わんわんわん

「太宰、もう少しのんびりしていいのだぞ。これでは疲れるだけだろう」
 呆れたような吐息を福沢が零す。そんな福沢の腕の中ではわんと抗議するように毛むくじゃらの犬が鳴いていた。ポメラニアンという種類の小さな犬。実はその犬は探偵社社員、太宰治その人であった。
 犬でなく人であるのだが、ポメガバースという貴重な体質を持っており、今現在は犬の姿になっていた。ポメガバースのものが犬に変化するのは激しいストレスに見舞われた時で、可愛らしい姿で人々の庇護欲を掻き立て庇護してもらうためだ。そう言うが、現状の太宰は福沢の膝の上、福沢に撫でられながらその小さな犬の手でパソコンのキーボードをポチポチ叩いていた。開いている文書には作戦指示書とまず書かれている。そして探偵社社員にむけた細かい指示が続いている。
 ふうと頭を撫でながら福沢がため息をつく。
「これぐらいであれば他の者でもどうにかなる。もう少し信じてあげてはくれぬか」
 ぐるると見た目は可愛らしいくせに獰猛な声が聞こえた。パソコンのキーボードを打つスピードがはやくなって何かの数字を書き込んでいく。恐らくは敵の人数と武器の数。それは今現在探偵社が把握しているものの倍以上となっていた。確かに知らずに行くのは恐ろしい結果を招くだろうし、太宰の心配も分かる。がかといってここで太宰が無理するのも状況的には良くないのであった。
 というのも犬になっているのは大きいストレスを感じたから。その元凶は仕事が過度に忙しすぎたからである。それなのに解消のための姿でストレスとなる仕事をしていたらこの姿でも休めないとなって体が負荷に耐え切れなくなる可能性もある。だからこそ福沢は太宰に休んでほしいのだが、これまた困ったことに太宰は何かしらの問題がある時、それを自分が把握できていないと不安になってそれこそ大きなストレスを抱えることになるのだ。
 今回はポメガバースが起きた後に外つ国からやってきた犯罪組織の討伐が探偵社に依頼されてしまい、本能的になっている犬とは言えそのことに気付いてしまった太宰が不安定になった。なのでパソコンを与え情報収集できるようにしてやったわけだが、その後作戦所まで作り始めて止まらなくなっているのだ。
 太宰の作戦書は普段通り完璧な作戦で思わずうなってしまう出来だが、今作っているその姿は犬の姿。本来犬の脳みそは人間のものより小さいからあまり難しいことは考えられないはずだ。かなり無茶をしている姿を見ている福沢は一人ハラハラしていた。
 無理やり引きはがしたりするとストレスになるからそうしないが先ほどから何度も声を掛けては太宰の体を撫でまわしていた。
 ポメガバースのことに社の中で知っているのは福沢だけだ。だから福沢は太宰の事を甘やかすことも重要な仕事だと思っている。太宰が気持ちよくなる撫で方は既に承知していた。そのおかげか書類を打っている最中も時々気持ちよさげな声が出ていた。それでも打ち続けるのだから犬になっても太宰は凄かった。
 三十分おきに一旦休憩として太宰を休ませることも止めない。嫌がるが十分ぐらいだけ太宰の目を抑えて何もできないようにさせていた。ストレスを感じると噛みたくなるようなので抱きしめる手は太宰のおもちゃであるボールも握っていて、時に太宰の口元に持っていたりもした。ほぼ集中しながら噛むので福沢の手のひらにはいくつもの噛み痕がついていた。
 とっとっととキーボードの部屋の中で聞こえている。
 そろそろ休むぞと福沢は声を掛けていた




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