「あるじさま! いつまでもおきてないでさっさとねてください。いいかげんにしないとぼくおおりますよ」
 ぽこぽこと頬を膨らませた今剣の手が太宰の腰辺りを叩いている。力加減はされており全く痛くもないそのこぶしを受けながら太宰ははいはいと苦笑していた。結局あの女の審神者は太宰を壊すことはできなかった。
 太宰の美しさに目を奪われ太宰を囲い込んでその間に太宰に本丸を支配されて居場所を失い自分が荒魂とした刀剣たちに呪われて廃人のようになり始めていた。
 やり過ぎだと言ってくるようなものもいたが因果応報。悪いのは女だろうと太宰は小うるさい声は全て耳にしないことにしていた。
 主がいないと何もできない癖にと太宰の刀剣男子たちに言ってくる者もいたが冷たい目で見ていたが、それからまたいつも通りの日々。
 荒魂に落ちなかった刀剣たちのメンタルヘアをして、次の主に渡す準備。そして、次の主の選定をする。ブラックの本丸にいた刀剣の殆どは刀壊を望むが、政府としてはそうも言っていられない。貴重な戦力。鍛えられていない刀剣はまだ考えないでもないが、鍛え上げられた刀になればもう一度審神者の元で働いてほしいとそう考えるのだった。
 その二者の間で頭を悩ませるのが太宰の役目だった。
 ブラックから助け出した後はそれこそ刀剣たちと話し合いを続けて説得する。面倒な仕事であるが、人がやるより元は人といえ、似たようなものになった太宰が話す方が刀剣たちも聞く耳を持ってくれた。そしてもう一度やり直そうと思ってくれた刀剣の主となる者を選ぶのも太宰の役目。
 刀にはそれぞれ本丸での個体が出てくるからその個体と相性がいい相手を選ぶ。もちろん刀剣たちに手を出さないようなやつというのは絶対条件だ。
 別の主に渡った後も数か月内に一度は直接会いに行って変わったことがないか確かめている。新しい主に分け当たす場合にもすでに本丸を構えているものに渡したり、逆に新しく始めるものに預けたりとその刀剣男子たちの事情によってさまざまだ。ブラックの調査も並行してそれらも行うから休める時間がなかなかできない。
 ブラック本丸よりブラックだと刀剣たちみんな騒いでいた。
 とはいえ、これ以上やれば刀剣たちに大事なデータすべて消されてしまう。それは恐ろしいので大人しく太宰はパソコンの電源を落としていた。背伸びして立ち上がる。先ほどから傍でずっと張り付いていた今剣がにこにこと笑う。愛らしいが、その愛らしさに騙されるなかれ。彼が一番太宰のデータを壊してきた回数が多かった。
「今剣。パソコンには触れちゃだめだからね」
「はい。それよりもあるじさまお休みの前に何か食べますか。用意しますよ」
「うーーん」
 今剣の言葉に太宰はお腹に手をあてていた。言われてみれば感じまくる空腹。ものみたいなものであるがどういうことか太宰は食べなければお腹がすく。ただあまり気にする必要もないぐらいで太宰は良いやと首を振っていた。それより寝るよと言うと太宰の刀剣は嬉しそうに笑う。
 それがやりやすいと太宰は微笑むのだった



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