人を育てるにあたりまず必要なのは衣食住であった。
 住は太宰がいた福沢の家があるからいいとして、困ったのは衣と食だ。赤ん坊など触ったこともない探偵社の者たち。もちろんそんなものを用意している者がいるはずもない。
 買いにいくしかなかった。
 買いに行くための金と地図は太宰のポケットの中に入っているのを敦が発見した。地図は一度国木田が破ったが、そんな事を予測したのだろう。もう一枚入っていた。それを見て買いに行こうとしたが、問題が一つあった。
 買い物に行くための服がなかったのだ。
 今の太宰はタオル一枚でくるんでいる状態。遠目で見れば不自然でないが近くで見たら不自然だ。何でそんな姿をさせて赤子を連れ歩いているのだと不審な目で見られてしまう。
 ちなみにこれはもう既にここまで連れてくるとき福沢が体験していた。
 初めて針の筵のようなという感覚を味わった。
 できればもう二度と味わいたくないが、赤子のサイズなどだ誰人きちんとはかれるものはいなかった。メジャーで計ってなどあれこれ考えたもののいい案はわいてこず結局は連れて買いに行くことになってしまった。
 誰が赤子を連れていくかとなった時、全員の目が福沢に向いた。
 誰一人言わないものの福沢が良いだろう。むしろ福沢以外がするものじゃないだろうと思われているのが伝わってくる。
 福沢は一つ頷いていた。
 寝ているうちにいこうと急いだ。太宰は安らかにまだ眠っていた。
 他にもたくさん買うものはあって、荷物持ちも含め数人で行くことになった。メンバーは与謝野と谷崎、ナオミ、敦の四人であった。
 地図に書いてあった場所へ向かうとそこにあったのはベイビーショップだった。福沢の腕の中では赤子がぎゃんぎゃん泣いている。探偵社から歩いてすぐの所で泣き出してしまったのだった。
 大勢の人の目を感じて探偵社に戻りたかったが、戻った所でまた同じことをするようになるのが目に見えてそのままきてしまった。歩きながら何とかなだめようとしたもののそれは不発に終わった。
 これで入るのかと店を眺める。店の中には子連れの者たちが多く入っていた。
 同じ子連れだから分かってくれてもいいと思うが何故かほとんどの人たちがちらちらと福沢たちを見ていた。入るのは嫌だなと思ってしまうものの買い物しなければ終わらない。五人で店の中に足を踏み込んでいた。
 腕の中の太宰はまだ泣いている。
 おぎゃあ、おぎゃああと力の限り泣き叫んでいる。いい加減慣れてきてしまっているところだった。
 慣れちゃダメだろうと思うが慣れてしまっていた。ぎゅっと太宰を抱きしめる。太宰は泣き続ける。店の中はそれなりに広く色んなものが置いてあった。何を買っていいのか分からない中、まずは服だろうと太宰をあやしながら進んでいく。太宰は小さな手をばたばたと振っている。
 店の中の視線を全部集めているような気がしてしまって気が気じゃない。
 太宰の鳴き声につられて他の子たちまで泣き始めていた。途方に暮れてしまう中、あんた何やってんだいと突然怒鳴り声が響いた。
 ぴくりと跳ね上がってしまう。何だと周囲を見渡せば一人年配の女性が五人の元に近づいてきていた。その顔は険しい。もしかしなくても怒鳴られたのは福沢たちだったようだ。
 ずんずんと歩いてきた人の後ろからお母さんと慌てた女性が飛び出してきていた。 
「そんな抱き方してたら赤ちゃんがいつまでたっても泣き止まないでしょう」
 駄目よ。女の人がなだめようとしてくる中、女性は福沢に向けてはっきりと告げていた。目が点になるとはこのことだろう。女性の言葉を聞いた瞬間、みんなの時がとまり、しばらくしてから太宰を見ていた。
「もう。そんな持ち方したら座りが悪くていつまでたっても落ち着けないでしょう。お父さんなんだからちゃんと抱き方ぐらい覚えてなくちゃダメじゃない。いつも妻にやってもらっているんでしょう。子供は二人の子なんだからね。ほらそうじゃなくてこうよ。こう。
 あーー違う違う。その子かしてみなさい。」
 ぽかんとする福沢たちの前で女性は有無を言わさぬ力強さで動いて、赤子を抱きしめる福沢の腕の形を変えていた。女が一人、お母さん止めてってばと止めに入っているが聞く耳は持たない。赤ちゃんのためよと言っていた。
「ほらこれよ。この形が赤ちゃんを抱くときの正しい形なのよ。
 ほら。もう赤ちゃん泣いてないでしょう」
 言葉につられてじっと赤子を見る。煩いほど泣きわめいていた太宰は今は静かないなって福沢の腕の中上機嫌に笑っていた。
 満足したと言いたげな仕草になるほどとみんなで頷いてしまう。つまり持ち方が悪くて泣いていたのかと太宰を見つめる。太宰はにこにこしたままだ。
 もうしばらくは泣きそうもない。みんなほっとしていた。心からほっとして女性にお礼を言えばいいのよ。赤ちゃんのためだもの。お父さん頑張ってね。お母さんにばっかりやってもらっていたら駄目なんだからと言って足早に去っていく。
 女性がいなくなったのを見届けて与謝野が盛大に拭いた。



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