猫だざちゃん
2024/10/16 19:23
それはとんでもない不始末であったが、最高の幸運でもあった。
横浜に入り込んだ中華マフィアを始末していた際、彼らの積み荷を壊してしまい浴びた水によって水を被ると猫になる体質になってしまったのだった。
はじめは落ち込みもしたが、すぐによかったと思えるようになってしまった。何せ猫と言うのは勝手がいいのだ。どんなところにも忍び込めるし、疑われない。秘密の話だって猫の前ではポロポロだ。
ちょっと可愛くしたら気に入って家にまで招いてくれる。情報も見放題。おまけで美味しいご飯が食べられる。
美味しい話とはこの事だ。太宰は猫になる体質を多いに気に入ったのだった。
猫の姿で町を歩いていたある日、太宰は探偵社の社長である福沢と遭遇した。
猫を煮干しでつろうとしていた彼はすぐに太宰に気づいた
去っていく猫
そのとき太宰のなかで猫の本能がその場を逃げるよう暴れまわった。咄嗟に本能を抑え込みながら太宰はそれまで見てきた数多の光景、福沢が猫に逃げられていく現場を思い出した。
だから逃げられたのだった。
太宰も今すぐにも逃げ出したかった。本能が叫んでる。でもそうしなかったのは近づいてあげたら喜んでもらえるかなと思ったからだ。
太宰は密かに福沢に思いを寄せていた。そして恩もあったから喜んでもらえるのならしたかった。だから本能に抗い近寄った。
福沢は近寄っていくと驚いたかおをした。しばらくじっと見てくる。かと思えばにぼしをかまえる。近付いてくることを願っているのかその目は真っ直ぐ見てきて、猫には怖すぎる。逃げ出したいと思うが、圧し殺して近寄る。
食べる
福沢の目はじっと見ていた。あらかた食べたところで恐る恐る手が伸ばされる。太宰の体に触れていく。気のせいかその手は震えていた。
撫でる
福沢は怖いが、手は気持ちよかった。
嬉しそうな姿に太宰は満足した。
そしてそれから福沢のもとに通うようになった。
喜んでもらいたかったのだ。
時間はかかったが本能はなれてくれて、沢山甘えられるようになっていた。そうすると純粋に撫でる手が気持ち良くて通うようにもなっていた。毎日と言っていいぐらい甘える日々。
あるとき、敦がなんで社長は猫に嫌われるのかと言う問いをしてきた。
「こないだも逃げられているのを見たのですが、何でなんでしょうか」
「そうだね。恐ろしいからかな。
顔とかの話じゃなくてね、社長は隙がない。何時もうっすら殺気のようなものも纏っているから動物にしたら怖いのだよ。本能的に危機を感じているといったら分かりやすいかな。肉食獣に歯向かう草食動物がいないのと同じだね。
社長には可哀想だけど懐く猫はいないだろうね。いたとしたらその猫は本能がないからすぐにのたれ死んじゃうよ」
それは軽い世間話のつもりだった。だったのだ。
社長に抱えられる猫
「貴様本能がないのか」
みゃ?
「……私の家で暮らしてくれるか」
みゃみゃ!?
何故か太宰は社長の家で飼われることになってしまったのだった。
恐らく敦との話を聞かれてでもいたのだろう。よほど心配でもしたのかさしもの太宰も猫の姿のままではでることができないぐらい戸締まりがされていた。
そのまま5日たった。
そとでは行方不明とさすがに騒ぎになっているだろう。
でも、用意された空間があまりにも心地よくてでていくきにはなれないのだった。戻らないとと形だけは思いつつも一生このままでもいいのではと考えてしまう。
それが変わったのはある日の夜だ。
その日福沢はとてもしんどそうな顔をして帰ってきては物思いに沈んでいた。夕飯を食べるきにもならないのかスーパーで適当に飼ってきたのだろう惣菜は袋のなかに入ったままで手付かずであった。何時にない姿に心配して太宰は遠くで見ていた。近づいてよいものなのかとわからなかったのだ。でも時間だけが過ぎていくのにどうにかしてあげたいとそんな思いがよぎって近寄っていた。膝元で愛らしく喉をならす。一度目は反応がなかったが何度か繰り返せば反応してくれ、すまぬとそんなか細い声を繰り出した
「明日には戻るから今日だけは落ち込ませてくれ」
み〜〜
「ふふ。慰めてくれるのか。ありがとう
実はな」
しばらく撫でていた手がやんで小さな声が落ちる。太宰はこれがなんなのかよく知っていた。数多のものがやってきたように猫だからと秘密を暴露しようとしているのだ。社長の秘密をこんな形で知っていいのかと僅かに躊躇う。でも慰めたい。ならば理由が知りたいと止めることはなかった。
「社員が一人行方不明になってしまったのだ。よくあることではあるのだが、私は、どうにも心配になってしまってな」
あまりにも苦しい声で福沢は話した。涙の一つでるのではないかと思うくらいで太宰は凍りついた。まさかそんなにも心配させているとは思っていなかったのだ。
罪悪感と言うのだろうか。胸の辺りがざわつく。同時にこんなにも悲しんでくれるのかと嬉しくもあった
そんな太宰をよそに秘密の暴露はまだ続いた。
「このまま帰ってこなくなってしまうのでは。どこかでのたれ死ぬか、別のところに行ってしまったのではと思うと苦しい。
私は、
私はやつのことが好きなのだ」
福沢が情けなく笑う。今度こそ太宰は固まった。
猫はなんでも秘密を知ることができる。でも知ってはいけない秘密があることをたった今知ったのだった。
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