太宰の目が一瞬見開き諦めたようにふって、それからすぐに妖艶なものに変わっていた。お辞儀をしてどうぞと布団に誘う。
 誘われるままに動きながら福沢は耳元で調査はと聞く。順調ですよと福沢の腕に隠れながら太宰が呟いた。
 口づけのふりをしながら太宰の服に手を這わせていく。その中で福沢は悪趣味だと吐き捨てていた。小さな声に太宰が喉を震わせながら、薄目で襖の奥を見た。銀の目は部屋の隅の花瓶を見ている。直接見つめてくる人の目にカメラの目。ちっと舌打ちをすると社長の姿はちゃんと修正されるので大丈夫ですよと太宰が言っていた。
 何が大丈夫なのかと思いつつそれを聞くことはしない。白い肌を辿り胸の頂点の小さい粒を指でこねる。少しの間そうしてから足の間へと手を動かす。
 太宰は鼻から抜けるような息を吐きだしていた。
 握った竿。それをこすり上げながらさらに奥の方へと片手を伸ばしていく。


 ゆさゆさと体をゆすると太宰の目はぱちりと開いていた。ぎゅっと抱きしめながら体を隠す。褪せた目は左右を見つめる。
 ふっとこぼれていく吐息。呆然と固まるのを見、私はもう行くが何かあればすぐに連絡して来いと福沢は告げていた。はあと乾いた声。そうですか。そう言う目はいまだ閉じていた。
 福沢は一旦太宰が落ち着くのを待っていた。寝ていましたかと落ち着いてきた太宰が聞く。
 太宰を抱きしめるふりをしながら福沢はカメラから隠す。少しの間だったが答えると太宰は驚いてからそうですかと息を吐きだす。布団の上に体を預けながら太宰の目はまた左右を見る。
 かわりはないと教えればほっとしたようだった。それではと離れていく。太宰の手が伸びて、福沢の着物の裾を掴む。
 小さな動作だった。
 ぎゅっと握りしめては見開いていて一瞬で離れていく手。ごまかすように微笑む。離れようとした福沢は一度近付いていた。太宰の頭をなでながら力を少しずつ込めていく。
「こんな仕事早く終わらせてすぐに帰ってこい。待っているから」
 低く囁いた言葉に太宰の目は驚きそれからすぐにそらされていた。


「私はね。基本的にほとんどのことがどうでもよいのです。
 とりあえずある目的をかなえることができればそれでいいと思っていて、それ以外はどうでもいいのですよ」
太宰がつまらなそうに吐き捨てていく。酒を飲みながら福沢はそれでと言った。銀灰の目はよそを見ながらも太宰を見ていた。
 むっと唇を尖らせた太宰はじっと福沢を睨みつけてくる。それだけですよと言う。そうかと頷いた。
 太宰の手が乱暴に箸を突き刺して料理を食べていく。行儀は悪いがそれで何かを言おうとは思わなかった。黙々と過ぎていく時間。
 途中で太宰が食べなくなった。箸を置いて畳の上に寝転がる。眠るのかと福沢は聞く。
 別に寝ませんよと太宰は答えた。ただ起きているのも面倒なだけですと短く言う。そうかと頷いて食べていく。静かな時間だった



いい加減来るのやめてほしいんですよね。ふっくらと頬を膨らませた太宰が呟く。福沢は何も答えずその頭をなでていた。特に問題にならないことは分かっているでしょうとその口が動くから分かっていても気になるものだろうと福沢は答えていた。
 頭を撫でる。太宰の口元は尖た。
「社員も増えて仕事も増えてきました。一人の者に構う時間なんてないのではないですか」
 よそを向きながら傍で太宰は吐いた。頭をなでながらそうだなと頷く。
「社長としてあまりかまってやれないだろうな。でもこの時間は社長としての時間ではないから」
「はあ」
 ふわふわと頭を撫でていく。穏やかに告げていけば太宰はその目をまるくしていた。褪せた目が見上げてくる。福沢は穏やかに笑う。
「何のつもりですか」
「何のつもりだろうな」
 穏やかな表情で太宰を見る。太宰はため息をついて福沢から視線をそらしていた。小さくなって目を閉じている。何もないままただ時間は進んでいた。
 どれぐらい時間が経っただろうか。少なくとも長い針が半周はしていた。もしかしたら一周していたかもしれない。それでも福沢の手はまだ太宰の手を撫でている。
 閉じた目が薄っすらと開いて少しだけ手の方を見た。もう一度閉じながら起きていた体が敷かれていた布団の上に転がっていく。手はそれに何も言わずともついていた。
 太宰の目がまた開いて福沢を見た。
「……もう少しいてもいいでしょう。プライベートならこの後の用事もないでしょう」
 少しためらってから言葉は出ていた。福沢は目を少しだけ見開いていたが、すぐに穏やかに笑って頷いた。なでる手が止まることはない。
「疲れているのか」
「別にいつもつまらないだけの仕事ですからね」
「そのわりにはつかれていそうだが」
 問いかける声。太宰は否定しつつも目を閉じており、次には答えることはなかった。撫でてくる手を甘受していて、振りほどこうとはしない。蓬髪をなでつつ、福沢のもう一つの手が太宰の目元に触れていた。瞼を覆い隠すよう手のひらが乗る。
「……何ですか」
 ごろりと眼球が動くがその手もまたどけようとしてくることはなかった。
「ゆっくり休むと良い」
 頭をなでる手は少しだけリズムを変えていた。今までのは力強くてその手の熱を感じるものだったが、今は優しく穏やかで眠気を誘ってくるようなそんな撫で方だ。ため息までは出ていかないが太宰の口元が小さく曲がっていた。
「一応仕事なのでしないとなんですけどね」
「ここには監視カメラも何もついてないだろう」
 形だけは困ったよう口にするから福沢は大丈夫だと言っていた。そして太宰の耳元に優しく声をかける。
「お休み」


 起きたかと声をかけたけど太宰は答えなかった。手の下で眼球が動いている。目を閉じたまま動かない太宰の頭を撫でていく。
「どうかしたか」
 あまりに動かないので問いかけた。太宰の口元が小さくだけ動いていた。何かの形を作ろうとしてすぐに変わっていく。一度二度と閉じてから福沢の手のひらのした瞼が動いた。持ち足掻える感触に手を離せば褪せた瞳と目が合う。
 その目は福沢を確認してはすぐにそらされていた。
「別に……何にもないですよ」
 小さな声が聞こえてく。それ以外何も言わず動こうとしない太宰を福沢はじっと見下ろして、そしてその口元に笑みを広げていた。いつものほんの少し変わるだけのようなものと違う。
 はっきりと分かる笑みを浮かべた福沢は太宰を見降ろしてその目を柔らかに蕩けさせ栄太。
「仕事の時だけと言わん。疲れたと思えば私の所においで、これぐらいならいつでもしてやれる」
 揺れた褪赭。出ていた吐息。瞼がまた動いて閉じていた。
「……まあ、きがむいたら行ってあげますよ」


 出ていく声に福沢はさらに微笑んでいた。その手は太宰の頭を優しく撫でていく。


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