「……どっかおかしいの、シズちゃん?」 「……何だその質問。お前こそどっかおかしいのか?」 玄関を開けた途端腕を引っ張られ、ソファに押し倒された。 膝立ちをして俺をじっと見下ろす、バーテン服を着た男。 「あのさ、急に来てさ突然、こんなの」 間の抜けたような顔をしている相手を眺める。ぱちくりと瞬きをしてから口を開いた。 「珍しいのはお前だろ、いつでもどこでも盛る癖によ」 「おいおい、まるで人をサルみたいに言うなよ」 「サル? てめぇはそんな高等な生き物じゃねぇだろ?」 なぁ、ノミ蟲野郎。耳元で囁き、それから首筋に舌を這わせてくる。喉仏を軽く噛まれた。 「しようぜって俺が言ってるんだよ」 上唇を嘗め、蕩けた瞳を向けてくる。 ――どうしよう、やる気マンマンだ……。 「ちょっと待ってシズちゃん、シャワーを」 「シャワー? いつもそんなん使わねぇだろ」 「いやぁ〜、昨日お風呂に入ってないんだよね、忙しくて」 「別にいい。お前なんか俺がそう言っても毎回聞かねぇじゃねぇか」 「……いやいやいや、あれだよ? 汗臭いしさ、トイレとか何回も行ったし」 「何だよ、うっせぇな。てめぇなんか変だぞ、つうか変だな……」 俺の上に跨がったバーテン服の男は不思議そうに首を傾げた。 「何で、たたねぇの? てめぇ」 俺の大事な部分を驚いた顔で見つめている。 「……仕事疲れじゃないかな?」 「ふぅん、枕営業かよ」 「ばっ! 違うよ、連日徹夜してたの!」 「なら溜まってるはずだろ」 「そういう気分じゃない時だってあるだろ。シズちゃんなんかしょっちゅうさぁ……この前なんか確か」 「おい、ろみむしいっぱつなぐらせろ」 玄関開けたら呂律の怪しい、顔を真っ赤にしたシズちゃんが突っ立ってた。 「酔っ払ってうちにくるのやめてって、いつも言ってるだろ」 「もうのめましぇん〜、トムしゃん〜」 デカイ図体が圧し掛かってくる。 「誰がトムさんだっ! てか、おもっ! ちょっと〜勘弁してよ」 「いいらろ、別にぃ〜」しゃくり上げて体重をかけてくる相手に辟易しながらも「宿代払ってやるって、言ってんだよ……」と耳元で囁かれ、いそいそずるずると寝室に運んだ。 「ううん……こりゃフカフカだな」 力つきた俺がベッドに放りなげると、枕に頬擦りを始めた。 俺は相手に覆い被さって、はだけた胸元に頬擦りを始めた。 「くしゅぐっ……あ……んんっ」 酒が入ってるせいかいつもより血行のよくなった肌は薄ピンク色で、赤く熟れた胸の飾りは美味しそうだ。遠慮なくいただくことにする。 「ふっ……ん、あ……」 ちゅうちゅう、ちゅぱちゅぱ音を鳴らしても『赤ん坊じゃないんだからいい加減にしやがれ!』と怒鳴られることもなく、声を我慢することもせずあんあんよがっている。 ――酔っ払い、最高。お酒って素晴らしい! 内心でガッツポーズを作った俺は下半身のガッツポーズもすっかり出来上がっていた。 余分な肉が一切ついていないお腹にキスを落としつつ少しずつズボンを下ろしていく。 今日のパンツは、アーノルドパーマーか。幽君、いくらお兄さんが甘いもの好きだからってこの柄……いや、それを履く方に問題があるのか。 それを取っ払おうとした時に問題は起こった。起こったというか、おきてなかったというか……。 「シズちゃん! たつんだ! シズちゃん!」 俺はへにゃへにゃの分身に向かって、某ボクサー漫画のセコンドよろしく叫んだ。 「……うっさいなノミ蟲……だまれ……」 ごにょごにょと口の中で呟いた本体は、言葉尻の後にすうすうすぴすぴと寝息をつけ足した。 「シズちゃん!? 起きて! 起きるんだ! シズちゃん!」 まさかの戦線離脱……。 何度か頬を叩いたり、その頬に『肉便器一回500円』と油性マジックで書いてみたり、ナイフで勢い良く腹を刺し「セラミック刀が欠けちゃった」と一人ジブリごっこをしても起きず。 俺は左手にショートケーキ柄のパンツと、右手に自分のものを握って途方に暮れた。 「パンツ返せーーっ!」 「そこじゃないだろ、自分から誘っておいて寝るとは一体どういうつもりだよ」 「ぐっ……あれは……あ! でもあの朝、目が覚めた瞬間にぶち込んできたじゃねえか!」 「目覚まし時計の代わりしてやったんだよ、朝に運動すると体にいいし」 「あれ、運動か……つうか俺のパ」「そういやさ、こんな事もあったよね?」 「なんつうか、あれだな」 飽きた……。俺に組み敷かれていた相手は頭をぼりぼりと掻いて大あくびした。 「ひっ……ひどぉーーい! 静雄さんったら私の体だけが目当てだったのねえ!」 「キモい、やめれ」シーツに顔を埋めてふざける俺を無視し、タバコに火をつける。 「飽きたって何だよ……」 「毎回同じだなーって、服脱がされて突っ込まれて……」 「そりゃ当たり前だろ服を脱がさないと突っ込めない」 「ま、そうなんだけどよ……」 タバコの煙がぷかりと浮かび上がる。 マンネリ。 言いたい事はわかってた。 「じゃ、どうする? デリ呼んで3Pでもしてみる?」 「バカじゃねーの、お前。何でそうなんだよ」 「新鮮味が足りないんだろ? 高校ん時はベットの上でなんてしたことなかったのにね」 「昔はよく外で出来たよな〜、お前追っかけて人んちの車庫に入って」 「ベンツのボンネットの上でさ、興奮したよね〜あれ。エンブレムがひしゃげて焦って二人して逃げた」 「最近はなんかこう刺激が足らねんだよなぁ……」 したり顔でタバコをふかす。 ――いつのまにこんな子になっちゃったの……? 昔はキスする毎に顔を赤らめていたというのに。今じゃすっかりアンニュイな雰囲気を醸し出し、シャツから覗く素肌にうっ血痕をのせたりして……。 それ誰がつけたのさ? 消えちゃうんだよ、もったいないけど。え? 俺? もしかしてシズちゃんをこんなにしちゃったの俺? こんな気だるげな大人の色香を漂わせるようになっちゃったの、俺のせい? 「何にやにや笑ってンだよ気持ちわりいな」 「いや……いいものがあったな、と思い出してね」 「おい、この前みたいにデッケェ注射器持ってきたら殺すからな」 「ダイジョブダイジョブ、今回はも少し手軽な感じだからさ」 俺はクロゼットから二着の服を引っ張り出す。 「シズちゃん、どっちがいい?」 ハンガーを掲げる俺に、訝しげな目線を向けてくる。 「何でこんなんがあるんだよ」 「情報屋だからね、色々あるんだよ」 「いろいろ……潜入捜査か……」 どうやらスパイか探偵と勘違いしてるみたいだけど、まあいい。 白衣の天使ナース服(でもピンク色)と、気品漂う英国式メイド服(だがその下にどえらい下着つき)だったら、男なら迷いに迷っちゃうよねっ! 「俺はどっちでもいいよ。シズちゃんはどっちがいい?」 「ん〜……じゃこっちにすっかなあ」 夢にまでみたおたんこナース、ベタなこといっていい? お注射は俺がするけどねっ! 「ほらよ」 ひとり浮かれていた俺にもう片方のハンガーが押しつけられる。 「お前はそっちな」 「え、何言っての!?」 「はあ!? なんで俺だけこんな恥ずかしい恰好しなきゃいけねぇんだよ! てめぇ着ないなら俺は着ないからなっ!」 え〜〜! なんだ、そりぁ!? 可笑しいだろ……。 ぶつぶつ文句を言った俺は、気がつくと全身をロイヤルブルーに包まれていた。 「シズちゃんのナース服を拝めるならしょうがないよねぇ」 「おい……なんか、これ丈が短かすぎないか」 きたーーーー! 俺の天使降臨っ! 「うわっ、超似合わない! マジでこんな似合わない人がいるのかと! 無駄に男らしくお尻とか掻くのやめてっ」 隣室(ムードを上げるために別々に着替えた)から登場したシズちゃんは、案の定抜群に女装が似合わなかった。 「つうか、てめぇだって人のこと言えねぇじゃねぇか」 「俺みたいな眉目秀麗ならいけるかもって思っちゃうだろ? 普通に考えて175センチの男が女装なんか似合うわけないだろ」 「目付き悪いしよ、こんなメイドお断りだぜ」 俺の胸元にあしらわれたリボンをつんっと引っ張る。 「ご奉仕しますよ、ご主人さま」 「うわ、キモいな」 俺は、自分にぴったりなナース服の存在について何も勘繰らないシズちゃんを結構気に入ってる。 ちっとも似合わないナース服から伸びる長い足と、艶かしい太股もなかなか気に入ってるし、ニーハイとスカートの間、つまり絶対領域もまあまあ見れなくはないと思う。ので……遠慮なくソファに押し倒す。 「おまっ、虫みたいな目で黙って観察してんなと思ったら、急に突き飛ばしてくんなよ!」 「やっぱ膝上20センチは最高だよね! 見えそで、見えないチラリズム!」 何故女装をすると185センチの男前ですら無意識にスカートを抑えるのか? 赤い頬して必死にパンツを見られまいとする姿は返って欲情をそそる。 「あ……波江さん、戻ってきたの? なに忘れ物?」 「えっ! あ゛っ! なっこれはちがっ…………って誰もいねぇじゃねぇか!」 「めしとったりぃ〜!」 むずとスカートの端を掴んで思い切り引き上げる。 「……なんでトランクス履いてんの」 「お前さ、バカなの? あんな透けてる下着、しかも女物を履けるわけがないだろっ」 「ふざけんなよおおぉお! シズちゃんは女装をわかってない! 舐めてるだろ! 肝心要のパンティを装着しないで何を女装というのか!」 「パンティ言うな、マジでキモいな。つうか……もしかしてお前」言葉の途中で俺のロングスカートに頭を突っ込んでくる。 「ぱ、パンティ履いてんのかよっ!」 「ああ履くさっ、ガードルもバッチリだよ!」 「え……何なのお前アホなの? 間抜けなの? てか変態なの? つうかよ……」 戦々恐々という体で再びスカートを捲る。 「つうか、たっ……タマが、タマが丸見えなんだよ!」 「たまたまだろ?」 くだらねぇ! 大声で叫びクッションに倒れこむ。肩を震わせたシズちゃんは「たまがたまたま、たっ……たまがっ! ぐっ! ひひひっ! くっ、苦し、ダメだっ! はっ、はははは」 「女物のパンティ履いたら誰だってタマが見えるに決まってるだろ」 「ひっ、開き直ってやがるっ……!」 幽君は全くの鉄仮面だけど、シズちゃんも感情の振れ幅が極端なのか平常時と、ブチ切れ時の2パターンしか普段は表情がない様に見える。 しかし、たまに(まさに今タマに)ツボにハマると笑いが止まらなくなる。 「いつまで笑ってンのさ?」 「こ、こっち見んなっ! お、思い出すからっ! ……ぶっ、ぶひゃ!」 珍妙な笑い声を上げて、涙まで流し始めた。 「刺激は十分与えたろ? だからエッチしようよっ」 「むっ、無理! 笑いすぎて、ぶっ…あはははっ」 その後、服を着替えても人の顔を見ては思い出すのか、笑いの渦に飲まれたシズちゃんとはキスすらままならなかった。 「あんなの見せられて笑わない奴のがおかしいだろ」 「そこじゃない。俺が何を伝えたいかというと、君をその気にさせるのは毎回大変ってとこさ。シズちゃんも少しは苦労すればいいんだ」 俺に跨がってる相手は不機嫌な表情をしていたが、ふいにニヤリと笑ってみせた。 「お前なんかちょろいんだよ」言いながらリボンタイを緩め、顔を近づけてくる。俺はキスを受けながら無意識に尻を撫でた。 「んっ……はあっ、俺と舌からませただけで大体てめぇは、だいたい…………何で? インポにでもなったのか?」 「バカ、こんな下手くそなキスでよく言うよ」 くそっ、何でだ、絶対におかしい! 不満気な声を出し舌打ちをする。すっかりバカにされてる様だ。 「シズちゃんさ、ひょっとして知らないの? 俺のチンコに感謝してないからこんな事になったんだよ」 「かんしゃあ?」 「そう。たまにあるじゃん、別にエロいこと考えてないのに急にたったりすること。あれが何で起こるかというと……チンコにも意思があるからなんだ、息子と呼んで別人格として扱う理由もここにあるわけだね」 もちろん嘘だ。こんな子供騙し誰も信じない。 「へぇ、そうだったのか……」 しげしげと俺の股間を眺める。 いつか変な霊能商法とかに引っ掛かりそうで恐い。 「俺はいつもちゃんとお礼を伝えてるからね。それに引換俺のチンコはないがしろにされヘソが曲がってるみたいだね」 「具体的にはどうすりゃいんだ?」 「ちょっと今の体制のまま、後ろ向いて」 所謂69、シックスティナインの体制になった俺たち。 「いい? 俺が今からお手本みせてあげるから」 「おう」 俺はスラックスを履いたままのお尻に顔を埋めた。 「しうはんのほしりはやわらかくてさいこう」 尻たぶをぐにぐにと揉んで、ズボンごしに陰嚢をはむ。 「あっ、ちょっ! くすぐってぇよ! あああっ」 口を動かす度にはしたない声を上げるので、俺は尻を揉む力を強めた。 「ほらあ、俺のにきちんとお礼いわなきゃダメだろ〜」 「あっ……ん、そ、そうだな、んんっ」 よし、頷いて俺の股間に顔を押し付けている。 どうやら男の子の日――今日、シズちゃんはどうにもやりたくてしょうがないらしい。 まさに静雄、静♂の日だ。 「い、いつも、あ、ありがとな」 耳まで赤くして俺の下半身に話しかけている。 「声が小さい!」「いっ、いつもサンキューなあっ!」 頬を真っ赤に染めているであろう顔はこちらからは見えないが、この部屋に備えてあるいくつもの監視カメラが捉えている筈だ。 かくいう俺も、今日は雄りはらの日だった。今まで撮りためたシズちゃんの映像をみながら三回抜いた後に彼は訪れた。タイミングが悪過ぎだ。ソファの下にある屑カゴには大量の丸めたティッシュが入っている。 最初は気づかれやしないかと気を揉んだ。 「まだ……礼が足りないのか?」 「まだまだ!」 俺はシズちゃんの尻を揉みながらそれは杞憂に終わりそうだと安堵した。 「もっと感情込めた台詞を言ってよ『いつも気持ちよくしてくれて嬉しいです、静雄おちんぽ大好きです』とかさぁ〜」 「いっ、いえるか!」 「じゃあ今日は無理かも、はあ残念だなあ。今日はすっごい道具用意してあるんだけどな……」 「いっ……いつも、き、きっ……ああっ! おい、何してんだ!」 「俺は俺で、シズちゃんのアナルちゃんに感謝の気持ちを伝えてるんです〜」 ズボンの布越しに両親指をつきたてる。お尻を揉みしだく。 「あっ、やめ、ろよ……お礼がいえな、ああっ」 「さあ、早くっ! 『臨也のオチンポミルクまみれになりたいです』って言ってごらんよっ」 調子にのった俺が、シズちゃんをゴミ箱に突き飛ばすまで、あと5びょうっ! 俺たち、おとこのこっ! 暗い話を書くとこういうのが無性に書きたくなります。 |