やかされて暮らす道を進んできます」
「……」
 騒がしかったのがウソのように一度部屋が静まり返ってしまった。
「福沢さん」
「福沢」
 二人の目が私を見てくる。どう思うこいつ。駄目だよこいつ。言われていて私は頭を抱えることしかできない。太宰と震える声が出た。なんですかと太宰が愛らしい笑みを浮かべる。
「もう少し夢見てもいいのではないか」
「えーー、じゃあテレビにでも出て人に夢を見せるお仕事とかの方がいいですか。私アイドルにも俳優にもなれる自信あります。今からでも子役として名前をはせることできますよ」
「それは、だめだな」
 太宰がにっこりと笑う。テレビはこの暮らしになってから暇つぶしで見ることも増えた。だからこそ答えは一瞬で出ていて、今後の太宰のことを思いため息をついてしまった。
「探偵社作った方がいいのか。とはいえ前と同じようなものは今の世界作れぬだろう。あれは探偵社という名前ではあったものの普通の探偵社ではなく民間武装業者……、だがこの時代にそのようなものは必要ない。むしろ日本の法律を考えるとある方がおかしい。かといって探偵は。お前ら二人とも会わんだろう」
「そんなことないですよ。私は浮気調査得意です」
「僕だって一目見たら浮気の証拠ぐらいわかるさ」
 二人がすぐさま私の言葉を否定した。やたらと胸を張っているがどう考えても乱歩はアウトだと思う。そんなことされていたらすぐにお客の不信や恨みを買うし、目だつ。
「お前ら養っていけるほど稼げるともおもえんし、何より一見平和に見えてやはり犯罪組織などはある、すこしでも目立てばお前たちなどは獲物にされやすそうだ。
 この日本では法の下でお前たちを守るのは難しい」
「ふむ。SPにでもなればいいんじゃないか。お前昔、SPの資格を取っていたことあるだろう。その要領でこっちでもとれるんじゃないか」
「この日本のSPなどたかが知れている。まあ、持っていて損はないだろうが。そういう話ではなく守る手段を持たないのに目立つようなことをするわけにはいかないという話で。
 いっとくがこいつらが探偵になったら絶対目立つぞ。特に乱歩」
 指さした乱歩はむうと口を尖らせた。ひそひそと太宰と何か話している。
「心配されてますね」
「そんなに僕ら馬鹿じゃないのにね」
 やんなっちゃうよと二人で話しては肩を落としている。
「まあ、いろいろ悩んでることは分かるが、俺としてはお前ひとりいればいいと思うが、犯罪組織はそりゃあ腐るほどあるが、強さ的には昔とはくらべものにもならんぞ」
「馬鹿言え、毎日一緒に生活するわけではないのだ。私一人で守り切れない。まあ方法がないわけでもないが、それにしても会社を興すことになると少なくとも太宰と乱歩を養えるぐらいの稼ぎはあるようにしなくてはいけない。だが、探偵でそんなにうまく儲けられるか
 まあ、お前の言う通りSPにでもなれば少しは稼げるだろうが」
「任せてください。私なら探偵社にいくらでも払い込んでくれる顧客を作れますよ」
「……ホスト作る話はしてないからね」
 きらきらとした目を太宰がさせてきた。自信満々に胸を張る。確かにこいつに任せたら安心なのは分かっているが、逆に不安にもなってくる。同じようなことを考えて乱歩が引いた目で見ていた。
 分かっていますよなんて楽しそうな太宰を見る。果たしてこのまま探偵社がなかった場合、太宰が大人になって何処で働くのか考えてみる。まともに仕事をしている太宰の姿はあまり思いつかなかった。
「太宰。私が探偵社を起こさなければお前はどんな仕事をする」
「え、先ほども言った通り私は在宅で仕事をしますが」
 にっこりと太宰は笑う。ため息が出ていく。
「考えてみるか」
「え、なんですかそれ。家の中に引きこもっている人なんてたくさんいるんですよ。私なんて自分で稼ぐとまで言っているのに。それに家に引きこもっていてもともだちとか作れますからね」
 言葉も吐き出したら太宰の目は大きく見開いて、不満げにその口をとがらせていた。膨らんでいる頬。乱歩も福地も私と同じような目をして太宰を見ていた。いや、太宰に甘い自覚のある私よりもひどい目をしていた。
「何ですかその目」
 太宰の頬がますます膨れた。子供だから頬の広がりは大きい。
「お前だって普通に外に出ていても今日人に会うの嫌になっちゃった。まあ、この人なら切ってもいいかなって切り捨てるじゃん」
「ちゃんと二、三人は残しますよ」
 乱歩が呆れながら言う。ああありそうだと頭を抱えてしまう。
「会社を興すのに必要な経費など考えんとな。どんな仕事を受ける場所にするかなど考えることはたくさんか。乱歩が大学を出るまでが猶予期間だとして早めの行動が必要だな」
「むう」
 太宰は納得できないというようにまだ頬を膨らませている。
 

「そういえば福沢さん」
乱歩が帰った後、名前を呼んできた太宰はとても楽しげであった。
「今日話していた探偵社、授業員になってくれそうな人私一人もうみつけていますよ」
「はあ」
「国木田君です。実は同学年にいるんですよ。まあ、彼はまだ気が付いていないので声をかけていないんですけど」
いや、まだ本当にそうするかわからないし、私はいいとしてもお前と乱歩二人を養っていけるかもわからないのに他の従業員なんて。と言いたかったがその口は止まっていた。
 きらきらと瞳を輝かせて話す太宰に目を見開いてしまう。
「国木田君も誘っていいですか」
 期待のこもった眼差し。お願いですとにっこりと笑っておねだりをしてくる。
その中で小さくその口が尖っている。昔の太宰は感情なんて隠して笑うのが得意だったが、今の太宰はまだ幼い。ほんの少しだがちょっとしたところに出てしまう。そんな太宰を見てしまうといいぞ以外の言葉、福沢には言えなかった。
 太宰の顔がぱっと輝いては明日行ってきますねと幸せそうに笑う。きっと話しかけたかったのだろう



 翌日福沢は少し聞きなれぬがそれでも聞き覚えのある声を聴きわずかとはいえ目じりを緩めていた。
 この唐変木がなんて怒鳴る声はどう聴いても知り合いの者。子供だというのになんだか苦労してそうな声で怒鳴っている。じっと校門で待っていると小さな影が門の中から出てくる。そこ右と聞きなれた声もする。うるさいといいつつ小さな体は右を向き、
 青い目が見開かれていく。
 呆然と立ち尽くしながら社長と私を呼んだ。何でここにと戸惑った声。答えようとするより前に後ろからひょっこり太宰の頭が見えて福沢さんと笑ってくる。なにっと国木田がさらに驚いていた。
 太宰は分かっているだろうに気にせず私の元まで来てはその小さくてぷにぷにとした手を向けてくるのだ。戸惑っている国木田には悪いが抱き上げていた。
 貴様何してと国木田が怒鳴っているがいいのだと手で押さえる。ぐぬと国木田が唇をかみしめた。
「とりあえず目立つから行こうか」
 周りを見て福沢は言った。子供たちが不思議そうに三人を見てきていた。あ、はいと国木田は歩き出す。そうしながら福沢の腕の中にいる太宰を睨んでいた。
「なんでお前はだっこされているんだ。降りて歩け」
「えーー、だって疲れてしまったし、大体いつも帰るときはこうだよ」
「は、いつもって」
 青い目が何度も瞬きを繰り返している。
「福沢さんはいつも迎えに来てくれるから。福沢さんは私のお母さんだよ」
 歩いていた国木田の足が止まった。目を見開いて動きがなくなる。国木田に向かい親子なんだよと太宰が追い打ちをかけている。ぽかんと国木田の口が開いて、崩れ落ちかけたが何とか自分の足で立っていた。


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