「明日社長に会いにいくよ」
 かかってきた電話から聞こえた第一声。コナンは呆れた顔をしてはいと声を出していた。だからと太宰が言う。
「明日、社長に会いに行くの」
 聞こえてくる声は嫌になるぐらい元気できらきらとしていた。電話越しにも太宰の瞳がきらきらと輝いているのが分かる。ため息をつきながらコナンはなんてと問う。再度太宰は同じことを口にした。
「会いにいくって、また横浜に行く気か。まあ博士の車で行きゃ早いだろうけど」
「そうじゃなくて東京だよ。東京にある食事所。そこにお昼に食べに行くの」
 はあとコナンから出ていく声。首をひねる。社長が午後に来るんだよと太宰が言っていた。
「探偵社の顧客の中には東京に住んでいる人も何人かいるんだけど、そのうち一人結構なお偉いさんが社長を食事会に招いたみたいなのだよ。社長断っていたようだけど、許してもらえなくてね。明日そこに来るから会いに行くの」
 社長に会うの楽しみだな。どんなお洋服きよう。社長は明るいお洋服を好んでくれたからそっち系だよねと楽しげな太宰の声が電話越しから聞こえる。
 社長の好みはやっぱり散歩後ろを歩く大和なでしこタイプかなワンピースを着るべき、それとも戦う女の子のズボンスタイル。あ、でも社長にあわせるなら置物がいいかな。私も着物着ようかな。電話越しから聞こえる声はすでにコナンのことなど忘れているではないのかと思えるようなものだった。
 きるかと考えてしまう。だが太宰がコナン君はどれがいいと思う。ワンピースかなズボンかな着物かなと聞いてくる。どっちでもいいと答えながらそれよりと言っていた。
「社長に会いに行くってお前なんで社長が行くところなんて知っているんだよ。どうやって場所を聞いたんだ」
 電話越し知りたいと太宰が笑う。コナンは嫌と言おうとした。けど間に合わなかった。にこにことした太宰が笑って聞きたくない言葉をつげる。
「盗聴器で聞いていたから」
 はあとコナンから出ていく低い声。なんじゃとと博士の声が聞こえてきた。着物でも出していたのかばさばさと何かが落ちる声が聞こえる。
 どういうことじゃと博士が言っているのに探偵社に盗聴器仕掛けてるからいつでも探偵社の内容は把握できるんだ。監視カメラをハッキングするのも得意だし。そんな声が聞こえる。
 ふわふわと太宰は笑っているのだろう。コナンは切りたくなった。後で面倒なので切らないが。
「明日来ることも分かったので会いに行きたいんです。良いですよね」
 太宰が博士に聞いている。まあよいがと太宰に甘い博士は答えていて、いいのかとコナンが思う。やったーーと飛び跳ねるような太宰。何きよう。どれがいいかなと再びコナンに太宰が聞く。コナンは暫く考えた後、着物じゃないかと答えていた。
「やっぱりそう思う。着物だったら社長とお揃いだし、お似合いだよね。博士この着物のにする。あ、そうだ。リボンで髪を結んでいこう。帽子も選ばないと」
 ちょっと部屋に取ってくる。あ、コナン君電話切らずに待っていてね。
 受話器をどこかに置く音が聞こえてくる。たったと走っていく音。あんまり走っちゃだめだと灰原が言っているのに、は〜〜いと明るい声。ちゃんと分かっているのか。思いながらも待っていると知らなかったわと灰原の声がした。
「工藤君が着物を好きだったなんて」
「別に好きじゃねえよ。ただ着物だとなれない分動きが制御されるだろう。彼奴が一人ハッスルし過ぎないよう軽く制御しとくんだよ」
「あーー、なるほどね。でも大丈夫かしら。そんなので止められると思えないけど」
「俺も思ってねえよ」
 二人の会話などしらず博士見てみてと太宰の明るい声が電話の向こう側から聞こえている。

…………

 翌日福沢がいると言っていた食事処に来た太宰とコナン達ははっとその目を見開くことになってしまった。え、なんでと見つめるのに四人が行く予定だった食事処、そこには黄色いテープが張られていた。
「何か事件があったのかのう」
 呆然としながら博士が呟く。黄色いテープの所には警官の姿があってどこからどう見てもそうとしか思えない。じっとコナンはその現場を見ながらあーーと形容しがたい声を出した。
「そういうことだろうけどこのタイミングって嫌な予感しかしないんだけど」
「社長大丈夫かな」
「あの人は死なないだろう」
 コナンの横で太宰は心配そうに食事処を見ていた。今にも突撃しかねないのにコナンからは冷静な声が出る。思い出した男の姿は鋭く如何なる敵も排除しそうであった。
「そうだとは思うよ。だけど犯人扱いされていたらどうしよう」
「まさか、そんな」
 太宰が不安そうに言った。ないだろうとコナンは笑おうとした。
「あ、でてきたわよ」
「え」
 二人の目が入口を見る周りに集まった野次馬。その隙間から見えたのは見知った刑事の姿とそしてその後に続く長身の姿だった。
 緑の着物に銀の髪。コナンと博士の口が開く。
「あったみたいね」
 灰原が冷静につぶやく。対して社長と泣き出しそうな声が太宰からは出ていた。気づけば一人走りだしている。待てと言う事も聞きやしない。
 社長と上げた声。福沢が太宰を見てその目を丸く見開いた。思わず足を止める。そんな福沢にどうしたんだと知り合いの刑事。高木が立ち止まり、それから福沢が見ている方向を見て太宰に気付いた。
 あれ、あみちゃんと聞いてくる声。どうしてここにと言っている。それに社長は犯人じゃないですと太宰は叫んでいた。
「社長が犯人なんてありえないです。絶対違います」
「え、いや、そうは言っても……」
 潤んだ目で太宰が高木を見つめる。コナンの知り合いの警視庁の刑事はみんなこの目に弱かった。うぅと苦しそうに顔を歪めては高木はやってくる罪悪感めいたものに耐えている。
「ねえ、高木刑事どんな事件だったの」
 そんな高木に問いかけるコナン。高木はますます情けない顔をしてコナンを見た。太宰の目は泣きそうになりながら高木を睨んでいる。
「コナン君まで……、どんな事件って奇妙な事件だよ」
「で、その人が犯人なの」
「一応ね。犯行が可能だったのがこの人しかいなくて」
「違うもん! 社長は犯人じゃないよ」
 太宰の声が大きく響く。
「でもこうしてつかまってるし、犯人じゃないのなら、もう少し否定をするんじゃ」
「否定しなかったの」
 高木の目が福沢を見た。その手には手錠がしっかりとかけられており、こうして話している間も逃げようとする様子はなかった。太宰やコナンの出現に眉をしかめているぐらいである。驚いてコナンも見上げる。福沢はため息をついていた。
「この現状で否定したところで信じてもらえぬだろうし、なにより今否定せずとも後で乱歩を呼べば私の無実は証明されるだろうからな。心配してくれているようでありがたいが、私は大丈夫だ。それより貴殿たちは早く帰れ。ここは殺人事件のあった店。子供がいていい場所ではないし、殺人者も近くにいる」
「へえ」
 捕まっているというのに冷静に話す福沢。なんの問題もないという。コナンも太宰から聞いてる限り探偵社ならそうなんだろうなと思っていた。ただ事件と聞くと気になるのが探偵の性だし、何より
「や、社長を犯人扱いなんて絶対させません。私が犯人捕まえます」
 ぎっとフードの下、大きな目で店の中を睨みつける太宰がこのまま帰ることを納得しそうには無かった。口元をにやりと歪めて後悔させてやります。と小さく呟く姿からは何か恐ろしい気が漂っている。まるで悪魔のような太宰を止められないことを経験上コナンは知っていた。
 高木が困ったように三人を順繰りに見ている。
「えーーそう言われても、でもこの人は犯人じゃない?」
「ねえ詳しい犯行の状況を聞かせてくれない」
「詳しいって……。そうだな」
 冷や汗をかいている高木にコナンは問いかける。
 これはもうひと押しと分かっていた。当然コナンと同じ、むしろそれ以上に見逃すはずのない太宰はフードの下、目元に手をおいて違うんだもん。と泣き真似をしている。ね? とコナンが首を傾けたのに高木は折れた。
「おい」
「おい、なにやっているんだ。高木。すぐに容疑者をってコナン君じゃないか。何で君がこんな所に」
 高木の口から詳細が語られそうになったところで大きな声が高木を呼んでいた。高木の上司である目暮の声だった。その前に福沢からも低い声が出ている。
 高木のもとにやってきた目暮はコナンたちに気付いてその目を丸くする。面倒なものがまたと言いたげにその顔を歪めた。太宰が目暮警部と駆け寄っている。
「社長は犯人なんかじゃありません。だから私とコナン君じゃなかった。博士に捜査させてください」
「え」
「社長は絶対犯人なんかじゃないもん」
 目暮の膝の下訴える太宰。その声は泣いているものの声でぽかぽかと目暮の膝を叩いている。違うんですよとちらっと上を見上げる仕草。フードの下から濡れてる大きな目が覗く。あざといと一瞬引きながらもコナンもその横に立って援護していた。
「そうは言ってもね」
「分かりました。じゃあ現場の写真だけでも見せてください。絶対社長は犯人じゃないって証明してみますから」
「僕からもお願い。子供の視点からみたら何か分かるかも」
 渋る目暮を一杯の涙をためた太宰の目と真剣なコナンの目が見つめる。これに耐えられるものはいなかった。はぁあとため息をつく目暮。丁度良く証拠品を手にした千葉が出てきており、子供二人の目がそちらに向かう。太宰が真っ先に涙で濡れた頬を見せるのにぎょえと奇妙な声を上げる千葉。
 証拠品と現場の写真を見せてやれという目暮に戸惑いながらもすぐに渡していた。
「おい子供にこんな」
「子供と言ってもこの子たちは今まで事件を解決したころがありますので」
 それを見ていた福沢が眉を顰めて抗議の声を上げたもののそれは流される。
 何かわかるんじゃと何となくみんな期待してみてしまうのを、福沢は苦い顔をして子どもたちをみた。太宰は暫く現場写真と証拠品を眺めていたが、ぱっとその顔を上げていた。店の方に視線を向ける。そこには中から数人の人が出てきているところで、すぐにそちらに駆け出していく。
 おじさん達と笑顔で声をかけた。


 なんでこんなことになったのかと頭が痛む思いで福沢はそれぞれの子どもたちを見ていた。会食の際に起きた殺人事件。犯人と仕立て上げられたことはまあいい。探偵社という仕事柄敵も多く、こう言う策略を仕掛けられることはそれなりにあることだった。
 だが探偵社には稀代の名探偵、乱歩がいる。乱歩に任せておけばすぐに無罪は証明され、はめた犯人も見つけられるので問題はないのだ。
 そうないのにも関わらずあろうことかまだ小学生の子供が事件の捜査をしていた。そんなことをする子供とそれを許している警察を睨んでしまう。何を考えているのだと悪態を付きそうだった。だかまふと福沢は子供の動きに疑問を覚えた。
 容疑者達と話していた女の子が男の子の元に向かう。それだけなのだがその足取りが気になる。その足取りはやたらと軽やかで、その口元には笑みが浮かんでいた。うっすらと口の端を上げる笑みは子供らしさから離れているものだ。いなくなった太宰のことを思い起こさせるような笑みをしている女の子に釘付けになってしまう。
 じっと見つめる先、女の子は男の子の耳に口を寄せていた。
「犯人わかったよ。あの人。」
 一人を指さして女の子は笑う 
「あの人だけ話の中身作ってた。何かをバレないようにって考えているのがバレバレ。うん。あの人の方も隠し事はあるみたいだけど殺しには関係ないよ。それでねあの人さっきからあれを気にしてるみたいなの。あれがトリックに重要な証拠なのかも。それから」
 ひそひそと小声で交わされる会話。周りには聞こえないような音量だが、福沢には聞こえていて、目を丸くしてしまう。信じられないような話をしているのに男の子の方はそれを聞いて考え込んでいた。その口元が上がる。そういう事かと聞こえる声。トリックわかったぜと男の子はそう言っていた。


「社長大丈夫でしたか」
 ニコニコと女の子が笑みを浮かべる。口元に愛らしい微笑みを浮かべている。けど福沢にはそれが何か異様なもののように見えてしまう。ぞっと背筋が震えるのを堪え女の子を見る。女の子は社長の無実が証明されて嬉しいですと無邪気に笑っている。
 その笑みを見て思い浮かべてしまうのは先程パトカーで連行された犯人の姿。
 連行される直前、女の子が何かを耳打ちしていたのだが、それを聞いた犯人は青ざめ大声を上げ叫んだ。そして糸が切れた人形のように動かなくなっていたのだ。
 女の子は今度社長を罠にはめたら許さないって言っただけなんだけど。と涙目で皆に訴えていたがそれが真実かどうかは怪しいところだ。
 何を言ったのか。何にしても恐ろしい。
 今すぐ別れて帰ってしまいたいところだった。だが……
「ああ……。無実を晴らしてくれてありがとう。何かお礼をさせてもらえるか」
 何もしないまま帰るというのは福沢の人道が許さなかった。女の子はお礼なんてと言いながらもちらちらと福沢を見ていた。
「私と付き合ってくださったらそれで」
「あ、気にしないでください。こいつバカなんです」
 女の子から出ていく言葉をすぐさま男の子が否定していた。ガシャンと何かが落ちる音が聞こえる。まだいた警察の者たちがはい、ええ!! と声を上げていた。
「すまない。……それは無理だ」






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