ねえ、好きですよ。ずっとずっと大好き。
飛び降りる瞬間太宰が笑った。その言葉に答えようとしたけれど、受ける風が強すぎて口がうまく動かなかった。それでも一心に褪せたその目を見ていた。私を写して、刻み込んで閉じられていくその瞳を離れないよう抱きしめた一番近くで見ていた。鼻と鼻が触れ合う距離
最後まで愛しい人を見ていたくて目を閉じなかった。
叩きつけられるような感覚。痛みなんて感じる暇もなく意識は飛ぶ
なのに私だけが病院のベッドで目覚めた。その瞬間私の心は死んだのだ。
再び太宰と相まみえたその日まで死んでしまったのだ。
理由は分からぬが太宰を得て、再び日々を生き始めた。ただし。
「来るな、来るなよ。あっち行き給え。
もう織田作何処にいるのだよ。ちょっとそこの君見てないで早く織田作呼んできて。織田作じゃなくても広津さんでもいいから早く連れてきたまえ、それでこの犬追い払って!!」
太宰の苦手とする犬であった。
どうしよう。半径五メートルにも入れない
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