ぎょっと坂口の目が見開くのを太宰はにんまりと口元を上げて笑っていた。どうだい。美しいだろう。地面気に胸に手を当てている。ぽかんと坂口の口が開いてはあと気の抜けた声が出ていく。
「何を言ているんです」
そう聞くのに太宰は美しく笑ったまま答える。
「ちょっとした潜入捜査をしてきたのだよ。とても有意義な時間だったよ。美味しい情報ざくざくにそれに偶然会った探偵社の出資者とも話が弾んでね。色をふんだんにもらえることになったよ。今度は私を指名して大仕事を頼んでくれることになったんだ。これを解決できたらそれだけで今月二倍以上誰より私が稼いだことになるよ。あの人もきっと喜ぶ」
 ふふっと太宰がにこにこと笑う。頬を赤くして幸せそうだった。太宰の隣で静かに酒を飲んでいる姿を坂口は見てしまう。その隣に座りながら酒を飲んでいく。
 暫くしてからはあと首を傾けた。
「ついに性別のこと言ったんですか」
「うん。 別に言ってないよ。潜入に関しては直接私には関係ない男だし、ちょっと油断して関係者にあってしまったけど、女装だと言う事で乗り切ったしね。あの男知らなかったけどその手の趣味がある男だったんだよね。
 抱かせてくれというのはできないけど、多少触らせるぐらいは必要かな。でもそれづらいだよ。それよりこれであの人との関係が深まればあの人も喜ぶとは思わないかい。
 何せあの男はこれからもっと上の地位に上るような男だ。あの男の関係がうまくいけば探偵社はますます安泰だ、
 あの人の喜ぶ顔を見られるのが嬉しい」
 やはり太宰は幸せそうだった。 
 愛らしくにこにこと笑いながら話しているのに坂口はうんと首を傾ける。とても話についていけないと思っているうちにお待たせしましたとグラスが置かれていた。考えるのが億劫で飲み干していく。
 そう言えばと違う話題を口にしていた。
 笑う太宰は気にする様子はない。最近は着ることのなかった美しいドレスの姿で優雅に酒を飲んでいる。
「最近、探偵社の周りでおかしな噂が流れているみたいなんですよね。なんでも探偵社の社員の異能を消す異能の男はとある資産家の隠し財産のありかを知っているだとか、実質その男が探偵社を支えているとか、これって太宰君。貴方の仕業ですよね。」
にいと太宰の口元が上がった。
「さすがな寝。安吾。」
「なんでそんなこと知っているんですか」
「簡単なことさ。乱歩さんが昔から狙われているのは知っているよね」
「それはまあ、あの人の能力を考えたら当然のことですし」
 坂口の言葉い太宰は頷いていた。頷きながらだからさという。
「それを私に移し替えたのだよ。乱歩さんはあの人にとって大切な人だから。あの人が守っているし、寮は安全だから大丈夫だとは思いますけど襲ってくるものが多ければ多いほどいうのも大変でしょう。
 だから乱尾さんを狙う輩を私に移し替えることであの人の手間を減らそうと思って。
 私なら誰に襲われようとあの人が困ることはないからね。それにどうとてもできるし」
 うふふと太宰は楽しそうに笑っていた。乾いた吐息が坂口から漏れていた。奇妙な目で太宰を見てしまうが、太宰はそんなことは気にならないようだった。太宰君って坂口の口が動く。
「こないだ福沢に怒られたって言っていませんでしたか」
「うん? 無茶なんてしてないのに無茶をするなって言われたからね。今度は仕事での無茶はしないようにしてみることにしたの。人に狙われるのは仕方ないことだし、これならいいでしょう。
 太宰は自慢げだった。すごいでしょっと言いたげだ。だが坂口はため息をついていた。否、それはほとんど変わらないだろう。また怒られるだろうとだがもう細かいことを考えるのは止めて酒を飲み始めた。
 
 ぷくうと膨らんだ頬。つまらなそうにグラスを回してカランコロンと音を立てる。そんな太宰を見ながら坂口は一つため息をついていた。何をふてくされているんですかと呆れた声で言う。
 太宰はぷっくうと頬をさらに膨らませてふてくされてないものと答えていた。
「私はいつも通りなのだよ」
 口にしている。はああとまた坂口からため息がでていく。
「どうだ。福沢にでも怒られたのでしょう」
 分かりやすく太宰の肩が跳ねた。そんなのじゃないものとそう言いながらとがった口元にグラスを運ぶ。ちびちびと飲んで膨らんだ頬を腕に押し付けていた。
「私はただあの人の役に立ちたいだけなのに、あの人にとって大切なのは探偵社と乱歩さんなのでしょう。それならそれが守れるならいいじゃないか」



 その日、太宰は怪我をして動けないでいた。
 実際には動くことはできるのだが、殆どが面倒になっていてもう動きたくなくなっていた。面倒な相手は全員まいたはずでこの場でそのまま眠ってしまおう。朝になれば動く気にもなっているだろうとそう思ってその目を閉じようとしていた。
 そこに来たのが福沢だった。
 聞こえた足音に目を開けた太宰は見えた人影に目を見開いた。何でと出ていた声。太宰が見つめる前で銀の色をした鋭い眼差しが太宰を見降ろしていた。何をしていると低くなった声が問いかけてくる。太宰の瞼がぴくりとうごいた。
 口を閉ざす。何をしているともう一度低く問いかけられる。じっと見つめてくる目は鋭くまるで刃のようであった。
 太宰と福沢の声が太宰の名前を呼んでくる。
 太宰の目は福沢の目をとらえてそれからすぐそらされていた
。口を閉ざし何も言わないままでいる。福沢の目はますます鋭くなっていた。ゆっくりとだが一歩一歩確実に太宰の元に近づいてきて、そして太宰を見降ろす。ぎゅっと噛みしめられた唇が目に入った。
 深いしわが寄った眉間。
 怒りの深さが伺える。太宰の口元が小さく上がった。
「なぜそんなに怒っているのですか」
 穏やかな声だった。
 そして心底不思議そうな目をしてよそを見ていた。どうしてとその口が言う。何故だと福沢から声が出ていた。
「本当に分からないのか」
 問いかけてくる声。太宰の目が福沢を見上げる。分かりませんよとそう答えてはまたそらされていく。噛みしめられる歯の嫌な音が響く。分からないのかともう一度福沢が聞いた。太宰は答えなかった。
 ただ背を丸めて隠れるようにしている。
 見下ろしていた福沢が太宰の傍にしゃがみ込んでいた。
「怪我しているのか」
 低い声が太宰の体を見て問う。太宰は問いうとよそを向いたまま小さなものですよとそう言っていた。動こうと思えばいつでも動けます。そう言いつつも動こうとはしない。どうしても動く気にはなれなかった。
 福沢の目がじっと太宰を見降ろしては太宰の腕や足に触れていく。怪我は小さなものといった通りどれもたいしたことがないものであった。
 横きれなくてかすった程度。それだけのもの。その怪我を見下ろしながら福沢はまた歯を噛みしめていた。
 強く噛みしめたせいで歪んだ唇が見える。
 みしめた音がまた聞こえてきそうだった。
 「またどこかに勝手に捕り物をしに行っていたようではなさそうだな。追われていたのか」
 問いではなかった。ただの確認作業のような者。
 手縫う意図薬を取り出している。手当をしていくのを太宰は黙って見ていた。福沢の眉間の皴は濃い。何かに怒っているのは伝わってくる。最近と福沢が口を開いた。
「良くない噂を耳にする。昔からそう言うものは多くあったが、最近のは今までとは少し違ったも野になっている。それに頻度がおかしい。お前の仕業だろう」
 これまたたたきつけられると五。じっと福沢の目が見降ろしてくる。そぽを向きながら太宰はそれが何ですと言っていた。一度は息をのみこみながらもなんてことないようにどうでもy下げに言う。太宰を福沢が睨みつける。
 目をそらしながら太宰は私は何も悪いことはしてないです。貴方に咎められるようなk十はないとそう言っていた。
「本当にそう思っているのか」
 酔った福沢の眉。今にも怒鳴りそうな顔をしながら福沢の声は静かに太宰に問う。ここしばらく福沢はいつもこうだった。少し前までは太宰に怒鳴ることが多くあったが、今はそれさえ諦めてしまったように何かを耐えるようにしてその怒りを抑えている。目は逃げ出しながら太宰はだってそうでしょうと口にする。
 探偵社が困るようなことにはなってない。寧ろ探偵社としては助かる筈です。乱歩さんは探偵社の命綱のような存在。それを狙うものが減るのは良い事でしょう。
「それでお前が狙われるのに蚊」
「私が狙われようと探偵社には関係がないでしょう」
「太宰」
 鋭い声が太宰の名前を呼ぶ。その声は闇の中に響く。太宰の肩が一度だけ跳ねた。福沢が慌てて口を閉じる。くっきりと刻まれてしまう皴。刃のような目が太宰を見る。
「傷ついてほしくないと言う事がどうしてわからない。今回のことだけでない。お前はまだ無茶なことをしているだろう。本来なら軍や警察と協力して掴まえるはずだった組織を一人で捕まえたことも分かっている。それにまた一人で危ない所に侵入しただろう。そういう事は危ないからやめろと何度言えばわかるのだ。」
 福沢の声は激しいものだった。感情が高ぶって激しい怒りを向けてきながら、抑え込もうともしていた。最後は絞り出すように言われる。そっぽを向いた太宰はこれぐらいどうてことないですよと言って、福沢の目が太宰を見降ろす。
 どうしてと太宰に言う。どうしてそんなに一人で傷つきたがる。無茶をしたがる。何のためだとそう問われる。口を尖らした太宰はだってと言うもののそれ以外は何も言わなかった。
 福沢の手が太宰の頭を撫でていく。
 動いているのは左手のみだった。太宰の目がちらりとだけ動かない右腕を見る、
 太宰が入社して以来一度もその手が動いたことを見たことはなかった。
 何のためもないです。そう太宰は言った。私がしたい事をしているだけ。邪魔しないでください。無茶なんてしてませんから。そう言う。
 福沢がじっと太宰を見る。
 その目は何故か大きく丸く見開かれていた。それから一瞬だけ福沢の手が太宰から離れて己の右手を触っていた。




 翌日の太宰は機嫌が悪かった。 
 いつものバー。いつもの席で真っ赤な顔をしてふてくされている。ぶすくれた顔をしてグラスを睨んでいた。
「なんでそんなに機嫌が悪いんですか。良い事でしょう。やっとあの人の怪我が治ったんですけど」
「うるさいな。分かってるよ。……だけど、わたし探偵社やめようかな。その方がきっといいのだよ。




[ 66/312 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -