賢治君とふくだざ
2024/10/08 00:50
こんもりと出来た落ち葉の山の前で一つ福沢は背伸びをしていた。
休みなのもあり中々覚醒しない太宰が半分眠っているうちにと始めた庭の清掃だったが気付けばかなりの時間が立っている。柱にもたれかかって寝ていたような太宰ももうすっかり目覚めたようで縁側でニコニコ笑っていた。
やたらと機嫌が良さげなところが気になるところだ。構ってくれなかったと拗ねていてもいいのに。
はてさて何を企んでいるのかと福沢が少々期待してしまう中で、チャイムが一つ鳴った。それとともにこんにちはとよく知る声がチャイムより大きく響き渡る。福沢は驚くが、太宰はますます笑みを深めていてどうやら彼が呼んだようだった
こんにちは、お芋いっぱい持ってきました
芋?
ありがとう。賢治君も食べていくだろう
福沢が分かりやすく驚いては太宰と賢治を何度も見た。どういうことだと問いかければ太宰と賢治の二人が笑って答える。
焼き芋したいなって思ったので賢治君に頼んだのです
太宰さんに焼き芋をするからって頼まれたので持ってきました
は?
福沢の前で二人はニコニコ笑う。そうしながら早く食べたいね。とびっきりのお芋持ってきましたなんて話していた。その二人を福沢はじっと見つめる。他の者がいたら緊張感の走りそうな眼差しをしていたが、二人には無意味だった。
お芋に完全に興味が向いている。
はぁと福沢から吐息がでた
いっておくが落ち葉で焼くのは無理だぞ。最近は条例などで家庭で焚き火をするのは厳しいのだ
え、
そうなんですか?わ
え
、焼き芋食べたかったのに
残念です……
……
悪いのは福沢ではないが二人の落ち込む姿に矢鱈と良心がいたんだ。特に賢治などは純粋に楽しみにしていただろうことも思うと悪いことしたなんて思ってしまう。もう一度だけ福沢から吐息がでた
「落ち葉でするのが難しいだけだ。焼き芋ならフライパンなどでも出来るからそれでしよう」
「フライパンでもできるんですか! 凄いです」
「ありがとうございます。社長」
キラキラとした二対の目が福沢を見る。
でもどうにもそのうちの一つには何かしらの作為を感じてしまう福沢であった。
「台所に行こう」
まず芋を洗い、キッチンペーパーで包み、その上から濡らす。その後さらにアルミホイルで巻いてフライパンに蓋をして弱火で焼く大体三十ひくりかえしてもう10ふんか。
その間は暇だろうから居間でゆっくりとしているといい
分かりましたそれでは引っ付き虫してます。賢治君も一緒にしよう
いいんですか。じゃあ僕も
ぎゅうぎゅうと何故か左右から太宰と賢治が抱きついてくる。福沢の頭の中ははてなが一杯だった。顔にも少し出ている。
何がじゃあなのか分からなければ、賢治はそれの何が楽しいのか分からないのだ。でもニコニコ笑って福沢に抱きついたまま焼き芋楽しみですねと笑っている。ねーなんて笑う太宰も大変楽しそうで考えることを止めた。
ただ一つだけ分かった。
太宰のやつはこうやって楽しむことが目的だったのだ。
何が楽しいのかは理解できなかった
ほかほか
んー美味しい
焼き芋最高です
ねえ
確かにうまいな
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