「社長が小学生に告白された!?」
 外にまで聞こえるのではないか。そう思うほど大きな声が探偵社内に轟いた。
 声をあげたのは国木田だが、今は生気をなくしたかのように口を開けて立ち竦んでいる。他のみんなもそのような状態であった。違うのは話の種にされた福沢と、爆弾を投下した与謝野の二人だ。
 福沢はむすりと口を曲げており、与謝野は大笑いしている。
「そうなんだよ。誘拐されそうになったところを助けた女の子に告白されたんだ。おもしいだろ。
それに社長たら適当にあしらえばいいところを大切な人がいるから貴殿の思いには応えられない。すまないなんて真剣に取り合っちゃってさ。いやーー、良いもの見たよ」
「思いを無碍にするようなことはできぬ」
「バカだね〜〜。大人に憧れる子供の告白なんて本気で取り合う方が可哀想ってもんなんだよ。
 笑って受け流してくれたらそんなこともあったな〜って大人になった時いい思い出になるのに、あれじゃあ本気になって痛い失恋しちゃったじゃないか。まだ小学一年生だって云うのにね」
「むっ……」
 まあ、そう言うところが社長のいいところなんだけどね。
 その言葉に反射で頷いた国木田。だがまだ呆然としている。そう言うものなんですね。と敦や谷崎は感心しているような声を放心しながらあげる。
 そうだよ。だからあんたらも子供に告白されることがあったら本気で取り合わないようにね。そんなことは滅多にないと思うけど。そう言って笑う与謝野にそりゃあそうですよと全員が思い福沢を見た。
 その滅多にないことが福沢に起きたのだ。
 正直何人かはその子供将来性あるな。いくら助けてくれたとはいえ社長に告白するなんて。怖くなかったのかと思いだしている。探偵社の中で子供に怖がられる確率不動のNo.1を福沢はキープしているのだ。
「まあ、もうないと思うけど、社長も今度告白されることがあったらもう少しうまくかわしてくださいね。
 あの後大変だったんだから」
「大変?」
「ああ、その女の子が石のように固まったと思えば泣くは喚くは好きなんですって社長から離れなくなったりしてね。すまぬな、すまぬ。どうしても応えられないんだって必死に言い聞かせてたけどあれじゃあ引き離れないよね」
「へぇーー」
 その女の子強すぎじゃないですか? 探偵社に是非スカウトしましょう。わりと全員がそう思った。
「断るにしてももっといい断り方もあったでしょうに。他に好きな人がいるなんて言われても納得しない子はしないですからね。断る嘘はもっと別のものがいいよ」
「……うそ? 何のことだ」
 そうだね、考えていたのが、福沢がぽつりと呟いた言葉によって止まった。他のみんなの思考もまたもや止まった。
「え? 嘘じゃなかったんですか? 社長、大切な人がいるんですか」
 震える声が与謝野からでる。それにああ、そうか。しまったと福沢は思う。誰にもこの事は言ったことがなかったのだと。隠していたつもりはないが誰かに言うような事でもなく、そして、今は……。
 誰かに言えるような状態ではない。
 ちょ、誰だい。どんな人なんですか。固まったままの男性陣とは違い、いち早く我に返った女性陣があれやこれやと聞いてくる。その熱意に押されながらもどう言い逃れるかを福沢は考える。元来嘘が苦手な男にはいい考えなど思い浮かぶはずもないが。
 後ろに一歩下がってしまうのにキラキラとした目の女性陣はその一歩も踏み込んでくる。詰め寄られ汗を流すのにそれよりと助けと読んでいいかわからぬ声が聞こえた。
「それよりさー、太宰の居場所分かった」
 和やかだった探偵社が一瞬で凍り付く。それは先ほど僅かな間固まっていたのは全く種類の違うものだった。見開かれた全員の目。ぎゅうと噛み締められる唇。ひゅっと福沢から息を飲む音が小さく出た。
「いえ、奴の居場所はまだ……」
「やっぱりどっかで死んじゃったのかね」
「そんな太宰さんが……」
「もう一年だろ。幾らなんでもさ」
 ポツポツと聞こえてくる会話。お通夜のような雰囲気。重苦しいものが福沢の背に乗り掛かる。驚き見開かれた褪赭の瞳が脳裏に浮かんだ。可哀想なほどに震えていた唇。


『好きだ』
 溢れてしまった言葉を飲み込むことはできたはずだった。嘘が苦手な福沢だが、それでもあの時の彼ならば拙い嘘を信じた筈だ。そうなんですねと言って笑ったはずだ。だけど福沢が選んだのは別の道で
『貴殿が好きだ。
 太宰。貴殿の事が好きだ。愛している』
 真っ直ぐに伝えた思いに揺れた瞳。私はと動いた唇はその先の音を口にしなかった。幾らかはくはくと開きながらも音をださない口。それはまるで水面で必死に空気を求めるようだった。
 良いから。返事はよい。すまぬな。こんなことを急に言って。でも忘れないでくれ。私は貴殿が好きなのだ
 その姿に向けた言葉。緩く振られた首。蓬髪が舞う。下を向く彼は迷い子のようだった。
「きっと何処かで生きてますよ。だって太宰さんしぶといですもん」
 聞こえてきた声にそうだといいと福沢は思う。そうだといい。もう二度と会えなくともいいから生きてくれていたら。でもそれとは別に会いたいとも思ってしまって。もう一年間姿を見せていない彼、太宰治に会いたいとおもってしまう。
 そう福沢が誰より大切に思ったいとおしい人とは彼の事で、そしてその彼はもう何処にいるのか、生きているのかすら分からない。
 思いを伝えたその翌日、太宰は福沢の前から姿を消してしまったのだった。

 🎀 

「しゃ、社長に振られた〜〜」
 うわーーんと幼い泣き声が騒音で近所に有名な阿笠邸に響いた。これ外に漏れているんじゃと傍にいるものは思うもののまあ、煩いのは何時ものことかとそれ事態は気にしないことにした。気になるのは泣き声と共に言われた言葉。
「いや、振られたって……」
「ほ、他に大切な人がいるって……、私のこと好きっていってくれたのに、なのに、なのにもう好きじゃなくなっちゃったんだ。ふ、ふぁあああん!  しゃちよーーのばかああ!  
 なんで、なんでぇ、なんで他の人のこと好きになるの。好きだって言ったのに。愛してるって言ってくれたのに。私、社長に全部捧げようって何もかもあげようって決めたのにどうしてぇぇええ。
 哀お姉ちゃーーん! 私どうしたらいいのぉおおおお。  もうやだ、死にたいーー。社長ううう、すきぃいいいいいいいいい」
「はいはい。まずは泣き止みなさい」 
 呆れたような引いたような声は聞こえなかったのか大量の涙と共に続く。隣に居た少女、灰原に抱きつくのは少し長めの蓬髪にスカートをはいた少女。えぐえぐと泣く彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れているがはっとするほど美しかった。
「しゃ、ちょー、すきぃ。好きなのになんで……  社長に振られたら私……」
「いや、振られたって言うけどそもそも分かってないだけだろ。他の人の事好きになってねえと思うぞ」
 少女の隣にいるもう一人の少年、コナンが呆れ声をかけるもののその言葉もまた少女には届かない。
「どうして……私のこと好きじゃなくなっちゃったのかな
 やっぱり……待たせ過ぎちゃったからかな……。そうだよね。でも、仕方ないじゃないか……。だって分からなかったのだもの。好きだって云われて嬉しかったけど、告白されて他の人に言われてきたのとは全く違う感覚を抱いたけど、
 でも……それが本当に社長を好きだからなのか分からなかったのだもの。人を大切に思うとか誰かを好きに思うとか私には分からなくて……、どれだけ考えても理解できなくて理解したかったのだよ。
 社長は私に真剣に向き合ってくれたからだから私も曖昧なままじゃ嫌だったのだ。ちゃんと好きって言えるようになりたくって
 でも、今の私じゃわからないからやり直したら……もう一度子供の頃からやり直して普通の子供のように生きることが出来たら私も普通の人みたいにそう言う気持ちが分かるようになるんじゃないかってだから小さくなって、それでやっと」
「待って、待って、そこで一旦待って、今原因言った。振られた原因言ったぞ。そこだそこ。小さくなったって所。向こうはそれを知らないだろうが」
「理解できるようになったのに。女の子にまでなって結婚もできるようになったのに何で」
「だから、待って。そこだっていってんだろ。小さくなってるから、しかも女になってるから気付きたくとも向こうは気づけないんだよ。ふられてねえから、多分向こうもお前待ってるからだから俺の話を聞け、太宰!」
 コナンの怒鳴り声が響くが一番聞かせたい人間には届かず泣き声だけが続く。はぁと灰原のため息がでる。
「無駄よ。聞こえてないから」
「はぁ、どうにかしろよ。こいつ」
「無理よ」
「しゃちょーー。待たせたのは悪かったと思うけどでも、でも仕方ないじゃないか。私にはどうしても必要だったのだよ。じゃないと分からなかったのだもの  何で私の事を嫌いになっちゃったの……」
 ぼそりと呟かれる声。はぁと深いため息がコナンから出る
「俺、あの人にあったの一瞬だけだったけどすげぇ同情するわ」
「私もよ」
 二人が遠い目をして一瞬あっただけの銀髪の男のことを思い出す。可哀想にと同時に言葉が浮かんだ。

 ぐずぐずと泣き声が聞こえ続ける。
























人物紹介

太宰治=灰原あみ   人を好きと言う感情を理解したくてアポトキシン4869を飲んで子供になった。と、同時に別の薬で女に。コナンに拾われ阿笠博士の元で過ごしている。設定は灰原の双子の妹。灰原のことをお姉ちゃんと慕っている(本来の年齢差は彼の方が上)。
少し前まで記憶喪失だった。その間の日々によって少々精神が幼くなっている。また周囲の女性の影響で思考が女の子に。
最近の夢は探偵団のみんなとずっと仲良く過ごすこと。早く高校生になりたい。高校生になって甘い青春を福沢と送りたい。
悩みはどうやって社長を振り向かせるか(もう振り向いている)と、どうやってコナン君をこのままの姿でいらせられるかと言うこと。


福沢諭吉      この作品で可哀想なキャラNo.1、2を争う一人。
             好きな人に告白したら翌日行方不明になられた。最近おかしな女の子にあえば告白され困っている。居なくなって一年好きな人を思い続けている一途な男。待てばば待つほど可哀想度は上がっていく

工藤新一=江戸川コナン  道に倒れていた太宰を発見した人。状況から自分達と同じ薬を飲んで小さくなったのではと推理。目覚めた時、記憶がないのに頭を抱え、太宰が記憶を取り戻した後もあまりにも予想と離れすぎた飲んだ理由に頭を抱えた。あみとなった太宰に振り回される。この作品で可哀想なキャラNo.1、2を争う一人。
                福沢にこいつ太宰治なんですと暴露したくって仕方ない


宮野志保=灰原哀     道に血塗れで倒れていた太宰を発見した人。恐らく薬を飲んで小さくなった彼を匿うのに姉妹設定をつけられてしまう。最初は嫌だったが今はあみとなった太宰を本当の妹みたいに可愛がっている(本来であれば年下)。太宰の恋が上手くいくよう祈ってはいるが無理じゃないかと思っている。



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