「彼女ができたんですよね」
 聞こえたきた言葉に福沢は固まってしまった。理解したくない言葉でフリーズしてしまう。太宰は気付くようすがなかった。俯いて机の上をじっと見ている。
「探偵社の近くにある喫茶店で働いている子なんですけど、私のことが好きだってその子に告白されて……。一生懸命思いを告げてきてくれるのに本気なんだなって……。どんなところを好きになってくれたんだろうって気になってしまったんです。こんな理由で受け入れるのは失礼かなって思ったんですけど、でも彼女が私の何処を好きになってくれて、私と何を求めてるのか凄く知りたいんです。
 付き合うとかよくわからないけれど、今度は私なりのやり方でやっていこうかなって……」
 やっぱり駄目ですかね。最後に太宰は言葉にした。きゅっと少しだけ目尻を下げて下手くそに笑っているのだろう。そう思うと駄目とも福沢は言えなかった。良いんじゃないかと答えるのに太宰はほぅと息を吐いて福沢をみ上げる。
「良かった」
 安心したように口元から力が抜けていた。なんの形でもなくなるのを見つめる。
「上手くいくといいな」
「はい」
 そんな太宰に福沢は己の気持ちを隠して声をかけた。太宰が見ていてくださいねと福沢に告げる。


 太宰の事を好ましいと思ったのは考えてみると共に居るようになってから随分と後のことだった。
 最初はただの部下として気になっただけだった。太宰は器用な癖して不器用で仕事はやろうとしたらいくらでも完ぺきにこなせるくせに、自分の生活になると何もできない。この世に死ぬために生きているようなそんな奴で、どうやったらそんな太宰がこの世で生きていく気になれるのか。少しでも生きていてほしいとそんなことを考えているだけ。
 でもそんな太宰を気にかけ、傍で見守るようになったある日、福沢の中に特別な思いが目覚めた。自覚をしたのは太宰が初めて笑った時だった。
 その前までも太宰はいつも完璧で美しい笑みを張り続けていたような男だったが、その日の笑みは違った。完ぺきとは程遠い、生まれて初めて笑ったと言わんばかりの奇妙な笑み。
でもその笑みが今まで見たどんなものよりも可愛らしく思えて福沢は恋に落ちた。
 でもそれよりもずっと前に落ちていたのだろうことに、福沢はもう気付いている。何時から何て正確なことはもうわからないけど、ずっと前から太宰の事を好ましいと感じていたのだ。
 最初のころは自分の年や、同じ性別であることなどを考え、福沢はその思いに蓋をしようとした。
 だけど太宰と共に過ごしていく日々の中で、太宰も福沢のことを特別に思ってくれていることに気付き、それは変わってしまった。太宰も己のことを好ましく思ってくれている。それならばこれからを誓ってもいいのではないか。
 恋人になってもいいのではないかと。
 だけどそう考えても福沢はすぐに告白することはなかった。それは太宰が自身の気持ちに気付いていないようだったからだ。太宰は何かと鋭い男であったが、自分の感情については鈍い男で、自分がどう感じているかなどを言語化するのは苦手としていた。だから福沢に対する思いにも気づかない。
 そしてそんな太宰に福沢が選んだのは待つことだった。
 太宰が自分の気持ちに気付いて、それを受け入れられるようになるまで待つこと。その前に告白してもよかったけど、そうしたら太宰は福沢への義務感で付き合ってくれるようになるだろう。後から本当にこれで良かったのか。失礼だったんじゃないのかと悩みだすことに。
 そんなことで悩んでほしくはなく、福沢は待つことにした。
 どれだけかかろうとかまわない。その間福沢は太宰の傍に居て、太宰に優しくして、うんと甘やかしていくのだ。もっともっと私の事を好きになれ。どこまでも好きになってしまえというそんな思いを込めて、
 そう思ったのだ。
 だからずっと待っていた。そんな福沢は今日のことを思い出してはため息をつきそうになった。
 好きがどういうことか分かりたい。だから告白してきたこと付き合うことにしたと言ってきた太宰。その女の子への罪悪感はわかない
 可哀想にと思うだけ。酷い男だと思いつつそれでも福沢は早く太宰が本当のことに気付けばいいと考えていた。



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