山姥切も含めて本丸にいる刀剣の願いはただ一つ。
 主の平穏であり、幸せであった。今の主は審神者ではない。政府が作った刀剣もどきと呼ばれる存在。詳しくは知らないが何処か別の世界で生きていて死んだ後、その魂を使って刀剣にされたらしい。その方法は外道といわざるおえないが、まあ政府らしかった。
 そして山姥切にとってはそれだけは政府に感謝したいところだった。
 おかげで主に出会え、地獄のような日々からその手を差し伸べてもらえたのだ。
 山姥切もそれ以外の刀もみんな主に感謝し、そして報いたいと思っている。それだけでなく主と過ごすうちにこのどうしようもない人を幸せにしてあげたいとそう願うようになっていた。
 だからその言葉は結構言葉に来た。

 なんで彼奴の仲間を探してやらねえんだ。彼奴のことを考えるならそれが一番だろう。

 それは主が助けた刀の様子を見に他の本丸に視察に行った時だ。その本丸の主に問いかけられた。それは長い間、山姥切が見ないようにしてきたことで、同じく傍にいた厚が固まり笑みをひきつらせていた。

 その本丸の主は主と同じ他の世界から来たものだった。
 ただ主と違って普通の人である。何でも異世界の人をただ刀剣にするだけでなく、戦力として強くするため、その中の一人は核として審神者になるよう生まれ変わらせるのだとか。そこの主はそれで、その本丸には主と似たようなものが多くいた。だから主の事情を山姥切たちよりも知っているのだろう。
「どこかに仲間がいるはずだろう。探してやれよ。どんな奴らか知らねえが人の心がある奴らならそれで解決だろう。政府も俺たちを敵に回したくないはずだしな」
 男が言うのを聞きながら山姥切はぼろ布の下。唇を噛みしめていた。布を纏っていてよかったとその時初めて感じた。今の山姥切は自分のことなどどうでもいい。ただ傷ついた主の刀を人目に隠すのに丁度良いと己の布を使っていた。今はその布の裏で唇を噛みしめながら睨みつけそうになる目も隠していた。
 そのあと男の前を逃げるよう立ち去っていた。山姥切も他の者も分かっていた。
 主の詳しい詳細など知らずともどこかに主の仲間がいること。そして密に会いたがっていると言う事も。
 きっとその人たちは主を助けてくれると主を見ていたら分かる。分かりながら気づかないふりをしていたのだ。
 主を幸せにしたい。主に笑ってほしい。
 それが刀の願いである。だけどそれと同じぐらい自分勝手に主にずっと傍にいて欲しいとそう思ってしまっていたから。
 もし仮に主の仲間が見つかってしまえば、今この現状から主を助け出してしまうだろう。そうしたら主はただの刀剣に戻ってしまう。そうなれば彼の元に使えることを許されなくなる。きっと今まで主が助けてきた他の刀剣たちと同じように他の人の元に送り付けられるのだろう。他の人を主と言わなくてはいけなくなる。ずっと主の傍で主の世話をしていきたいのに。だから気付かないふりしてきてしまったのだ。
 でも少しでも主のことを思うのならばやはり主の仲間を探すべきなのだろう。



 「太宰さんの仲間の人……」
 困ったようにその眉は寄っていた。えっとと言葉を濁らせる相手を見つめながら大倶利伽羅はその口元を噛みしめていた。そのことに決して気付かれないようにしながら相手から目をそらす。
「他の奴らにもいるように主にもいるんだろう」
「それはまあ、でもそれは」
 表に出さないよう気を付けているが不機嫌なのは伝わるのだろう。相手は恐れるようにしながら、それでもちらちらと大倶利伽羅をみて口を開こうとしていた。
「転生審神者の本丸だけが参加される演練があるのは知っていますか」
 じっと待っていれば暫くして男は答えてくれていた。はあと大倶利伽羅から低い声が出ていく。知っているかも何もそれを知らないものなど大倶利伽羅の本丸にはいない。何を隠そうその演練を計画したのは主だ。
 演練に参加しない本丸にはブッラクのものが多い。審神者が人見知りで参加しないケースもあるが、人に見せられないような様子だから参加しない者もいるのだ。そのケースが目立つので演練に参加しない本丸は要観察中とされる。その中で気づいたのが転生審神者の本丸もまた演練に参加しないものが多いと言う事だった。それに関しては人見知りであるとかは関係なかった。
 そうでなく刀剣たちが見世物になるのが嫌だと参加しないものが殆どなのが調査で分かっている。
 刀剣たちには同じ刀でもそれぞれ個性があるが、転生審神者はその性質なのか、何なのか。異界の者から作り出した刀剣以外も個性的であることが多かった。なんなら前世特有の力を使う相手もしばしばで演練にでれば奇異の目で見られることが多い。
 遠巻きにされるだけ、もしくは少し話しかけられるだけならいいのだが、ふざけたことを言ってくるものも言って必然的に転生審神者は演練に行かなくなってしまうのだ。
 演練は情報収集やいざという時、他の審神者との連携のためにも出ておいた方がいいものだ。それがそんな外的な要因で出られないのは問題だろうと、主が考えて打ち出したのが同じ転生審神者のみが集まる演練だ。
 それならば奇異の目も少なくなるだろうと。
 一度はいってみたいと思いつつも大倶利伽羅たちが行ったことはない。
 転生審神者の刀剣の行動は読みづらいものが多いし、やたらと強い奴らが多い。自分たちでは負けることはなくても傷つくことになるだろう。
 演練の傷は本来ならば政府の仕組みで治るようになっているが、主に対する政府のいじめの一環で大倶利伽羅たちの怪我が直されることはない。
 主に迷惑をかけるのが嫌で参加できないのだ。
 その演練のことを何で今、相手を睨むのに相手は肩をはねさせえる。委縮しながらいや、そのと情けない声で何かを言おうとしていた。
「そこに今度行くと言い。できれば水曜日に行くと良いことあるから。
 それじゃあ」
 ばたばたとこけそうになりながら相手が去っていく。呆然と見送りながら大倶利伽羅は男の言葉を心の中、復唱していた。
 演練に行けばいい。それも水曜日。それはつまり……。
 理解すれば大倶利伽羅はすぐさまみんなの元へ向かっていた。




 水曜日。転生審神者だけが集まる特殊演練会場。
 そこに朝から九振りは来ていた。もともとは九振り全員で来るだなんて誰も考えていなかった。全員そんな事したくなかったが、誰が行くとなった時、全員自分が行きたいと言ってもめたのだ。主を任せられるのか見極めてやると鼻息を荒くしていた。譲らずにいると騒ぎを聞きつけた太宰がやってきて、演練に行きたいなら行けばいいじゃないか。今日は忙しくてとくに相手をしてあげられないからね。ほら行っておいでと追い出されてしまったのが経緯。
 嬉しそうだったのは気のせいと思いたい。仕事を邪魔されなくて済むから嬉しいなんてそんなことは絶対に思われていないはずだ。
 そうしてやってきた演練は騒がしい印象だった。
 がやがやと騒がしい。時々というか、かなりの回数演練にいっているが、その中でも一、二を争うほど活気だっているように思えた。よくよく見てみると審神者はもちろん、本丸外の刀同士でもたくさん話している。どうやら同じ異世界から無理やり連れてこられた者同士、政府に思う所があったりしてその不満を口にしたり、それぞれの世界の変わった話をしている。どの話もとても盛り上がっているようだった。
 異世界産というのは変な奴らが多いんだよねとどう考えても癖の強い主が言っていたが、癖が強い者同士話があうのかもしれなかった。
 どちらかと言わずとも落ち着いて過ごすのが好きな刀剣たちは止まってしまいそうになりながらも進んでいた。

 目的は主と世界を同じくする仲間を見つけることだが、それ以外にも人の会話を盗み聞いては情報を集めていた。
 主はよく言っているが情報は武器だ。最強の武器をもち相手を圧倒せよ。戦いに関して主はよく言う。二回、三回、何回でも仕掛けてこようなんて思わせるな。一度でその息の根を止めろ。とだからそれに倣い刀剣たちも隠密に力を入れた。
 人の中に交ざりながら必要な情報とその他の情報に分けていく。これは主に報告しておこう。これは主には報告しないが覚えておこう。これはあの男を揺するのに使える。これは政府のあの人に教えておこう。
 えられる情報なんてごくわずかだが、そのごくわずかな中で情報を分けていく。
 一癖も二癖もある転生審神者が集まっているだけあるのだろう。普通の場所よりも有意義な情報が多かった。主が行けるのなら私も行きたいのだけどねとぼやいていた理由がよくわかる。嬉しそうな顔で追い出されたのもそれが理由だと思いたい。
 情報を集めながら周りを見ていく。様々な人がいる。なんならどう見ても人じゃないのもいた。


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