その日谷崎とナオミと与謝野は服を買いに来ていた。誰の服かと言うと太宰の服だ。丁度非番が重なった三人はどうせなら太宰の様子でも見に行かないかと言う話になって、その前に太宰に着せる服でも買わないかと与謝野とナオミが言い出したのだ。そしてデパートに寄った。
 かわいいふくを着せたいが、この間みたいに誘拐事件が起きるのも避けたいので、それなら先に買っていて、着てもらおうという話だった。太宰なら大体に会うから問題はない。
 嬉々として選ぶ二人を見ながら谷崎は元気だなと遠い目をする。ナオミの買い物に付き合うことは少なくないが、ここまで入れ込んでいるのはめったになくて、すぐに二人の熱気にやられて疲れてきていた。服を選んでは籠に入れていく二人。あとどれくらいかかるのか、そう重いため息を吐いた。
 その時だった。
「あれ、谷崎君?」
 幼い声が谷崎を呼んだのは。何処となく聞き覚えのある声に慌てて谷崎は振り向く。そこには首を傾けた太宰がいた。フードをしていて分からないが絶対そうだと思うのに首を傾けた太宰はどうしたのと聞いてくる。
 少しだけ覗く髪がふんわりと揺れているのに、太宰さん機嫌よさそうかわいいと思いながら駆け寄り膝をつく。
「太宰さんどうして」
 声をかけるのに太宰はしいと人差し指を口の前にたてた。
「駄目だよ。ここじゃあみって呼んで」
「あ、すみません。あみさんどうしてここに」
「みんなとお買い物。谷崎君は」
「今日はお休みで今から太宰さんに会いに行こうかと思っていた処なんです。その前に買い物に寄ったんですけど」
 谷崎が言った言葉に太宰はフードの下、その目を丸く見開いていた。えっと出ていく声。
「私に会いに来たのか? 嬉しいけどどうしよう。私これからキャン」
「おーーい、あみなにやってんだよ。もう買い物終わったぞ」
「あみさーーん、どうしたんですか」
「あみちゃん」
 太宰が何かを言いかけた時、子供の声が聞こえてきて、そしてそれは小走りに近づいてきた三人の子供が太宰に声をかける。えっと谷崎が目を見開いて子供たちを見つめるのに太宰はみんなと笑っていた。知り合いを見かけてと太宰が言ったのに子供たちは知り合いと首を傾けて谷崎を見上げた。
「この兄ちゃん知り合いなのか」
「どういう知り合いなの」
 それから太宰に口々に問いかけていく。パワフルだなと思いつつ谷崎は名前を言って頭を下げる。初めましてと言うのに初めましてと元気な声。この子たちは何なのだろうと谷崎はじっと見つめる。
「えっと、君たちあみちゃんの知り合いなの」
「はい。あみさんと同じクラスなんです」
「友達だよ」
「今日もこれから一緒にキャンプに行くんだぜ」
 気になって谷崎は聞いた。そして子供たちから飛び出してきた言葉に思わず目を見開いてしまった。友達と太宰を見るのにフードの下見える口元はにこにこと笑っていた。真実そうである。太宰と友達が結びつかずに谷崎は首を傾けてしまう。
 友達ってなんだけとすら思ってしまったのにまた別の声が聞こえてくる。
 おーーいと呼びかけてきたのは知っているものだった。太宰と共に何度かあったことのある子どもの声で、谷崎は少しほっとした。
「お前ら何やっているんだよ。あみを呼びにきたんだろう。なに時間かけて、て、谷崎さん何でここに」
「何だよ、コナンも知り合いなのか」
「え、ああ。まあな」
「奇遇じゃの。こんなところで会うとは」
「横濱から東京に一体何の用なのかしら」
 三人が谷崎に近づいて不思議そうにするにする。一人灰原だけは呆れたような顔をしていた。あのねと太宰が声をかける。
「私に会いに来てくれたんだって。お土産買ってくれてたみたいなんだけど」
 そういう太宰の声は少し困ったようでコナンと博士はえっと声を出す。蚊帳の外の子供たちもそんな声を上げてから谷崎を見上げてきていた。ただ一人灰原だけはやっぱりと呟く
「それは嬉しいが困ったの。これからキャンプに行く予定だったんじゃが」
「キャンプ」
 博士が困ったように言うのに谷崎はそれを口にする。そう言えば子供たちもそんなことを言っていたようなと太宰を見る。太宰は困ったように笑って
「ごめんね。せっかく来てもらったのに」
 申し訳なさそうに謝る。大丈夫ですよと言おうとしたが、どうしたんだいと一緒に来ていた与謝野が声をかけてきた。あっと声が出る。買い物が終わったのか大量の荷物を抱えた二人がやってきていた。
 二人はすぐに太宰に気付いた。
「あれ、だ、あみじゃないかい。こんなところで奇遇だね」
「あみちゃんじゃないですか。久しぶりです。丁度会いに行くところだったんですよ」
 そしてすぐに声をかけていた。太宰がしいと人差し指を立てるのにはっとした様子で名前を言い直す二人。ごめんねと太宰は二人に言っていた。与謝野とナオミ。二人の首が傾く。これからキャンプに行く予定なんだよと教えたのはコナンだった。
「お姉さんたちもあみちゃんの知り合いなの」
 そんな様子を見て子供たちが声をかけていく。キャンプと不思議そうにしていた二人は子供たちを見てまた驚いたようにした。誰だと見てしまうのに友達ですよと太宰が言おうとしたが、その前に子供たちが自分で名乗っている。
「私たちあみちゃんの友達なんだ。これからキャンプに行くんだけどお姉さんたちあみちゃんに会いに来たなら一緒に行く」
「いいですね。キャンプは大勢で行く方が楽しいですから」
「そうだな。みんなで行こうぜ。あ、でも米は自分たちで用意しろよ。三人も増えたら俺らの分がなくなちまうから」
「もう元太くんたら」
 楽しそうな子供たち。友達と与謝野もナオミも繰り返していた。世にも不思議な言葉を聞いたと言わんばかりに太宰を見つめては首を傾ける。そんな二人に子供たちは話しかけてくれているがほとんど頭には入っていなかった。
 友達と言って太宰と子供を見比べる。どう見ても信じられないという二人の姿にコナンはため息をついていてた。お前どんな生き方してきたんだよと太宰を見てしまいながら、元太たちに向けてお前らそんな急に言っても迷惑だろうといさめ始める。
「えーーでも、せっかくあみちゃんに会いに来たんだから、おいていっちゃうのも可哀想だよ」
「そうですよ。一緒に行きましょうよ」
 子供たちは不思議そうだった。お前らなあと言うコナンではなく太宰にあみちゃんも行きたいよねと声をかける。かけられた太宰の答えは一つ。うんであった。
 その後でも忙しいだろうからと少し口元を悲しげに歪ませて笑う。いきますと谷崎とナオミが答えた。与謝野も行っていいならぜひ一緒に行かせてほしいと博士に頼んでいる。やったーー、子供と太宰が喜ぶのにいいのかと博士が聞いていた。
「どうせ非番ですから。キャンプにも行けるんですよ。あ、でもお邪魔することになってすみません」
「いや、せっかく会いに来てくれたんじゃ。一緒に行けるのならこっちも嬉しい。あみ君も嬉しそうだしな」
「どうでもいいけど、博士のビートルじゃ私たちで定員オーバーよ。どうするの」
 人当たりのいい博士と違い、灰原が冷たく問いかけていた。与謝野がその辺でレンタカーを借りるよと答える。運転はできるのと聞かれるのに与謝野は谷崎を見た。僕ですか、いや、まあいいですけどと彼は首を縦に振る。まだ入社して日が経っていない敦などは取っていないが、探偵社の社員は基本的には運転免許を取ることを義務つけられていた。よって谷崎も運転できる。ついでにいうと与謝野も運転はできた。ただするつもりはないようだ。
「キャンプってことはお米だけじゃなくテントとかも用意していた方がいいでしょうか」
「そうだね。レンタカー借りるの少し時間がかかるし、取りに行ってもらっている間、妾達はその辺用意しておくよ。キャンプで何を用意するべきか知っているか」
 谷崎が近くのレンタカーショップを調べる間にキャンプに必要な道具についてナオミと話していた。だが二人ともそう言ったことはしたことがなくて首を傾けている。ちらりと二人の目が谷崎にも向いたが、谷崎もまた知らなくて首を傾けた。
 それも調べますかと手のなかの携帯機器を弄るのに私たちに任せてよと三人の話を聞いていた子供たちが声をあげていた。
「私たちが教えてあげる」
「おう。俺たちキャンプたくさん行っているからいろいろ教えてあげられるぜ」
 こどものキラキラとした眼差しが三人を見つめる。これが太宰の友達。またも驚いてしまいながらそれでも三人は頷いていた。
「それは頼もしいですわ」
「よろしく頼むよ。じゃあ私たちは買い物しているから車頼んだよ」

…………

 キャンプ場についてしばらくした後、谷崎は水場で遊ぶ子供を眺めてぼうとしていた。その傍には与謝野やナオミ、それにコナンと灰原もいた。
「僕太宰さんに友達がいるなんて嘘だろうと思っていたんですが、本当みたいでびっくりしています」
 呆然としながら谷崎は言っていた。ぼへえと吐き出しているのにそうですわねとナオミも答えて、そうなんだよねと与謝野も言っている。
 水をかけあって子供と太宰が仲良く遊んでいる。太宰の笑い声まで聞こえてくるのに苦笑するコナン。と言うかと谷崎が言った。
「僕あれが本当に太宰さんなのか疑い出してしまったんですよね。明るくなったとは思っていたけど、あんなに明るいなんて。……太宰さんなんでしょうか」
 水場で遊んでいるのは正真正銘太宰なのだが、小さくなっている分信じるのが難しくなっている。そうでなくとも信じられないだろうが、そうだよねと与謝野も少し遠い目をして太宰を見た。彼奴がねとみんな言っているのにコナンが呆れた顔をして三人を見てしまう。
「太宰は友達とうまくやれているのかい」
 うまくやれていないんじゃないかと言う不安を芽生えさせながら与謝野が聞いた。大丈夫だよとコナンが答える。すごく仲が良いからと言うのに安心したが、どこかへ逃避行しだすのに太宰がと小声でつぶやく。見つめてコナンは昔はすごく暗かったんだけどと伝えていた。
「そうなんですか」
 谷崎がそれはそれで不思議そうに聞く。今みたいに明るいのも信じられないが、暗いのも信じられなかったのだ。
 太宰と言えばいついかなる時でも笑っているけれど、そこには本心がないようなそんなイメージしかなかった。感じ取ったのかコナンは少しだけ悲しむような目をしている。
「どこまでいっていいのか、分からないけど色々あったんだ。出会って暫くは太宰さん記憶喪失だったし」
「記憶喪失」
「うん。自分で薬を呑んで忘れていたみたいなんだけど探偵社のこととかは忘れて、幼いころの記憶しかもっていなかったんだ。それであいつらとあったころはにっこりともしないような状態だった」
「太宰さんが」
「幼い頃って」
 コナンの話に信じられないとみんなの視線はそれと笑う太宰に向いていた。それと子供たちに水をかけては掛けられている。キャッキャと笑う太宰に他の子どもたちもみんな笑っていた。そんな太宰を見てあの太宰がとやはりしんじられなくなる。太宰が笑うのを見る。
何かあったのか聞いてもいいのかと与謝野が言っていた。
「本当はね、本人が知られたくないかもだから言わないのが良いんだろうけど、探偵社の人たちは知っておいた方がいいんじゃないかって思うからちょっとだけ話すね。全部話すと長くなるから」



「そんなことが」
 コナンの長い話が終わって三人とも少し涙ぐんでいた。じいと太宰を見つめては泣きそうになっている。
「太宰さん」
 いや、実際はもう泣いていた。涙をこぼしながら元気に遊んでいる太宰を見ているのにあいつはこんないい人たちを心配させていたんだとコナンは太宰を呆れたように見ていた。そしていまでも社長が好きと言ってくれない限りは探偵社には帰らないし、他の人には言わないと心配させ続けているのだ。
 今は笑ってくれているようでよかったと三人にははと乾いた笑い声が落ちた。
「まあ、彼奴らがさ。ずっと友達だよって笑って声をかけ続けてくれたからさ、そんで太宰さんも笑えるようになったんだ」
「そうなんですね。じゃあ、いつか探偵社みんなでお招きしたいですね」
「いつか探偵社に招待して盛大にお返ししないと」
 そんな計画が三人の中で話されていく。
「みんな、何しているの一緒に遊ぼうよ」
 振り向いた太宰が笑って四人を呼んだ




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