性行為。
 人間の本質的に身近であるものの、遠いものである。
 一般的に隠れて行われ、大ぴらにすることはない。知識がなくてはならないものだが教えられることも少なく本番になるまで何となくの知識でしか望めないこともよくあること。そこで大きな失敗を犯してトラウマになるなどと言うこともよくあることであった。
 それと同じようなことに今福沢は直面していた。
 福沢諭吉。四十六歳。男。一年前に恋人となった相手との性行為にやっと持ち込めたのだが、このままでは今後ずっと恋人と性行為ができないかもしれない危機が彼の身を襲っている。
 性行為自体はかなり昔にだがしたことがあった。まだ政府で働いていた頃に何度か売春宿で女を買って抱いたことがある。入ってすぐにこれも経験だとか何とか云われて連れ込まれたのが始まりだったが、その後一人で通ったりもしてそれなりに経験はあった。
 ただ一つ。とても、とても重要なことの経験がなかった。
 いわゆるゴムと呼ばれる避妊具をつけたことがなかったのだ。
 福沢が通っていた売春宿では避妊に関することは女たちの方がやっていて男が何かをすることがなかった。初めて相手となった女は男に任せるより自分でやる方が確かだからねと言って笑っていたこともあったのを何故か鮮明に思い出しながら、福沢はどうしようと自分の性器を見下ろしていた。
 福沢の股の間。聳え立つ性の象徴。先走りの液をこぼすそれは薄いゴムに先端だけが覆われていた。まだまだ覆われていない部分はあり、ゴムも余っている。だが、福沢はそれを下ろしていいものかどうか悩んでしまっていた。
 できるならば今すぐに外してしまいたい。外して楽になりたいと思う。
 そんな福沢の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。それは熱いからとか興奮したからとか、そんな理由で流れているものではない。流れている理由はただ一つ、性器がとてつもなく痛いのだ。何なら今すぐにでも叫び出しそうなほど痛いのだ。
 歯を噛みしめ。手のひらに爪を立てながら福沢は性器、の上にかぶせるゴムを睨みつける。
 きりきりとゴムは福沢の性器を締め付けてくる。男の最大の弱点ともいえる性器を締め付けられ強烈な痛みを感じる。気すら失いそうだった。
 これが正しいことはまずないだろう。明らかにゴムのサイズが合っていない。だがどうしろと言うのだろうかと福沢はゴムが入っていた箱を睨んだ。その付近にもういくつか箱が置かれている。
 恋人とやるとなった時、福沢はまずゴムを買いに行った。男同士なので妊娠の心配はないが、中に精液を出したままにするとしんどいという話は昔言っていた売春宿の女性に聞いて、知っていた。そのために買いに来たゴム。だが、ゴムの売り場を前にして福沢は固まった。
ゴムがどう言ったものかは何となく知っていたが、それにサイズがあると言う事は知らなかったのだ。まあ、よく考えれば普通のことでそうだよなと思いながらも福沢は悩んだ。自分のサイズはいくつだろうかと。
性器のサイズを争いあうような馬鹿な現場を目撃したこともあったが、福沢はそう言ったことには興味がなく、それまで自分のもののサイズなど気にしたこともなかった。
だからいくつかのサイズが並ぶ中、どれを買えばいいのか分からず悩んだ。そして福沢は全部買った。分からないのであればつけて確かめてみたらいいだろうと。
家に帰った後、福沢は早速確かめることにした。まだ明るいうちに何をしているのだろうとも思ったが、丁度良く恋人がいなかった。そのうち帰ってくるだろうが、恋人がいる家で隠れてやるよりはいないうちにしてしまった方がいいと。本番になって確かめるなんてそんなこと考えられる筈もなかった。
 トイレに入り、ズボンを脱ぎ、立っている状態でないと意味がないだろうからと、恋人の痴態を想像して自慰をしてたたせた。
 そして、買ってきたものを取り出す。まずは真ん中サイズから確かめていくのがよいかと真ん中のものの箱を開けた。中に入っているゴムと説明書を取り出した。説明書をよく読んでから装着していく。裏表を確かめ。裏の部分を亀頭にあてる。そこから巻かれている部分をくるくると下に下ろしていく。
 ちょっと下ろしてすぐ福沢はこれは違うと気付いた。まだふくらみの部分すら超えていないが、とても痛かった。締め付けがきつく変な声まで出そうになるのに慌てて離す。
 どう考えても小さすぎたのに、ではとそれより大きいサイズを手に取った。二段ぐらい飛ばしてもいいのではないかと考えたが、ゴムのサイズがどう変化しているのか分からないので慎重に行くことにした。
 蓋を開け、ゴムを取り出して先ほどと同じようにする。ふくらみに行く手前、福沢は手を止めた。痛みは初めの方から感じていたが、もしかしたらこういうものなのかもしれないと我慢して進んでいた。
 が、これは違う。どう考えてもふくらみを超えることはできないと考えて外す。次のサイズを手にした。そんなことを繰り返し、気づけば最後の箱になっていた。ふくらみを何とか超えられそうなところまで来たがまだ超えられたものはいない。
 だが最後のサイズだ。
 これならばできるだろうと、なんでか慣れてしまった手つきで、ゴムを先端に付け下ろしていく。
 少しきついがこんなものだろう。一番のふくらみまであと少し。ぐっと痛みが走る。歯を食いしばり耐え、まあ、こんなものなのだろうと下に下ろす。ふくらみに到着した。引っ掛かり下に下ろせない。ゴムが広がっていくのが分かる。ぎゅうと締め付けられる感触。喉から何かが出ていきそうだ。だがきっとこんなものなのだ。そう思い下ろす。何とか降りた。後は下までもっていくだけ。
 が、そこまでだった。
 痛みが限界を迎えて押し殺していた声が出る。何とかもう一度飲み込みながら福沢は気付いた。
 これもサイズが合っていないと。
 中ぐらいから順に大きくしていて最後に残った一つ。つまり最大サイズ。それすらもあっていなかった。
 これを使うしかないのではないか。一度全部下ろしてみたら。だがこんな痛みでは性行為自体出来ない。間違いなくあっていない。だがもうこれしかないのだ。
 冷や汗をかきながら福沢は考えた。
 あまりの痛みに今にも外してしまいそうだったが、それでは駄目だ。と手は下に動く。どうにか下までいてくれ。だが下まで行ってもぐるぐると考えている中、びりりと何かが破れる音が聞こえた。少し薄れた痛み。
 あっと福沢は性器を見下ろす。先端がゴムの中からこんにちはをしていた。



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