福沢さんは意外にもてる。
 近所の子供には恐れられ、凶悪犯だってその姿を見れば裸足で逃げ出すような相貌をしているにも関わらずお年寄りから若い子にまで実はひそかに人気があったりする。
 その原因はと考えるとやはり乱歩さんと与謝野さんのせいだろう。
 乱歩さんは子供っぽく我が儘でそれに振り回されたせいか福沢さんは子供の扱いに長けていて、それをみた近所のご婦人方はまあとそのギャップにやられる。さらに与謝野さんの世話もしていたので女性の扱いにもたけている。被害女性のケア担当が専ら私と与謝野さんと福沢さんであるぐらいには実は実はで女の子なれしてる。そう言うときあの面に似合わないぐらいに優しくなったりする。
 そしてそんな優しさに触れてしまった女性がコロッと恋に落ちるのだ。
 社長が自ら悪党共から助けたとなるともう駄目だ。直前の超かっこいい姿にもやられてるから、八十度の角度の坂から転がり落ちるように恋をしてしまうのだ。
 怖い顔だけどもよく見たら整っているのも悪いだろう。
 本人はこの顔のせいであまり人に好かれないなんて思ってるけど、そんなことはない。気付いてないだけでかなりもてている。ただその顔のせいで近寄りがたい雰囲気ができて告白できるものが少ないのは確かだった。
 恋人である私としてはありがたい事実。
 だけど告白できはしないくせに思いを伝えたいものというのはいる。それが可視化されるのは福沢さんの誕生日、そしてあと一つ、2月中旬にある忌まわしきイベントバレンタインの日である。
 この時期になるとどこから集まったのか福沢さんに淡い思いを抱く、告げることもできやしない者たちが福沢さんの家にチョコを山程贈ってくる。どうでもいいなんて言ってられたのは付き合いだして1、2年の間だけ。いい加減鬱陶しい。
 ので私は考えた。
 この頃になると福沢さんの動向を掴みに密かに家の近くにくる馬鹿共も多いのでせめてそういう奴らだけでも撃退してやろうと。
 そして社長の家の前にチョコのオブジェをおいた。
 チョコのオブジェをおいた。
 用意するのには苦労した。作ってくれそうな人を探し、どんなのがいいのかその人と話し合いに話し合いを重ねって作ってもらった。
 そのチョコは木の形をしていて、全体を汚れないよう透明なフィルムで覆っている。葉っぱの部分はうまいこと毟り取れるようになっていてフィルムを外せば食べることが可能だ。
 私からのバレンタインチョコ。でかいので外に置きますね。毎日一枚一枚食べてくださいとにっこり笑って言えば福沢さんは絶句しつつも分かったと頷いてくれ、ちゃんと毎日一枚一枚食べている。これはいつ無くなるんだろうな。むしろ消費期限大丈夫なんだろうなと心配しつつも私の我儘を聞いてくれる。正直福沢さんすごいなと思った。用意してなんだがこんなの普通なら絶対怒る。私なら見なかったふりしてその辺の粗大ごみに捨てる。
 だからこそその辺の虫退治に丁度いいわけなのだけど。やり過ぎたなと思いつつも福沢さんの家に帰ると玄関の前ずっと置いてあるチョコのオブジェにニコニコしてしまう




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