「暑い」
 家のなか、聞こえてきた声に福沢は顔を上げていた。手を止めるのに撫でていた猫がにャーーと鳴く。ゆるりと後方を見るとだらしなく横になっている乱歩と与謝野の姿。二人ともへそが出ているのにはぁとため息が出ていくのに
「だらしない」
 出てしまう低い声。ぶーーんと扇風機の羽が回る音が聞こえてくる。
「うるさいよ」
「うるさい」
 上半身だけ起き上がった二人が福沢を睨み付けてきた。
「そこにいる奴の方がもっとだらしないだろう!」
 乱歩のてが福沢、その膝を指差してきた。福沢がそちらをみる。そこに水氷枕を額と腹にのせた太宰の姿。パタパタと福沢のてが太宰に向けて内輪をあおいでいた。んーーと太宰からうなり声が聞こえてきた。
「こやつは暑いのに弱いのだ」
「僕らも弱いんだよ、依怙贔屓!」
「あーーもうしゃべる気も起きない。妾にも水氷枕をくれ」
 太宰の変わりに福沢が答えると吠える乱歩。与謝野は吠える気力もないのかごろりと転がり福沢に手を伸ばす。
「私は動けん。自分でとってこい。後、水氷枕の袋は全て使っているからそこにあるビニール袋でも使え」
「太宰に載せてるのひとつくれても良いんと思うんだよね。後足元にあるクーラーボックスの中にある氷使えばそこにいても作れるだろう」
「……」
「福沢さん!」
 ばたばたと太宰を仰ぎながら福沢が告げる。ジト目で与謝野が福沢を見つめる言うが、返って帰ってくる言葉はなかった。あーーとそんな声が太宰から出ていく。太宰の目がゆっくり開き福沢を見上げる。ぱちぱちと瞬きをして、探偵社にいきましょう。そんなことをいった。
 はぁ?とぴりぴりした雰囲気が突端変なものをみる目に変わった。何だと見つめてくる目。
「探偵社の方が絶対涼しいじゃないですか。私探偵社に泊まります」 
 太宰が言うのにはぁと三人から出ていく声。何を言っているんだと見つめてくる目は変わらない。
「探偵社だと他の奴らが仕事中だ。迷惑になるだろう」
「社長室で過ごせば他の人には迷惑にはならないのでは? 誰も来ませんし」
「だが」
「そもそもわざわざ探偵社に泊まらなくてもあんたの部屋にいけば良いだろう。まだ残してるんだろう」
 福沢が太宰にバカなことを言うなと言うのに太宰は大丈夫ですよと笑っていた。聞く気がない太宰に困るのに与謝野が至極当然なことを口にする。それに対して太宰は福沢の膝の上、不思議そうに瞬きをしてぽんと手を叩いていた。
「それもそうでした」
 太宰から出ていく声。忘れていたのかこいつと乱歩と与謝野の二人が見るが、福沢はにこにこと笑っていた。もう二年も家に帰っていなければ、忘れてしまうよな。そう思っているのにそもそも二年も帰ってないくせに寮だけ残しているのはおかしいんだよと乱歩と与謝野は思っていた。
「でも私の家、絶対ホコリだらけになっているじゃないですか。しばらく帰ってないから布団も使えないし、エアコンだって使えるかどうか……」
 あきれた目で見られているのに気付きながらも気にせず太宰はんーーと唸った。その結果与謝野の言葉を否定したが、嫌とその言葉を乱歩が否定していた。
「安心しな。お前の部屋はきれいだ。何処かの甘やかし男が三ヶ月に一度ぐらいの頻度で片付けに行っているからな。部屋も布団も綺麗だし、エアコンも使える。水道やガスも問題はない」
 ぱちぱちと太宰が瞬きをするのを福沢が見下ろしていた。
「そうなんですか」
「ああ。一応何時でも泊まれるようにはしているぞ」
「ふーーんでは泊まりに行きますか。ここは暑いです。何ならしばらくは向こうで暮らしましょう」
 不思議そうに首を傾けて聞いた太宰。水氷枕が落ちていたのをもとに戻しながら福沢が答えると太宰は嬉しそうにその口許を綻ばせていた。そしてそのまま楽しげに告げる。ぐったりとしていたのが嘘のように起き上がる太宰。ポタポタと、水氷枕が落ちていく。床と肩の間に挟んでいたのをあわせて三つの水氷枕を与謝野に渡した。
「はい。与謝野さん、これをお使いください。私にはもう必要ありませんから」
 三つを受け取った与謝野はうわぁと引いた声を福沢に向ける。与謝野が来た頃にはすでにあの体制だったからまさかしたにまでいれているとは思っていなかったのだ。
「甘やかしすぎだろう」
 与謝野が呟くのに福沢はそ知らぬ顔で立ち上がり自分の部屋に向かっている。
「太宰、服は二日分で良いのか」
「はい。あ、酒は何本ぐらいが良いですか」
「とりあえず十本ぐらいで良いんじゃないか。足りなければ買い足しにいけば良いしな」
「とりあえずって数ではないんですよね」
 ばたばたと動き出す二人。それをぼんやりと見てしまってから
「ちょっと待ちな!」
「ちょっと待って!」
 与謝野と乱歩が怒鳴っていた。
「え、何、社長もいくつもりなの。ふざけないでよ僕の夕食はと言うか、明日も帰ってくる気ないよね着ないよねに連休の間ずっといるつもり」
「そうだよ。折角連休ただ飯食らおうとやってきたのに私のご飯どうしてくれるんだい」
 二人が福沢に詰め寄っていく。その間に太宰は袋のなかに十本お酒の瓶を詰めていた。かなり重くなるが破けないのかと見つめてまあ、いいやと太宰は袋を台所に置く。福沢が服を用意してくれたら終わりだなと先ほどまで福沢が居た場所に座る。足元にあるクーラーボックスを開けた。でてくるのはキンキンに冷えた缶ビールと同じく冷えた小さな酒坂瓶。こっちにしようと酒瓶をてにしてふたを開けた。
 ごくごくと飲みながらそう言えばこれも持っていくんだろうか。冷やしたし持っていくんだろうな。折角二人きりなのに酒飲み会になるじゃないか。全部飲んでしまおうか。そんなことを考える。
「冷蔵庫のなかに材料はあるし、米もある。与謝野に作って貰えば良いだろうこれなら与謝野もただ飯が食える」
「明後日の朝はいないでしょう。良いの僕が遅刻しても!」
「ふざけんな!人が作ってくれたなにもしなくても良いただ飯を食べに来たんだよ! 妾が作るんじゃここまできた意味ないだろう!」
 我儘な福沢は思うが我儘なのは太宰の方だと二人は思っていた。酒瓶を一本開けて、缶ビールをてにする。プシュと良い音を立てるが三人は聞いていなかった。
「朝は電話してやる。与謝野はまた居酒屋にでも飲みにつれていてやるからそれで許せ」
「電話でなんか誰が起きるか」
「一回だけで納得すると思っているのかい。今日と明日の分で二回つれていけ!」
「ああ」
 からーん。空のビール缶が床に転がる。冷たい水のなかを漁る。もう一本手に取った。
「少し我儘が過ぎるぞ」
「大丈夫。太宰よりはましだから。とにかく明日には帰ってきてよ。朝食がないでしょう」
「二回!」
「ああ、わかったわかった明後日の朝食は用意しておく。与謝野は二回連れていてやる。それで良いだろう」
「おっしゃ!」
「っし!」
 ガッツポーズをする。負けている。思いながら四本目を手にし開ける。はぁとため息をついた福沢が太宰をみた。目があった。


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