付き合い出した太宰は、彼女と表向きはうまく行っているようだった。こまめに連絡を取り合い、デートにも週に一度の頻度で行っている。可愛らしくまた太宰の事を考えてくれる女の子で探偵社が忙しいのも分かっており、デートと言っても仕事終わりに会って夕食を食べるような些細なものが多いようだった。
 それでも仲が良いと端から見たら思われるぐらいには二人の仲は良好そうであった。
前にも言ったが表向きは。
 実際のところ、仲はそこそこいいと言えるものであるが。恋人としては問題があるものであった。
 時折福沢の家に来る太宰はほうと何時も疲れたようにため息を落とすのだ。今日もそうだった。
 ことりと寄りかかってくるぬくもり。目を閉じて眠っているような頭を撫でていく。押し付けられる額。疲れた様子なのに駄目だと分かりつつ福沢は笑みを浮かべてしまう。太宰の目が己を見ていないことを確認しながら、笑って大丈夫かと優しく声を掛ける。
 大丈夫ですよと答える声は弱弱しかった。太宰から出ていくため息。ため息を吐いた太宰は畳の上を見ていた。肩に額を押し付けながら、時折、もっと撫でてとねだる様に手のひらに頭が押し付けられる。撫でる手を強くするのにほっとしたように力を抜く

「可愛らしくて私の事を一杯一杯愛してくれていることは分かるんですよ。だけどどうしてでしょうね。彼女のことを考えると疲れてしまうんです」
 暫くそうしていた太宰が言葉を落とした。口を尖らして不満げであった。畳の上を睨みつけてはははあとため息を吐く。可愛らしいと確かにそう思んですよと太宰は言った。小さくて愛らしい。私の事もちゃんと考えてくれていて、まだマフィアにいたころ任務で付き合った相手と違い、無駄な連絡もしなくていい。かなりいい相手なのに、でもどうしてか疲れるんですと太宰は言った。
 どうしてでしょうと口にする声は小さくて何処となく悲しげであった。
「どうせ私なんて人を好きになることはできないんだから。それなら好きになってくれる人と共になって見ようと思ったのに……、好きになってもらえるだけじゃダメなんですかね」
 落とされる言葉。福沢を見ることはないが、その頭は福沢の手を求めていた。撫でるように押し付けてくる。さらに片手が福沢の手を掴んでぎゅっと握りしめてきた。すぐに離されては弱い力でまた触れてくる。繰り返されるのに手の上下を反転して、太宰の手を握りしめる。
 落とされる言葉には何も答えず、ただ太宰が望むように行動していた。優しく触れていくのに拗ね、疲れたようにしていた太宰の口元が少しだけ上がった。
 それはそうだろうと福沢は思っていた。お前はもう大切にしてほしいもの一人を決めてしまっているんだから。思う言葉は言わずにその髪を撫でていく
 どうしたらいいんでしょうねと問いかけてくる太宰。そうだなと福沢は口を開いた。
「悩むのであれば、お前の心に向き合うのがいいかもしれぬな。もしかしたらまだそういう意味で人と深くかかわるには準備ができていなかったのかもしれない。
 あまりに強く負担を感じるようなら、相手の者には悪いが一旦やめにしてもいいのではないか。人を受け入れるにはそれなりの準備がいる。できなかったからと言って落ち込む必要があることでもない。気にしなくてもいいのだ」
 ふわふわと太宰の頭を撫でながら福沢は一見優しい言葉を口にしていた。福沢のやさしさを疑う事を止めてしまった太宰には、誰より自分のことを考えてくれている言葉に聞こえただろう。考えているのは太宰の事でなく福沢のことであったのに。
 太宰の口元が緩やかに笑っていた。社長は優しいですね。何て言ってからでもと口にしていた。
「あんなに私の事を思ってくれる相手もいませんからね。ここで彼女を逃がしてしまったら他にはもう見つからない気がするんですよね
 太宰ん声は少し寂しそうだった。悲しそうに眉を寄せている。肩に乗る頭。その重みが少し増した。撫でながらそんなことはないと福沢は言った。他にもいるよと言うのに太宰はそうだと良いんですけどと答える。寂しげで笑みすら浮かべていないのに福沢はそうだともと答えていた。そうでないはずがない。そう強く思っている。なんだって福沢がいるんだから。
 福沢が誰より強く太宰の事を思っているのだから。
 
 ぷくうと太宰が頬を膨らませて、なかなか機嫌が直らなくなったのはそんな話をしてから一週間後のことだった。
 次の休み福沢と太宰はともにのんびりしようと約束めいたものをしていた。本当にのんびりするだけ、特にやることもなく過ごすそれだけの日なのだけど、太宰はその日をそれなりに楽しみにしていた。だが、彼女から出かけられないかとデートの誘いが来てしまったのだ。
 最初は断ろうとしたのだろうが、恋人とただの上司。しかも仕事とは関係ないプライベートな用事でとるのは違うと考えてしまったのだろう。受け入れてしまっていた。福沢とは何だかんだで毎日顔を合わせているのとは違い、彼女とは週に一回、それも日によっては一時間も会えない日があったのも理由の一つだった
 少しは私との時間を作ってと言われたら優先するしかなかった。
 だけど太宰にはそれが不快だったのだろう。受け入れたはいいが不満たらたらで福沢との時間を大切にしたかったのにと何度も言っていた。
 そう思う理由が何なのか。
 深く考えたら答えは見つかりそうなものだが、なかなか見つかることがなかった。
 嫌だ。福沢さんと一緒にのんびりしたいという太宰に福沢はほんの少しだけだが優越感を感じていた。



太宰ご恋人と別れたという噂は瞬く間に探偵社に広がっていた。付き合い出したという噂が流れるのも早かったが、今回はその数倍はは早く、 そして皆驚いていた。付き合い出したという噂を聞いた時も騒いでいたが、今もまた騒いでいた。
 付き合い出した時はあんな自殺マニアに自分から告白するようなものがいるのかと言う所から始まり、今は太宰が浮気したや、自殺に誘われるのが怖くなっただとか、みんな勝手に想像して噂を広めている。
 福沢はその話に乗ることはなかったけど、それでもどうしてなのかと気にしていた。振られたのか、振ったのか。どちらにせよ、これは大きな転換であることには違いなく、心配するふりをしてそれとなく太宰に今日家に来ないかと噂が流れ始めたその日に声を掛けていた。
 太宰は二つ返事で引き受けて、私も行きたかったんですと笑った。
 何があったのか。
 その話は福沢が聞く必要もなかった。夕食が終わってのんびりしようという時に太宰の方から切り出されていたのだ。太宰は
「貴方と付き合っていてもいつか別れてしまうって分かってしまったと言われてしまったんですよね。貴方はもともと私のことなんて好きじゃないから。貴方のことが好きな気持ちをずっと消せなかったから諦めるきれるようにって告白したのに馬鹿な話なんですけどね。貴方が受け入れてくれたから勘違いしてしまいました。
 受け入れてくれたことを悪く思っているわけじゃない。好きでもない私の事を貴方は大切にしてくれたからそれは嬉しかったです。
 でも愛されていないのに傍にいることは苦しかった。それに貴方はいつか違う人の元に行ってしまう。それを考えるのもつらい。だからもう終わりにしたいと」
 とつとつと相手の言葉を話していた太宰は、話し終えたのかそっと息を吐き出していた。天井を見上げる瞳は疲れているようだ。
「この子は賢い子だなと思っていたので、好かれていないことを気付かれていたことには驚かないんです。そうだろうって思っていましたから。驚いたのは彼女が出した結論の方で臆病だし、愛するより愛されたいタイプの子だとは思っていましたが、それでも私を振るとは思っていなかったんです。
 本気で私の事が好きだったみたいなので、なんだかんだで傍に居る。その代わりに満足できるようすきにはなれなくても優しくしようと思っていたんですがね……。
 別れるだなんてそんなつもりなかったのにどうしてそんな勘違いをされてしまったのでしょうか。それだけが分からないんですよね。」
 どうしてだと思いますか。
 問いかけてくる太宰の目は福沢を見上げている。社長ならわかりますかと言いたげなその目に福沢はどう答えていいのか迷っていた。答え何て分かり切っている。ただ一つだけだ。
 そんなことに気付くほどよく見ていたことに驚いたものの、それならばもうその子は太宰に近づいてくることもあるまいと安心していた。考え込む太宰に手を伸ばして福沢はその頭を撫でていく。
 さあ、どうしてだろうなとその声は出ていた。太宰は福沢さんにも分からないなら無理そうですねと考えるのをあきらめていた。まあもうと声を出す。
「しばらくは恋人何ていりませんよ。今回の件で向いていないことがよく分かりましたから。
 貴方との時間がとられてしまうのも嫌ですしね」

 答えを口にしながら太宰は笑う。
 いずれ答えに気付くときも来るだろう。福沢はその瞬間をじっと待っていた。太宰が自然と気付いて、悩むこともなく受け入れるしかできなくなるその日が来るまで。それまで一杯の愛を注ぐ。福沢の気持ちを疑うこともできなくなるように






 後書き、

考えた当初はモブをたくさん出して、太モブデートもたくさん書くぞと言う気持ちがあったのですが、長い間放置しているとモブを書きたい気持ちが少なくなってしまい、あっさりと終わりました。悲しい話です
モブの設定や、二人がどんなデートをするのか、デートの場所はなど、細かく決めていたのにつかわれることがなかったのはちょっと悲しい。でもモブを書く気は今あんまりないんですよね。
 いつかモブを書く気持ちがわいて来たら改めて書き直そうと思います。一旦完結

次何書こうかな。早く終わりすぎて何にも考えてなかった。
最近気づいたんですが、ノートに下書きしてからデータ化する作品とパソコンに直で打ち出す作品だと、直に書いていくのがかなりあっさりしたものになります。ペンで書くより早く進む。どっちがいいのかな?
どっちが好きとか教えてほしいです


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