寒いね。鍋の季節だね。そうだね鍋の季節だね。暖かい鍋を食べてお腹から温まりたいよね。そうだよねえ、
 そんな会話が繰り広げられていたのは本日昼の探偵社だった。二人が何を求めているのかは端から見ていても一目瞭然でチラチラと見られていた福沢も当然分かっている筈だった。


「なのに何で鍋じゃないの! バカなの! あの流れで鍋じゃないとかありえないでしょ」
「そうだよ。せっかく鍋を食べに来たっていうのに鍋じゃないなら来た意味ないじゃないか」
 ばんばんと机を叩く二人。今日の夕食、魚の西京焼きとほうれん草のお浸し、ひじき、それに蟹の吸い物と並ぶのを食べながら福沢は直接言ってこないお前らが悪いと言っていた。
「太宰は蟹の吸い物が食べたいとちゃんと言ってきたぞ」
 福沢の隣、太宰がテヘッと舌を出す。もぐもぐと食べながら太宰はとっても美味しいですと笑いかけてそんな太宰を二人が睨んだ。
「お前の仕業か」
「あんたの仕業か」
「ごめんなさい。急に食べたくなってしまいまして。だって社長のこれは本当に美味しいですから」
「まあ、言ってこなかったお前らが悪い」
 あんと一口口のなかに放り込んだ太宰。そんな太宰に嬉しそうにしながら福沢は二人に向けていう。二人は納得できる筈もなくきゃあきゃあと騒いだ。
「言ってなくても分かるだろ! あれだけアピールしたんだから!」
「何が急に食べたくなってだ! 僕らが鍋を食べたいって言ってたの聞いたから頼んだくせに。僕らで愛の確認をするなよな! 福沢さんも福沢さんだ! 子供と恋人どっちが大切なの! 普通子供を甘やかすべきでしょう」
 二人の言葉に太宰はにこにこと笑った。福沢は首を傾ける。
「成人した子供を甘やかす必要が何処にあるんだ?」
 心底分からんと告げるのに乱歩は即答する
「僕が甘やかされて生きていきたい!」
「知らん」
 二人の会話の横で与謝野も騒いでいるのに太宰は腰を上げた。まあまあと言いながら台所に向かっていく。ん? どうしたんだと全員がその姿を追うのに数分後、その手にお盆をもって太宰は戻ってきた。
 あっと声を上げた福沢。立ち上がりかける。太宰まってそれは福沢がいうのに太宰はお盆を与謝野の前に置いていた
「お鍋はないんですけど、これで充分身体は温まると思うのでどうぞ。今日は許してください」
 与謝野が目の前に置かれたものを見る。ジィとみいる姿に乱歩がああーーと情けない声を出す。その前で仕方ないねと与謝野が頷いていた。太宰が出したのはあっ熱々に温められた徳利。中身が酒だということはこのばにいるものならすぐに分かった。それが数本並ぶのに満足そうにする与謝野はその一つをてにして飲み出す。あーーと福沢の肩が落ち、太宰を恨めしそうに見る。元々は福沢が夕飯の後に飲もうと準備しておいたものだ。
「……太宰」
「後で社長の分は私がつくって上げますよそれではダメですか」
「それならよいが」
 太宰が笑うのに福沢は許してしまう。一人納得できていない乱歩は怒鳴った。
「何で僕にはなにもないの!」



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