「花見したいんだよね」
 朗らかな日の日差しが暖かな午後。
 福沢の家の居間で福沢、太宰、乱歩、与謝野の四人はまったりと過ごしていた。酒を飲みながら花見かと太宰は庭に視線をやる。庭の手入れなどには興味もない三人の男が暮らす福沢の家は、立派な庭があるものの雑草が生え放題で景観はよろしくない。ついでに猫もい放題で主は大変満足している。
 が、まあ花見をするには物足りない場所だった。
 あんまり行きたくないな。
 太宰がそう思うえば、福沢が酒を一口飲んだ。
「酒飲み会をしたいなど……珍しいな」
 ん? と太宰の首が傾いた。
「誰がそんなこと言ったの。僕は花見がしたいって言ったんだけど」
「だから酒飲み会だろ。花見をみるのを口実に酒を飲む。いいね。いいね。いつ行く」
 乱歩が呆れた目を向けるが、与謝野は乱歩にそう答える。そう言うことかと納得しながら太宰が福沢をみると、福沢はその口元を嬉しそうに弛めていた。福沢のなかで持っていく酒を選んでいるなと考えを読む。
「僕がしたいのはそう言うんじゃないんだけど」
「乱歩さんはは花見に乗じて普段は買ってもらえないほどお菓子買ってもらって食べようって魂胆だろ。言い方違っても気になることはないだろう」
「ゲッ」
 グラスをガバガバと煽りながら与謝野が告げる。その中身も酒だった。なるほどなと福沢が呟き呆れた目を乱歩に向けていた。
「いいでしょ。別にたまには僕には優しくしてよ」
「充分している」
「もっと太宰と同じぐらい」
「……理由がない」
「理由がないってなに! そんな断り方ある!!」
 ぎゃあぎゃあと乱歩が叫んでいる。良くやるなと思いながら太宰は空になった福沢のコップに酒を注いで、それから福沢の手にコップを掴ませている。
 自分のもとに福沢の手を動かした。少し力を入れただけで殆ど何もやっていないが、福沢の手は太宰の口元にまでくる。グラスの縁が口元に当たる。ごくりと酒を飲む。
 与謝野が呆れためで見て自分で酒をついだ。すぐに空になる。
「兎に角花見するからね!」
 騒いでいた乱歩が宣言する。なら私はその日は一人で仕事でもするかと太宰は考えていた。だがそれは乱歩が許さなかった。
「穴場を賢治くんに教えてもらったからお前も参加いいね」
「え」
 口を尖らせてしまう。僕が言うんだから絶対だよと乱歩に告げられ太宰は渋々頷いていた。まあ、人がいないのであればいいかなと思いながら、でも外ではのんびりできないから嫌いなんだよなと思っていた。
「良く考えてみな。お花見ならお弁当が食べられるんだよ。福沢さんが作ってくれるお弁当。中身を想像してごらん。食べたいだろ」
 嫌そうな太宰に仕方ないなと乱歩が行くきがでるよう説得を開始した。お弁当と太宰が呟く。その目は少しそれに興味を抱いていた。そういやこいつ人にお弁当を作ってもらったことなんてないのでは。その姿を見て与謝野が思う。乱歩も同じことを考えたのだろう。さっと福沢を見てゲッと青ざめていた。
 ものの数秒で説得しようとした事を後悔してしまう。
「中身はなんですか」
 ちらりと横の福沢を見上げて太宰が聞く。大分心は揺れているようでその目には期待しているような色があった。与謝野と乱歩の二人が頭を抱える。
「そうだな。蟹いり焼売と蟹の天ぷらなどどうだろうか」
「行きます! 花見行きます! お弁当楽しみです」
「待て待て待て待て! そのお弁当大丈夫! 僕らの好きなものちゃんと入っているんだろうね」
「いま考えている弁当のおかず全部書き出しな。そしたら妾たちがそれを元にして決めるから!」
 きらきらと輝いた太宰の顔。すぐに乱歩と与謝野が騒ぎだしていた。福沢に詰め寄る中、本人はのんきに酒を飲む。
「安心しろ。お前達の好きなものもちゃんと詰める。ただちょっと太宰の好きなものが多いだけだ」
「全然安心できないんだけど! ただでさえいつも太宰の好物が多いのにそこにちょっとがついたらそれはもはやちょっとじゃないよね。本当ひいきはやめてくれる」
「恋人かそうじゃないかの違いだ」
「子供と恋人で態度変えるのどうなの! 子供の方が恋人より大切でしょ」
「小さい子供ならともかく充分成長しているだろう」
「小さい子供になってやる! 出会った頃の歳になって困らせてやる」
 言い合う二人、暴れるだけじゃダメだ。何か手を打たなければと考えている。が、太宰を見て、あっと思った。太宰は満面の笑みを浮かべていたのだ。
「お弁当本当に楽しみです。お礼に花見のお酒は私が用意しますね。与謝野さんの口にあう最高のお酒をお持ちしますよ。おつまみも私が準備しますよ。きっと気に入ります。花見をするのに丁度いい美味しいお菓子をたくさんご用意しますね」
 乱歩を見た与謝野。一切の横やりを許さず話しきった太宰。その太宰にあーーと与謝野から声がでていた。乱歩の肩がゆっくりと落ちる。
 こいつ譲るきないな。
 二人の心の声が重なった。



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