世紀末の魔術師

「えーー、怪盗キッドを見た」
「それ本当かよあゆみ」
「うん。とっても格好良かったよ」
「まさに平成のアルセーヌルパンですよね」
 放課後の小学校で子供たちが楽しげに話している。その話題となっているのは世紀の大怪盗と世で言われている怪盗キッドという泥棒の事であるが、その場にいる子供の中でただ一人太宰だけは知らなくてその首を傾けていた。
 キッドってとその口から出てしまう。聞いた子供たちが驚いた顔をして太宰を見た。
「あれ、あみちゃん知らないんですか」
「うん。誰それ?」
「怪盗ですよ世紀末をまたにかける大泥棒。とっても凄いんですよ」
「それに凄く格好いいの」
「ふーーん」
 普段なら犯罪者を捕まえるんだって息巻く子供たちがやたらと楽しそうに怪盗のことを語る。変なのと思いつつも太宰は言わず、ただ興味がなさげな声を出していた。実際興味はあまりわかなかった。依頼でも来ないか、こちらに不利益でももたらそうとしない限り、大体の存在が太宰にとってはどうでもいい。
 こんなに市民に人気のある怪盗がいるなんて警察も大変だなと思いつつそれ以外の感情はわかなかった。子供たちがそんな太宰に興味がないなんてという残念そうな顔で見てくる。
 大体の存在はどうでもいいが、子供たちがこんな顔をしてみてくると少々気になってくる。そんなにみんなが好きなら私も好きになろうかななんて思い始める。
「そんなに凄いの」
「そりゃあもう。ハングライダーで大空を飛んでいくんですよ」
「予告した宝石は絶対盗んじゃうし。あ、でも何度かコナン君が奪い返してもいるんだよ」
「……コナン君に?」
 太宰の目が面白くなさげにサッカーボールをけっていたコナンを見た。ふっふとみんなを見守っていた灰原が笑う。
「彼は平成のホームズだからね。それでどうするつもり」
 問いかけられたコナンは彼の口癖である言葉を口にする。そして見事なまでのフォームでサッカーボールをゴールに向けて蹴り上げた。
「いつか捕まえってやるに決まってんだろ」 
 真っ直ぐにネットを打ち抜くボール。そのボールが転がるのを見て太宰はふーーんと今度もまた面白くなさそうな声を出していた。


 はい、どうぞとくつろいでいる博士と哀の前にコーヒーが差し出されていた。差し出した太宰も博士の隣に座ってほっと一息つく。
 三人のんびりする中で、そういえばと博士がコーヒーを飲みながら太宰に話しかけた。
「コナン君は今頃大阪だったか」
「うん。そうだよ。何でもメモリーズエッグっていうのをキッドから守るんだって。キッドキラーって騒がれてるって聞いたけどそんなに追いかけてるの」
 笑顔で答えながら太宰の首は傾く。あれから一通りキッドについて調べたところコナンが映っている記事を見つけてしまったのだった。
「まあ、何度か対決しておるの」
「ふーーん」
「彼謎を追うのが好きだからね。ついつい謎を作るキッドの名前を聞くと首を突っ込んじゃうんでしょうね」
「そっか」
 博士が苦笑する傍で灰原は呆れているようだった。どうにかならないのかしらなんて呟くのを聞きながらも太宰は納得して頷いている。だけどとその唇は尖って、細い息を出した。
「……でも不安だな」
 そんな言葉が出ていく。博士が太宰を見て首を捻っていた。
「む、キッドのことそんなに不安か。でも彼は人の命は取らないという話じゃし、きっと大丈夫じゃよ」
「そうじゃなくて……」
 太宰の首が振られる。怪盗なんて言う者にはほとんど興味がないけど、ただ人の命を狙っていくような奴は万が一のために全員記憶している。その中に一人引っかかる者がいるのだった
「メモリーズエッグって言ったらロマノフ王朝の秘宝でしょう。確かそれを専門に狙う殺人鬼がいたはずなんだよね。そいつが狙ってないといいけど」
 ふうとでていく吐息。まあきっと狙っているんだろうなと思いつつそこまではまだ口にしなかった。どこかのタイミングできっとコナンから連絡がくる。その時でいいやとコーヒーとともに飲み干していた。


「分かった。よし、調べておけ。十分後にまた連絡を
 ……まてよ。そういえば」
 お風呂上り博士の声が聞こえて太宰は足を止めていた。パソコンの前、誰かと電話している様子の博士を見て太宰はやっぱりかとその肩を落とした。
「否、何あみちゃんが気になることを言っておってな。
 右目を撃つというような話はしてなかったんじゃが、何でもロマノフ王朝の秘宝を専門に狙う強盗がいるとか、そんな話で……。メモリーズエッグもロマノフ王朝の秘宝じゃろう
 ああ、あみちゃんなら……」
「私が何」
 にっこりと笑って博士の前に立った。博士からは驚いた声が聞こえ、あと一歩で椅子から転げ落ちそうになっている。ふっふと笑った後、太宰は博士の手から受話器を取っていた。聞いておったのかと聞いてくるのでうんと頷いてもしもしと受話器に向かい声をかける。ゲッとそんな声が聞こえていた。
 ますます笑みが深くなって何が聞きたいの何でも聞いてなんて言っていた。はあとコナンから聞こえるため息。強盗ってなんだよって切り替えて聞いてきていた。
「ロマノフ王朝の財宝を専門的に狙う奴がいるのだよ。いつも相手の右目を撃って殺していくそうなんだけどね。名前はスコーピオンって云うんだけど関係ありそう」
 ああという声がコナンから聞こえる。ありがとよと言われる言葉に太宰はにこにこと笑った。気を付けてねと言って電話を切る。
 切った後に博士を見た。ふむと少しだけ考えるそぶり。その後にまたにこにこ笑って博士と呼ぶ。おねだりモードを発動する中、博士はどうしたんじゃと暢気なものだった。
「用意してもらいたいものがあるんだけどいい」
「なんじゃ」
 にいと太宰の口元が上がる。



 その数分後、博士は再びのコナンとの電話でなんじゃとと声を上げていた。そんなに驚くなよ。頼むなんて何かを勘違いしたコナンが電話の向こうで手を合わせてくる。慌ててそうじゃないと言っていた。
「さっきあみちゃんに同じものを頼まれて用意しておったところじゃったから、驚いたんじゃよ。そっかきっと君が言い出すと読んだんじゃな
 新一、後で感謝するんじゃぞ。おかげでちゃんと明日には持っていける」
 電話の向こうコナンが一度は驚いていたが、まあ、あいつだからなとすぐに納得していた。分かったよ。じゃあ頼んだぜと電話が切れる。博士の目の前にはにこにこ笑う太宰がいた。


 その翌日博士は太宰にごめんねと謝られた。
 何のことか運転している博士は分からなかったけど、その一瞬後に心臓に響くような驚きとともに分かることになった。太宰の後ろ、後部座席に置いてあったシートの中から子供たちが飛び出してきたのだった。


「コナンくーーん」
「元気ですか」
 横須賀のお城。そこで車から出た子供たちがコナンに手を振る。太宰は真っ先に車から飛び降りてはコナンに向かい抱き着きに行っていた。抱き着かれたコナンが苦しげに暴れる。あみちゃん、がきっと蘭と小五郎の二人が驚いていた。博士どうしてここにと遅れてコナンの傍にまできた博士に蘭が聞いている。
「いやーー、コナン君から電話をもらっての。ドライブがてら来てみたんじゃよ」
 博士はその大きな体で隠しながらコナンに持ってきた眼鏡を渡していた。つけているのを外してその新しい眼鏡に付け替えるのを太宰は楽しげに見ている。コナンがでと奥にいる子供たちを見た。
「なんであいつらまでここに」
「すまんの。知らん間に潜り込んでいてな」
「みんなが行った方が楽しいでしょう」
 忍び込んでいくことに気付きながらも止めなかった、積極的に協力した太宰には悪げなんて物なかった。小五郎が子供たちに釘を刺すのをにこにこしながら見ている。はーーいと子供たちがよい子の返事をするのも同じような笑みで見ていた。
 子供たちの素直すぎる返事より、コナンはこちらの方がどうにもきになってしまった。おいお前何考えているんだなんて聞いてしまうけど。太宰は何でもと笑うだけだ。
 何かしらの仕掛けがありそうな建物はもしものためにその構造全部把握しているなんてそんなことは言わない。おそらく小五郎が正門のカギは閉めるだろうけどそれ以外にも抜け道がいくつかあるなんて、きっと運のいい子供たちならその道を見つけてしまうだろうなんてそんなこともちろん言わなかった。
 そして自分はコナンにずっと引っ付いて離れずうまいこと中に入り込んでいた。
 その場にいる人を太宰の目は観察している。なるほどねなんて出ていきそうになる声は飲み込んでその口元に笑みを浮かべていた。


 ぎゃああと聞こえてきた叫び声。
 慌てて駆け付けた先で見たのは壁についた金庫、その中に片手を入れて天井より垂れ下げられた刀類から何とか身をよけた乾という男の姿であった。
 その姿を見てやっぱりかと太宰は肩をすくめている。みんなが驚いている中、執事は平然と歩き仕掛けの説明をしている。
「他にもまだいくつか仕掛けがありますのでご注意ください」
 そういいながら外される金庫の中にあった手錠。乾の鞄は白鳥警部があさっている所だった。やたらと大きなカバンの中からは色んな工具が出てきている。
「つまり抜け駆けは禁止ということですよ。乾さん
 道具は懐中電灯さえあれば十分でしょう」
 白鳥が懐中電灯だけを乾に渡す。その傍に言ったコナンが垂れ下がる剣と金庫の中を見ていた。ねえと執事に問いかけている。
 その問いを聞きながら太宰は後は残り二人かと怪しいと睨んだ二人を見ていた。一人の正体はもうほとんど分かっている。だとしたらもう一人が……
 考える横で一階にあるという執務室に行くことになっていた。

「こちらには喜一様のお写真と当時の日常的な情景が撮影された物が展示されております」
 執事の言葉を聞きながら皆が執務室に入っていく。飾られた写真を見てコナンがなつみにひいおばあさんの写真がないことを聞いていた。一枚もないと答える彼女。こんなに写真があるのにそれもおかしな話だと太宰は部屋の中の写真を見た。
 当時はそこまで普及していなかったはずだがかなりの数がある。きっと写真好きだったのだろう。コナンもきっと不思議に思っているだろう。首を傾ける中で、乾が何かに気付いて声を上げていた。
「おいこの男ラスプーチンじゃねえか」
 皆の視線が彼に集まり、そしてラスプーチンの話になった。うろ覚えの小五郎は蘭に聞かれて世紀の大悪党だったとしか知らないと答えていたが、そこにロマノフ王朝に詳しい他の人たちが教えてくれていた。
 ふうんと太宰から声が出ていくのを聞く者はいない。なるほどねなんて呟いた後に太宰の目はコナンを見ていた。そろそろ彼は仕掛けに気付くだろうか
 丁度良く小五郎が煙草を吸い始めていた所だった。
 下からの風に気付いてコナンがスイッチを探し出す。出てきたのはロシア語のアルファベットの書かれた簡易的なキーボードだ。
 皆が驚き、そして地下への扉が開くための言葉を考えだす。太宰はあれの仕掛けの答えだけはまだ分かっていなかったのだよなとそんなこと考えてコナンを見た。他にも入り口があったのでそこまで調べるのはやめたのだった。彼は分かるだろうかと楽しくなって見つめる先、コナンは何かに気付いたのか言葉を呟いていた。
 太宰にもよくわからない言葉だ。
 首を傾ける中、なつみにまた聞いていた。
「あの言葉ってロシア語かもしれないよ」
 話を聞いていなかったのだろう小五郎が蘭に問いかけるがけんもほろろな対応をされていた。あっと太宰からでていく声。どうしようと考えてしまう中でコナンは推理に夢中だ。大柄な男、そういえば太宰はまだ名前を聞いていないにきる場所が違うのかもと言っている。
 その男が考え込む中、 がそれってと話している。男が顔を上げる。
 どういう意味なのと問いかけるコナン。
 確か意味は世紀末の魔術師だった。それを知ったコナンが険しい顔で考える。その横で押されていくボタン。何かが回り始める音がした。そしてみんなが驚く中、床が開いていく。太宰はうわあ、埃だらけッと別のことに驚いていた。
 誰も使っていないから当然なのだろうけどねと心のなかでいいながら満足げな顔をしたコナンを見た。
 みんなで下を降りていく。先頭は刑事の白鳥であった。暗い地下を歩きながらなつみの祖父について話を聞いていた。コナンは何かを考えこんでいたが、だが物音が聞こえてそちらに一瞬で意識を向ける。
 僕見てくると真っ先にかけていくコナン。その後を白鳥が追いかけるのを見て太宰は満面の笑みを浮かべた。あの道は抜け道とつながっている。きっと子供たちだった。やっとみんなと合流できる。そう喜びながら、さてとと太宰が見たのは後ろの方であった。もう一つある抜け道の方に近づいていく人影。姿がはっきりと見えて
 やはりねと声が出ていく。その時にふっと乾もまたその人影に気付くいたのに気づいてしまった。どうしようかと一瞬考えてしまったもののまあこうした方がいいよねと見に行こうとする乾の手を掴む。
 駄目だよとそう言っていた。
 えっと、乾が驚いている。
「見に行っちゃだめだよ。」
「ダメって」
「声を落として、こんな迷宮、しかも宝を狙っている人殺しがいるって状況でわざわざ人の輪から隠れるように抜け出そうとするのは怪しいでしょう。もちろんおじさんみたいな宝を独り占めしたい欲張りさんの可能性もあるけど、
 でも危険は冒さない方がいいよ」
 太宰の言葉に乾が驚いてまさかと奥を見た。人影はまだ戻ってきてはいない。
「さっきのは確か」
「しい。声を出しちゃダメ。この会話が聞かれたら私たちもやられちゃう。
 とにかく今は私たちが見たことをばれないようにしてここを出た後に警察の人に伝えよう」
 ねえと太宰が力強く笑う。下手な会話はしない方がいいからと付け足して今はまだ犯人を捕まえようとする動きを制した。
 だってコナン君の推理聞きたいもんねとコナンにこっそり付けた盗聴器のことを思って笑った。


「やはりそうじゃったのか」
 犯人が逮捕されたという話を聞いて、みんなが驚く中、乾はそういっていた。みんなの視線がそんな乾に向く。やはりってどういうと問われたのに乾は太宰の頭を撫でて笑った。
「実は地下を歩いている時、一人動くのを見てしまってな。この嬢ちゃんが止めてくれなければ追いかけて撃たれるかもしれなかったところだ。
 ありがとうよ」
 どういたしましてと笑う太宰はさてとここで売った恩はどうやって使えばいいのかななんてそんなことをすでに考えていた


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