太宰サイド


「あるじさま! いったいいつまでおきておられるつもりなのですか! はやくねむってください」
「主。いい加減にしないと俺にも考えがあるからな」
「主! 主はいくら俺らと同じような刀剣といえども元は人間なんだぞ! 倒れたりしたらどうすんだ、早く寝ろ」
「主、寝ねえと俺が主の酒全部飲んじまうからな!っひく。早く寝ろよ」
「主」
「主寝ろ。頼むから寝ろ」
「主、今すぐ寝て」
「主、今すぐ寝ろ」

次々と聞こえてきた九もの声に私は片耳をふさいでやり過ごす。全く持ってみんなして過保護で困る。私はもうお世話を焼かれるような年は過ぎているのだけど。
「はいはい。今の仕事が終わったら寝るから安心して「いますぐねるんです!」
「主様!」
「主。怒るぞ!」
 怒るぞってもう怒ってるじゃないかと思いながら太宰は口をつぐんだ。言えばもっとうるさくなるのを経験上知っているからだ。キーボードを打っていた手を止めて保存していくむ。この様子だとすぐにでも強制手段にでられそうでそうなる前に数十種類だしていたものを全部保存していく。もう一日かけて作った何十という書類が一瞬で消え去るなどという悪夢はさすがの太宰と云えど体験したくなかった。じぃと己を見つめてくる気配に太宰は嘆息した。
「分かった分かった。ちゃんと寝るよ。全く明日までに出さなくちゃいけない書類まだ終わってないのにな」
 上にまた怒られちゃうかもとわざとらしく肩を落として呟けばうぐっと言葉を詰まらせる小さな塊に視線と笑みがこぼれた。可愛いんだからと思うのもつかの間。
「で、でも主は働きすぎなんだ! 無茶ばかりして」
「そうですよ、あるじさま!きゅうそくはだいじです」
「主が倒れたら俺たち何するかわかんねえからな」
「そもそも主に政府の奴らが仕事持ってきすぎなんだ」
「政府なんてぶっ潰す」
 話が物騒な方向にながれだした。なんでそんな方向に行ったのやら。
「こらこら。君たちがそんな思考してるなんて政府に知られたら私が刀解されちゃうよ。やめてよね」
 うっと呟く彼らは今度こそしおらしくなって。早く寝てくださいと小さな声で言ってくる。しおらしくなった所で太宰を寝かせる気なのは変わらないらしい。残念だと呟きながら太宰は立ち上がりみんなの元へ向かう。みんなはみなホッとしたような嬉しそうな顔を浮かべて……でも次の瞬間鳴り響いた音に全員の顔が凍り付いた。
 PRRRPRRR
 鳴り響いた電子音。それは太宰がつけっぱなしにしたパソコンから鳴っていて、凍り付いていた顔が次第に親の仇を見るような険しいものへと変わる。太宰だけは口元に薄らと笑みを浮かべて涼しい顔で立っていた。 
 だがその目は暗く。一条の光すらも宿っていない。


「どうやら私の休息はなくなったようだね。
 さあて、今回はどんなところに行くことになるのやら。今剣。それに山姥切国広。今日は君たちに私の護衛を頼もうか。付いてきてくれるね」
「はい。あるじさま」
「主が望むなら」
 ギュッと唇をかみしめたみんな九振りは太宰の為に道を開ける。その道を歩く太宰。彼に応えた二人は腰に下げた刀を差し出す。その刀を太宰が手にすれば二人の姿は煙のように消え失せた。悠然と歩く彼はこの本丸にだけある特別なゲートの前に立つ。
 口元に見るものすべてを魅了させる蠱惑の笑みを浮かべ太宰は告げる。
「では行ってくるよ。みんな」


 光に包まれた彼が行く先は、光なき世界。闇に覆われ穢れに満ち刀剣達の悲鳴が鳴りやまぬ暗き世界。通称ブラック本丸。
 時の政府管轄ブラック本丸対策本部所属刀剣、太宰治。それが今の彼の名だった。



 最初にそこに降り立ったのはただの気まぐれだった。
こことは違う別の世界、異世界と呼ばれる世界でかつて生きていた太宰は死んだ後気付けばこの世界にいた。
 生まれ変わりとかそう云ったものではない。かつての世界で死んだ後の魂を無理矢理この世界に持ってこられて、形代と呼ばれるものの中に詰め込まれたのだ。それだけではふんわりと意識があるだけなにもできやしないのだが、審神者とか呼ばれるものから力を与えられれば人型になり昔のように動けるようになるのだ。そう云った存在であると目覚めた瞬間から理解した太宰は、その審神者なるものに呼ばれる瞬間をただ暗闇で待っていた。
 近くにはかつての仲間たちがそろっているのを感じたが、残念なことにただの思念体の状態ではおしゃべりすることもままならずに待っていた。自分を呼んでくれるただ一人の人が現れるのを。
 かつての仲間たちも皆その人の元に行くだろう。
 そうしてまた昔のように共に過ごすのだと思いながら待っていた。だけどそこには僅かに恐怖があった。待っている最中に思ったのだその人は今もかつてと同じ気持ちを抱いてくれているだろうかと。
 太宰が待つものは太宰と同じで別の世界からこの世界に連れてこられたものでありながらも、太宰のように死んだままの魂を直接形代に押し込んだ存在ではない。ちゃんと人の子として生まれているのだ。幽霊として時が止まったままの太宰とは違いそこには生きている時間が流れている。記憶だって持っているそうだが、きっと己とは違う別の存在の記憶というような認識の仕方をしているだろう。でないと普通の人生は歩めないはずだ。だとしたら……。
だとしたら彼はもうかつての思いなど微塵も残してはいないかもしれないと思ってしまったのだ。
太宰が待つ人はかつて太宰が愛した人で、そして太宰を愛してくれた人。二人は恋仲だった。その人に抱いた熱い思いを今もまだ太宰は抱いている。当たり前だ。太宰にとっては死んでからも人生は続いてたよ的な感覚でしかないのだ。そう簡単に抱いた思いが途絶えるはずもない。
 だが太宰の待ち人は違う。一度は人生が完全に終わっている。また新たに人として生まれ変わり、別の人として生きている。そこに記憶があろうがなかろうが関係なく別の人生を歩んでいるのだ。
 ならば前の人生で抱いた思いなど途絶えていてもおかしくはあるまい。別の好きな人がいてその人と恋仲になっていたなんて事になっていても太宰が責める権利はもはやそこには存在しない。違う人生。今まで築いてきた太宰との関係性などすべては終わったものになってしまっているのだから 
 もしそんなことになっていれば待ち焦がれながらも太宰はそれが怖かった。だから待ち人が審神者になり太宰に仲間たちを呼び求めるようになってもすぐにはいけなかった。太宰が恐怖で動けない中一人また一人と仲間たちは待ち人の元に行く。最後の一人が行き太宰は暗闇に一人になった。
 いっそのことここで一人で過ごすのもいいかななんて思いもしたが、それはあまりにも寂しく苦しかった。
 ずっと待ち続けた人の気配、その人が最後の一人である自分を呼ぶ気配を感じながら、暗闇の中居続けるのは太宰には無理だった。だから立ち上がって呼ばれる声に応えようとした。湧き上がる恐怖。もし待ち人が太宰の事を愛してなかったら。もし別の好きな人がいたら。その時太宰は自分の気持ちを押し殺してこれから先を過ごしていかなくてはいけない。そんなの無理だと思いそれゆえに足が竦んだ。
 行きたくないそう思ったとき、声が聞こえてきた。 
 その声はか細く力ない助けを求める声だった。この世界の大体の情報を把握していた太宰は聞こえてきた声が意味していることを瞬時に理解した。そして考える。今はまだ心の準備ができていない。いくのが怖い。できればもう少し後がいい。
 それならばちょっと寄り道してみるのもいいんじゃないかと。それに太宰が愛した人は弱っている人には優しい。苦しんでいる人を見ると放っておけない性質を持っている。太宰に思いを向けるようになったのだって始まりはそんな所からだったはずだ。
 ならばと思った。
 あの頃のように傷ついて苦しんで心まで壊し果てたらあの人もまた自分を見てくれるのではないかと。太宰に手を差し出して、優しさを与えてくれて、そして与えるうちに愛を勘違いしてくれるのではないかと。
 それはとても甘美な誘い。
 太宰は進もうとした方向から足を変えて声が聞こえた方に向かって飛び降りる。


 ちょっとした気まぐれでの寄り道。放浪癖のある太宰ならばそんなことだってあるだろう。みんなそう思ってくれるだろう。そうそれは気まぐれだったのだ。胸に甘くて黒い悪魔を抱いた気まぐれだった。

 
そして辿り着いたブラック本丸。
 そこは驚くほどに荒れ果て禍々しい気配に満ちた息苦しい場所だった。太宰を出迎えたのは醜悪さがその面ににじみ出てるような男。着ている服は皆上等なのにその醜悪さで歪んで見えた。服は人を選ぶと言う言葉もあれどここまできたらどんな服でも醜くしか見えないなと太宰は関心すらしたほどだ。
 男は初めて見る刀、というか包帯にかなり困惑していた上、包帯など戦えるわけがないだろうと手近にいた男・刀剣男子を八つ当たりのように殴りつけ、床に倒れ込んだのを何度も蹴りつけていた。
 数分ぐらいありとあらゆる暴言を投げつけながら蹴りつけると男は満足して包帯・太宰に向き直る。蹴られていた刀剣はぐったりと床に倒れ込んで動く気配を見せない。
 これはこれは想像以上、中々面白そうだと太宰はほくそ笑む。そして嫌々ながらも男が太宰の形代、本体である包帯に霊力を注ぎ込むのを感じて笑みを張り付ける。
それは儚げでありながらも妖艶な見る人すべての心を虜にし惑わせる蠱惑の笑み。 
 男は太宰を見てその醜い顔をさらに醜く歪ませた。



 それからすぐ太宰は男のお気に入りになった。本体こそ包帯なものの太宰のステータスは軒並み普通の刀剣達よりも高く強かったのだがそれでも男は太宰を出陣させることはしなかった。出陣はさせず毎日太宰を甚振った。
 男には嗜虐の性質があり、太宰の白い肌に幾つもの傷跡をつけることを好んだ。刀で切りつけることもあれば蝋燭を垂らすこともあった。一度などは太宰が死なぬのをいいことに太宰の背に油を塗りたくりその上に火を放ったこともあった。その美しい顔を苦痛で歪め、ありとあらゆる液を垂れながしながら、絶叫しのたうち回るのを見て男は興奮するのだ。そんな風に甚振りそして最後は息も絶え絶えになった太宰をその汚い欲の棒で犯した。欲のままに手酷く抱き、そしてまた太宰に傷を増やしていく。刀剣破壊一歩手前になるほど痛めつけてそこで漸く手当するのが常だった。
だが手当されるだけ太宰はましだったかもしれない。太宰のように痛めつけられて手当もされず打ち捨てられた刀剣はたくさんいた。太宰は男のお気に入りでこの世に他にあるか分からないからこそ手当されているに過ぎなかったのだ。その本丸は刀剣男子達にとってまさに地獄だった。
 だが太宰はそんな本丸のなか絶望などと云うものは欠片もしていなかった。
 太宰は男が寝入った隙間や他の刀剣男子達を虐めている間などに、男の部屋にあるパソコンや情報機器を使い外の情報を集めては整理した。部屋の外に出ては本丸内を探り、ブラック本丸である証拠集めや屋敷の状況を分析する。そして男がどこかに捨てたこんのすけを探していた。
 男は太宰が動けなくなるほど痛めつけるので何もできないだろうと高を括っていたのだが、ところがどっこい。
 太宰はそれこそ刀剣破壊一歩手前ぐらいの傷にならないかぎりは自分から動くことができるのであった。一時的に自分の精神と肉体とを切り離すことで痛みを感じなくなれるのだ。体がぼろぼろの状況でそんな事をしたら本来ならやばいがどうせ死なないだろと太宰は平然とやってのける。そして着々と男をこの本丸から追い出す準備を進めていたのである。
その準備を進める途中、太宰はあることに気付いた。それは自分の能力の変質である。元々太宰には異能力という普通の人にはない力が備わっていたのだが、それがこの世界に来た影響か何かでかつての力がより強いものへと変質していたのだ。
 太宰の異能は人間失格。その効力は触れたものの異能を無効化することであったが、この世界では異能だけでなく呪術と云ったものにまで効くようになっていたのだ。
 それは審神者により縛られる刀剣男子達にも聞くものであった。普通の審神者と刀剣男子の関係であればそこにあるのは契約で結ばれた主従関係だけだ。だがブラック本丸の審神者と刀剣男子達の間にはそれとは違う呪術が入り込んでいる。ただの契約であれば勝手に契約を反故にすることはできなくとも否定的な意見を述べることも真っ向から対立することもできる。
 だがブラック本丸のものたちはそれができない。そこに呪術があるから。
 それは審神者自身が分かっていてかけた場合もあれば、知らないうちにかかっている時もある。分かっていてかけた場合は何らかの術を使ってかけより強力なものへと変容する。知らずにかけた場合はそれは言霊によるものだ。言葉には魂が宿る。何度も何度も刀剣男子達に無茶な命令を行い、暴言を吐き捨てているうちにそれが呪術となり刀剣男子達と審神者の間を繋ぐ。
 呪術となってしまえば刀剣男子たちはその審神者の言う事を逆らうことができなくなるのだ。
 だが太宰の力はその呪術を無効化し消し去る力。刀剣男子達に触るだけで審神者によって呪術で繋がれた刀剣男子を開放することができる。解放されたその刀剣男子はもう審神者の言う事を聞かなくても済むようになるのだ。
 太宰はその力によって九振りの刀剣男子達を開放した。
 本丸にはもっと多くの刀剣男子達がいたがそれらは解放しなかった。なぜなら残りの刀剣男子達はすべて荒魂へと変貌する手前だったからだ。
 荒魂とは落ちた神。
 そんな彼らを解放したらみんな男に向かい男を殺し、そしてこの地を穢れに満たすに違いない。ただでさえ穢れた地、そんなことになればただの人間が刀剣モドキになっただけの太宰など一溜りもない。一瞬で飲み込まれ黒く染まるのが分かっていたから太宰は彼らに触れなかった。
 太宰が助けた九名はみな他の者たちも助けるように願い出てきたがそれだけは叶えなかった。それより太宰はその九名を男の目から隠し、けがを治すことに尽力した。
 手入れは普通審神者でなければできないが、ここで新たな事実が判明した。元人間だった太宰には薄らとだが霊力が存在していたのだ。と言っても本当に薄らで審神者になれる程度ではない。
 だがその霊力があれば怪我した刀剣の手入れぐらいならばできたのだ。と言っても微々たるもの。通常の審神者が直す五倍ぐらいの時間をかけなければ治らないがそれでも治せたのだ。
 太宰は時間をかけて九振りを直し、そしてこんのすけをみつけた。その間にも何度も男によって甚振られ刀剣破壊にまで陥りかけながら諦めず、絶望することなくそこまでたどり着いた。
 太宰は見つけたこんのすけを直し、外の世界へと連絡を取った。ブラック本丸である完璧な証拠を送り付け、政府が助けを送るように仕向けた。そうしてから太宰はまだ落ちていない九振りを庭の隅に隠した。それから荒魂になりかけのあらゆる刀剣男子達の元に行きその体に触れた。
 呪術は解け、みなあっという間に男に向かっていた。中には数名立ち止まる者たちがいてそれらはすべてこう言った。
 弟を、あの子を、弟たちを頼むと。
 太宰はああと頷いた。
 男の叫びが本丸全体に響き渡った。黒い靄のような穢れが本丸を覆いつくそうとする。太宰は屋敷に火を放った。
 轟々と燃える焔。
 火には浄化の力があるという。それで消せるほどの生易しい穢れではないが時間を稼ぐには十分で、やってきた政府の人間たちが火を消し、そして穢れも浄化していた。太宰は隠れるように言い含めていた九振りの元に向かう。
 その九振りにもう悪夢は終わったよ。これからは新しい審神者のもとでいい暮らしをするんだよと告げた。九振りは太宰の袖をつかんだ。そして太宰はどうする気なのかと聞いてきた。その時太宰たちの元に政府の使いがやってくる。彼らはこの本丸で何があったのかもうすでに一部始終を知っているようだった。太宰の口元に笑みが浮かぶ。
「荒魂たちを解放したのはあなたですね」
 固い声で政府の使いがとう。
「そうだよ。私だ。私には呪術を解く特別な力があってね。どうしてかは君たちがよく分かっているだろう」
 太宰はやわらかな声で答えるのにその周辺はとても固く冷たい空気で凍っていた。それでどうするのと太宰がとう。太宰にはその時自分の運命が見えていた。すなわち自分の死が。
 男を殺したのは荒魂である刀剣男子達だが、その荒魂を男の呪術から解放し殺しに向かわせたのは太宰だ。
 しかもそうなることを知りながら。
 政府から見たらそんな自分は大層強大な恐怖だろう。ブラック本丸はここだけでなく数多にある。しかもなかには自分たちを妨げた審神者だけでなく、そんな人間をよこした政府や人間そのものに怒りを向ける者もいる。もし太宰がそんな者たちさえも解放してしまえば。歴史修正主義者との戦いに敗れる前に荒魂たちによって食い殺されることになるかもしれないのだ。そうなる前に殺しておこうと考えるのは必然。
 太宰はそれが分かっているから微笑んでいた。だけど事態は太宰が思っていたのとは別の方向に転がった。
「あなた、いえあなた様には是非政府所有の刀剣となっていただきブラック本丸摘発のためにお力沿い頂きたいと思います」
「はい?」
 素っ頓狂な声が太宰から出た。
「それは……どういうことだい?」
「あなた様のそのお力はブラック本丸と対抗するのに大変魅力的な力です。
 ブラック本丸を取り締まろうにもそこで虐げられる刀剣男子様たちが審神者を守るよう呪術で無理矢理動かされる。しかもそういった本丸の刀剣男子達は錬度が高いものも多くいて刀剣男子達を守るために刀剣男子同士で戦わせることになってしまう。中にはそれで刀剣破壊までされてしまうこともあり貴重な戦力をさらに削ぐこととなってしまうのです。ですがあなた様のお力があれば刀剣男子同士で戦わせる必要はなくなりスムーズに審神者を捕まえることができるようになるのです」
 ふむと太宰は唸る。確かに納得できる話ではあると。だがだ。
「私が荒魂を解放したのはスルーなのかい? 最悪のケースだって考えられるはずなのだけど」
「その件ですが私は上には隠して報告するつもりです。その件を話せば上はあなた様を刀剣破壊しろと言ってくるでしょうから。あなた様はもとは人間の魂で作られた刀剣モドキ。一度刀剣破壊してしまうとその魂は消えこの世界から消滅されてしまいます。それはおおいなる損失と私は思います。
 それにあなた様は別に政府やその他人間を殺したかったわけではないでしょう。荒魂を解放したのにだって訳がある。
 あの男は前にもブラック本丸として取り締まられたことがあった。だけど政府の高官と強い繋がりを持っていたため牢屋に繋がった後もすぐに釈放されてまた審神者になった男です。今回捕まったとして同じことが起きるだけ。それが分かっていたから貴方様は荒魂たちを解放した。
 そうしなければこれからさきも何度も何度も同じことが起きるから。それにあなた様は知っていた。荒魂たちがあの男の魂だけで満足することを。荒魂たちが守った弟たちがいる限りこの場を瘴気で覆い本丸を壊して外にまで出ていこうとしないことを分かっていた。
 そんなあなた様を咎めたりは私はしません。それよりも力を貸していただきたい」
 太宰は空を見上げる。あの男のせいで雨雲しかなかった空は今は見事に晴れている。予定が狂ってしまった。だがまあいいかと思った。どうなろうとしばらくは愛した人に会いに行かなくて済みそうだから。ぎゅっと太宰の手やら服の裾やらを掴む手があった。この本丸で助かった九振りの刀剣男子達だ。
 そう云えば太宰はこの子たちを頼まれたのだった。
「うむ。引き受けようじゃないか。ただし一つだけ条件がある」


 太宰が出した条件は九振りの刀剣男子達を太宰の部下として認めることだった。
 本来なら別の審神者の元に送られるはずだった彼らを自分の部下として手元に置いたのだ。それから太宰はブラック本丸対策本部所属の刀となった。最初の頃はブラックとして処罰の対象になった本丸に刀剣部隊で乗り込み、戦いながら呪縛を解いていくやり方だったが、すぐにそれでは効率が悪いと上から文句を言われるようになった。元々ブラック本丸の輩は演練にはでてこないし、でてきても巧妙に隠していて見つけるのさえ困難。そこから摘発までに持っていくにはさらに難しい。
 だが太宰なら。
 元が刀剣である太宰なら簡単にブラック本丸に潜入できるうえ、捕縛部隊を送る前に刀剣男子たちの呪縛を解くこともでき争いなく審神者を捕まえることが可能になる。そちらの方が効率がいいのだからそうしろと上から押し付けられたのだ。それは太宰の人権を無視するやり方であったが太宰はまあいいかと軽く頷いた。
 それからは毎月のようにブラック本丸に送り込まれて任務をこなす日々。さすがにこの扱いはあんまりなんじゃないかと上に訴え出るものもいたが上は黙殺。当事者の太宰ですらまあ、死なないし大丈夫でしょと軽い。それどころか実際この方が効率いいしね。戦いを早く終わらせたいなら効率は重要だよ。などと言い出す始末。
 せめてもと太宰のみを案じる者たちが用意したのが太宰専用の本丸だった。
 正直な話をすると太宰はあまり上の者たちからよく思われていない。太宰の持つ異能の力にそれに太宰の頭脳だ。もし反乱でも起こされたらと早々に始末してしまいたいのが本音。だが太宰の能力は魅力的だし、政府の職員たちの中には太宰にほれ込むものも多くいる。すぐに消せるような存在ではなくなっていた。
 それゆえ太宰をよく思わないものたちは鬱憤を晴らすように大量の仕事を持ってきたり、嫌がらせをしたりして政府の施設では太宰が心休める場所がなかった。
 だからこそ用意された太宰専用本丸。
 そこは普通の本丸とは違い家族数人で暮らす程度の小さな一軒家がたつ本丸で、定期的に政府の誰かから霊力がおくられるシステムになっている。そこになら太宰に手を出すこともできない。仕事だけはどうしようもないがそれでも九振りの部下たちと安心した日常を送ることができるのだった。
 そこで九振りの部下、刀剣男子達と暮らしながら、太宰は頻繁に任務でブラック本丸へと潜入するのであった。そこにはいつだって笑みが浮かぶ余裕の笑みに見せかけた期待の笑みが。



「太宰治。君は私の退屈を癒してくれるかい? まあ、期待などはなからしていないのだけどね」
 目の前にある醜悪な顔。今度の主は女ではあるが、その顔も体も何もかもが醜く見える。太宰は心のなかでそれと同じぐらい醜い笑みを浮かべる



 さてと、これは私をこの世から消してくれるだろうか







太宰治。かつての彼は自殺志願者、そして今は…………







太宰本丸刀剣
短刀
今剣     太宰と一番最初に出会った刀。太宰によく引っ付いている。政府で彼が通ると何故か何処かしらに怪我をしている人間が増えるらしい。
愛染国俊   蛍丸と一緒に太宰の背なかに張り付くのが好き。政府の人間が見ると威圧感が酷くて後で寝込むらしい
厚藤四郎   政府に彼が行くと太宰が渡した資料がなぜか汚れていることが多いらしい
薬研藤四郎  太宰のおっかん。彼が政府に行くと政府の備品庫から大量の薬と包帯がなくなる
不動行光    酒は殆ど太宰に貢いでいる。でも何故か大体一緒に飲む。彼が政府に行くと酒がなくなる
小夜左文字  復讐意識が強い。政府の人間を誰彼かまわず切ろうとする。
打刀
山姥切国広  ネガティブ&ポジティブ。主である太宰に対して口うるさくはないが誰より一番に実力行使に出る。頭にかぶる布は自分で被るよりも太宰を捕獲するための道具or太宰の体を隠すために使われることが多い。
大倶利伽羅   主である太宰にべったり&口うるさい。
大太刀
蛍丸     愛染と一緒に太宰の背なかに張り付くのが政府の人間が見ると威圧感が酷くて後で寝込むらしい



 九振りしかおらずそのうち六振りが短刀の本丸。でも太宰仕込みの戦略を持つから大太刀だって余裕で倒せる。別に出陣に行かなくてもいいことになっているが出陣に行って錬度を上げ続ける日々。スローガンは政府ぶっ潰す。
でも太宰の事を考えて一人でも軽傷を追ったら本丸に帰還する。最近はどこへ行こうと負傷者はでない。
何故か打刀大太刀である筈の三振りまでもが短刀ばりに俊敏度が上がっている。短刀たちはそれ以上に上がっていてもはや風のレベル。うちの子たち可愛いのに怖いby太宰
太宰が仮の主な上に前の主が前の主で基本みんな料理ができない。カニ缶さえ食べていたら生きていけるよby太宰



大昔に書いてたネタ。書き進めていましたがとあるシーンでモブが大量に必要になり筆が止まってます。設定的に大量の作品とクロスオーバーしてキャラを出せるんですが、こうするとどの作品からだすか悩みます。
もしよろしければ好きな作品や好きなキャラを教えて下さい

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