「キャーー可愛い! 本当に太宰さんなんですね」
 聞こえてきた声にあみ、太宰は冷たい微笑みを浮かべた。ブリザードが吹き付けるようなその冷たい笑み。ぞくりと背筋を凍らせる谷崎は涙目でごめんなさいと囁いた。許してくださいと口からでる震えた言葉。
「駄目だって分かってたんですが、でも僕……」
 ううと鼻を鳴らす見た目で言えば今は自分よりも年上の男にふぅとため息のち太宰は柔らかな笑みを浮かべる。良いよと声にする小さな口。へ? と谷崎が首を傾けた。何を言われたのだろうと太宰を見る横でぎょっと与謝野やコナン、灰原も太宰を見ていた。本当にいいのかと何でか聞いてしまう三人。
「いいよ。どうせ谷崎君にばれた時点でナオミちゃんにもいつかばれると覚悟してたからね。谷崎君は敦君や国木田君を騙すことが出来てもナオミちゃんだけは騙せないから。
 ナオミちゃん、久しぶりだね」
「そんな……」
「はい。お久しぶりです。子供の頃の太宰さんってこんなに可愛かったんですね。お洋服とか色々着てもらいたいですわ。早速買い物に行きませんか」  
 太宰の言葉に落ち込むような恥ずかしがるような様子を見せる谷崎。キラキラと太宰の姿に目を輝かせるナオミ。
 私の子供の頃はそんなに可愛くなかったけれど今は可愛いと自分でも思うよ。買い物今なら米花デパートかな。彼処の子供服売り場可愛い服沢山あるんだよとにこにこと太宰は話す。
 ほぅと息をつく三人。良かったと肩を撫で下ろした後、与謝野はそうと決まれば早速いこうと目を輝かせた。彼女もいつか太宰をきせかえ人形にしてやろうと虎視眈々と狙ってたのだ。二人のキラキラとした様子にこれは長くなると蘭と園子の事を思い出して思ったコナンと女の勘で思った灰原はパスと言おうとしたがその前に二人も絶対いくよねと太宰に言われてしまう。
 キラキラとした目はもはや聞いていない。絶対行かせると言う意思しかこもっていなかった。
「じゃあ、少し待っててね。お洋服着替えてくるから」
「お洋服ってそのままでいいんじゃ」
「駄目! これはフード浅くしか被れないからお家でしか着れないのだよ」
 きゅっと太宰がフードを握りしめた。目元近くまで隠れる。

……

「太宰さんこれとかどうです」
「太宰、これどうだい」
「わぁ、可愛い! 早速着替えてくるね」
 わいわいと楽しげな声がデパートの子供服売り場に響く。
 楽しげなその声を聞きながら谷崎はほへぇと息を吐く。前から思っていたことだが太宰さん子供になって、いや女になってかちょっとじゃなくかなり変わったなと尊敬する思いで見ていた。
 よくナオミと買い物にいく谷崎だが女子の買い物におけるエネルギッシュさには流石についていけずへばってしまうのが常だった。それをああも楽しそうに付き合えるなど。しかも今回は着せ替え人形かしており先程からあれも着てこれも着てと沢山の服を着せ続けられているのに。凄いと思わず呟いてしまった。
「まあ、蘭姉ちゃん達の買い物に付き合ってよく似たようなことされてるからね。それで慣れちゃってるのかも。あみちゃん自身可愛いお洋服好きだし」
「蘭姉ちゃん?」
「あ、僕が居候している先に住んでるお姉ちゃんなんだ。あみちゃんのこと凄く可愛がってるんだよ」
「そうなんだ、太宰さんのこと。何時か会いたいな」
 にこっと笑った谷崎から次の瞬間にはそっか慣れてるのかやっぱりすごいなと声がでる。一度行くと暫くはナオミとでも行きたくなくなるのが常なのにと太宰を見る。
「まあ、確かに長いもんね……」
 分かると言いたげな目でコナンも三人の姿を見る。そう言えばと谷崎がコナンの横にいる灰原に目を向けた。
「灰原ちゃんは混ざらないの?」
「私、騒がしいの好きじゃないから」
「あみの姿はじっくり見てるくせに」
「それとこれとは別でしょ。お姉ちゃんなんだから見る権利はあるわ」
 クールな女の子だな。小学一年生の女の子ってこんなにクールなものだけ? そう言えばコナン君も小学生のわりにいろんなこと知ってるしな……。太宰さんの周りって普通じゃない人しか集まらないのかな。
 太宰が幼くなっていることは聞いていても二人が幼くなっていることは知らない谷崎はそんなことを思っていた。ぼんやりとしていたらきゃーと歓声があがった。
 見るとそこには試着室からでてきた太宰の姿が。ふわりとした赤いワンピースを着た太宰はふわりと一回転する。どうだいと楽しげな声が聞くのに聞こえる。可愛い! 似合うじゃないかとにこにことした声。パシャパシャと幾らなんでもと思うような程のシャッター音も聞こえてきた。横からも一枚音が聞こえる。
 一頻り三人が騒いだ後次の服をと与謝野が腕を伸ばした。待ってくださいとナオミの声。
「先から可愛いけど何か物足りない気がするんです」
「物足りない?」
「はい、太宰さんは可愛いんです。可愛いんですけど物足りないと言うかもっと可愛い姿を見られる筈なのにと言うような気持ちが」
「もっとって」
 二人の目がじろじろと太宰を見る。太宰の目を上から下へと舐めるように見ていく二人。きょとんと谷崎が首を傾けるのと違いその二つ横の灰原はまあ、そう思うわよねと呟いている。ますます首を傾ける横で二人の目が太宰の顔で止まる。
「やっぱり……フードかね」
「フードですわね。せっかくの可愛らしい顔だちがフードでちょっびとしか見えませんもの。そのせいですわ」
「それでも可愛いんだけどね……。でもやっぱフードないほうがいいよね」
 二人がどんどん話す。次に言う言葉は決まっているようなものでにこにことしていた太宰の笑みの質が変わる。
 太宰、太宰さん。揃う二つの声
「フードのない服着ませんか」
「や」
 揃って問い掛けられるのに間髪いれず否定の声が出た。ぷんぷんと頬を膨らました太宰の両手がフードを掴んで深く被ってしまう。
「私はフードのついた服しか着ないと決めているのだよ」
「どうしてですか。絶対可愛いのに」
「……顔を見られてはヤバイ相手が多いからね。私は子供の頃からマフィアだったし、敵も多い。万一にも私が太宰治だと私を狙うやつらにばれたらどうなるか……。だから私は私の顔を隠せるフード付きの服しか着ないと決めているのだよ。
 着れる服が限られてしまうのは悲しいけどフード付きでも可愛いお洋服は沢山あるからね」
 強く太宰が言う。それにでた抗議の言葉。だけどそれは太宰が語った話の前に呆気なく消えてしまう。確かにと思う。だがとも思う。
 子供になったなんて摩訶不思議誰が信じるだろうかと。
 それこそ太宰には異能無効化の異能があるのだ。他のものなら異能で思われる所を太宰はいや、あの太宰治がと考えられるから姿を見ても結び付かないものの方が多いだろうと。与謝野だって怪我を見る前に太宰の顔を見ていても絶対に結びつけなかったし、太宰治なんだと言われても信じなかった。
 だからと思ってからいや、と考え直す。
 信じるものはいないだろう。でも三人の目が太宰を見る。
 フードを深くまで被りながらだからごめんねと上目遣いで言ってくる太宰は大変愛らしい。もっとが嫌味なほどに美しかった男だ。子供の頃の姿なんて天使と言って過言ではない。
 しかも前までの太宰は飄々としながら何処か胡散臭い笑顔をいつも浮かべていたのに、今の太宰は時々そんな笑みを浮かべるもののそれ以外、浮かべてる殆どの笑みは愛らしい何処までも愛らしい無邪気な子供の笑みだ。はっきり言って可愛らしさ倍増だ。何倍も可愛い。
 フード越しでこの愛らしさ。
 着せかえをしている合間も歩いている人が振り返っては可愛い。何あの子、お人形さんみたいと口にしており多くの人を魅了していた。フードを脱いでしまえばその愛らしさにやられて良くないことを企むものがあらわれるかもしれない。それは……それは…。
 困る。
 もちろん誘拐されたところですぐに誘拐犯をぼこり太宰を救出できる自身はある。そこら辺の悪党に探偵社は負けない。が、がだ。
 誘拐された少しの間に太宰が傷つくことだってあるだろう。それが三人にはどうしても許せそうになかった
 前までの太宰は何処か影があった。仲間である探偵社の人間にも触れさせることのない闇があった。
 でも幼くなった太宰は記憶をなくしていた影響か、コナンや灰原、その他色んな人に愛されたが為かその闇が僅かに薄れているのだ。なくなることはないが薄れ影が少なくなった。昔は絶対に浮かべなかっただろう心からの明るい笑みを浮かべる。友達たちと心底楽しそうに毎日を過ごしている。
 その笑みを消したくない。ずっとその笑みを浮かべていてほしい。その笑みを浮かべ続けられるよう守りたいと与謝野も谷崎もナオミも思う。まだ太宰の事を知らない他の探偵社の者だって今の太宰の姿をみたら全員そう思うだろう。そして絶対に守ろうとする。
 だからそんな太宰の笑顔を守るために誘拐犯なぞ現れてほしくない。太宰に魅了される人間は自分達だけで充分。可愛い姿を見られないのは辛い。がフードを被っていたところで可愛いのは変わらないのだ。それなら太宰には今しばらくフード付きの服だけを着てもらおう。と話し合ってもいないのに全員一致で決めていた。
 大丈夫。探偵社のみんな、社長に真実を話す日さえくれば太宰さんにいくらでもフードのない可愛らしい格好をしてもらえるからと。それまでの辛抱だと。
「みんな? どうしたの?」
 じいと固まって考え続けていた三人に太宰が不思議そうに聞く。何でもないと三人の声が揃った。
「それより次の服これなんてどうですか」
「可愛い! それきる!」


 彼らは思いもしなかった。改めて太宰を守ると心に決めたその日にまた太宰が誘拐されるなぞ。

…………

 騒ぎが起きたのは買い物が終わった後、数十分ほどたったころだった。皆で帰ろうとしたら、その前にお手洗いに行きたいと太宰がいい、彼が出てくるのをみんなで待っていた時だ。
 五分ぐらい待っていたが太宰がなかなか出てこなかった。もしかしたら具合を悪くしたのかもと灰原と与謝野が呼びに行ったが、いくつかしまっている個室からの返事はなかった。一旦戻ってデパートの店員を呼びに行くかみんなで話し合う。
個室の中で倒れているかもしれないが、しまっているトイレ一つ一つを覗くのはさすがに抵抗があったからだ。
 だが幸いトイレを待っている人はいなかった。このままいけば太宰以外の人はそのうち出ていくだろう。と灰原、与謝野がトイレの中で待つことになった。だがその前に灰原が異変に気付いた。
「ちょっと今出ていた人、私たちが戻ってきてから何人目か分かる」
「何人目って確か四人目だけど……」
 慌てた声で灰原が問いかける。えっと驚きながらも答えたのはコナンだ。探偵の性なのかついつい人の出入りは気にしてしまう。おかげでばっちり覚えていた。青ざめた灰原がトイレの中に駆け込んでいく。どうしたんだと追いかけて与謝野と一緒についコナンも女子トイレの中駆け込んでいた。
 これも悲しき探偵の性か。何か起きれば目の前が見えなくなってやばい場所にも入ってしまうのだ。ナオミも追いかけていく。さすがに入れなかったのは博士と谷崎の二人だった。
 トイレの中に駆け込んだコナンたちは先に入っていた灰原と一緒に驚愕した。
 トイレの個室の扉すべてが開いていたのだ。そしてその中の何処にも太宰の姿がなかった。
「な、なんで……」
「そんなはずありえませんわ。だって私たちずっとトイレの前に居ましたのに。太宰さんは何処に」
 驚愕した声を与謝野やナオミが挙げる。どういうことよと灰原がコナンに声を荒げて問いかけていた。問いかけられるコナンはみんなとおなじように目を見開きながらも必死に太宰がトイレに入ってからこれまでのことを思い出していた。高速で頭の中めぐっていく記憶。まさかとコナンの顔が上がった。
「あいつ誘拐されたんじゃ」
「はああ! 誘拐だ! 一体どこのどいつだいそんな事しやがった奴は」
 驚きで大きくなった声。それよりも大きな声で与謝野が叫んでいた。トイレの外からええ誘拐という声が聞こえてきていた。どういうことなんですかと谷崎が中にはいってくる。
 驚愕していた筈のコナンはええと引いた眼で三人を見てしまった。何も言っていないけれどナオミの顔も酷いことになっている。人って本当に般若になれるんだなと思うような顔だ。
「う、うん。ここにいないならそれしかないと……。ほら。あみが入った後、やたら大きなトランクケースを持ってた人でてきたでしょう。このデパートのお店の値札が付いていたのに他の荷物がないの変だなと思っていたんだけど、もしかしたらあれにあみをいれたのかも。
 あの大きさだと子供一人なら余裕で入るから。
 値札とか取ってなかったところ見ると多分犯行自体はそんな前から計画されていたものじゃない。最初からあみを目的に先回りしたのか、子供なら誰でもよくて中で待っていたのかは分からないけど、犯行に使うものをこのデパートで買うような犯人だ。きっと監視カメラとかに映っているから警察に連絡して、それからデパートの人にもすぐ事情を話そう。時間は立っているけどもしかしたらまだ中にいるかもあのトランクケースを持っている人がいたら足止めしてもらえるよう伝えるんだ。後監視カメラの映像も見せてもらおう」
 ねえ、そうしようと口にするコナンの声はかなり震えていた。ねえ、そうしようねと与謝野達に言い聞かせる。与謝野達は頷いてはいる。そうだねと頷いてはいるものの……。
「じゃあ、デパートの人捕まえて監視カメラ見せてもらいに行くよ」
「はい」
「僕は社に連絡してデパートの外の監視カメラの映像を見てもらうよう伝えます。後外に逃げていたら追跡できるよう車を手配してきます」
「ねえ、警察は。警察呼んでってば」
 一番大事なことが抜け落ちていた。武装探偵社と言えば名前は知れ渡っている。捜査はできるだろうけども、けども。
 捜査させてはいけないと思えるぐらいに殺気がこぼれていた。
「何としてでも見つけ出して血祭りにあげてやるよ」
 それぞれ動き出しているのに与謝野からは大変まずい言葉が出ていた。
「ちょ、血祭りは不味いよ。警察に捕まっちゃう」
「大丈夫。完璧に治せば捕まりはしないよ」
「いや、そんな問題じゃ」
「もう二度と外を出歩けないよう恐怖を植え付けてやりましょう」
「ダメだよ、やりすぎは!」
「太宰さんを拐ったんだ。ただじゃおかない」
「ただで済ませて!」
 コナンが叫ぶが三人には届いていなかった。足音荒く歩いていくのに呆然と見送ってしまうコナン。
「ヤバイ。犯人を守らなきゃ」



 夕方の阿笠邸。ソファの上でコナンがぐったりとよこたわっていた。どうしたのと心配そうな目でのぞき込む太宰。なんでもねえよと答えながらコナンは遠い目をしていた。少し間をおいてから太宰に問いかける。
「なあ、武装探偵社の人達ってみんなあんなにおっかないのか?」
 重いため息とともに問いかけたのにことりと太宰は首を傾けた。
「へ? おっかない? まあ……、与謝野先生はおっかないところあるけど、谷崎君やナオミちゃんは武装探偵社のなかではおとなしい方だよ。三人がどうかしたのかい?」
 きょとんとコナンを見つめる眼差しの中には嘘はない。さあとコナンや聞いていた二人から血の気が失せていく
「まじかよ…。どんだけ恐ろしいんだ武装探偵社」
「最早物騒探偵社じゃな……」
「博士のだじゃれが寒く感じないなんて相当ね……」
 三人の言葉に犯人を追いかけ捕まえていた与謝野達の様子を見ていなかった太宰だけが不思議そうにその首を傾けていた。私が知らないところでナオミちゃんに何かあったのかな。なんてそんな見当はずれなことを呟いている。



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