「う〜寒ぃ・・」
バーテン服を着た男はタバコを咥えながら、上半身を自分で抱いた。
「そんな薄着してくるからだろ」
答えたもう一人の男はファーの付いた黒いコートを着て、金髪の男の肩に手を置いた。
「・・気に入った服にしろって言ったのお前だろ」
「俺が買ってやったダウンジャケット着てくると思ったからだよ。
・・にしても、久しぶりに見たよ、君のその格好」
「お前もな、最近はダサいパーカーとハーフパンツしか見てなかった」
「・・高校の時のジャージ着てる人に言われたくないね」
二人は顔を見合わせて睨みあうと、どちらからともなく噴出した。
「しかし、手前ぇのその服見てると色々思い出すよな」
「うん、俺も今の君を見るとあの頃に戻った様な気になる。楽しかったなぁ」
「え!・・マジか!?俺とお前の認識ってずれてるみたいだな」
黒髪の男はチラリと横を見遣った。
「誰だっけ、首を締めたい位、俺の事好きなの?」
「あ?燃える様な愛で包もうとした奴こそ誰だよ?」
「俺を食べちゃいたい位に求めてきたのは君だろ?」
「体が溶けるまで抱いたのは手前ぇだろ!?」
いがみ合いながら、胸倉を掴みあう二人は足を絶壁に滑らせそうになり、動きを止めた。
「・・ここから落ちたら流石に俺でも死ぬかもな」
「何言ってんの、それでいいんだよ。死ぬ為に来たんだから」
二人はお互いを縄で繋ぎ合い、手をしっかりと握る。
「なんでこうなるんだろうな、俺達」
「さぁね、神様にでも一緒に聞きにいこうか?・・首の爆弾起動させたよ」
そう言った男は、隣の男を抱き寄せるとキスをした。
「俺は君を永遠に愛してる」
「俺も手前ぇを永遠に愛してる」

深く口付け合いながら、今度こそ崖から足を滑らせた二人は落ちて、やがて閃光に包まれ散った。


一人の少年がピンク色のゴーグルをして、何かの配線をカチャカチャと動かしている。
「サイケさん!その接続は無いッス!!」
隣で大声を上げる青年は白いスーツにピンクのシャツを着ている。
「あああ!!もうソレを、ソコに・・・ええええ!!ココにつけ、え!!嘘!!そんな」
「五月蠅いなぁ、デリックは。少し黙ってよ」
サイケと呼ばれた少年はデリックに見向きもせずに作業を続けている。
「・・ダメっす!!また不良品作ったら、津軽さんが怒られますって!!」
「それは困るなぁ・・、でもデリックがこの前みたいに日々也を何とかしてくれるだろ?」
「あっ、れは、何とかしたというか・・何とかされたというか・・思い出したくもない!!
・・・とにかく!それは没収です!!」
デリックがサイケの手の中の物を奪おうとしたが、少年は猫のようにスルリとそれをかわし走り去っていった。
「イヤだよ〜だ!」
「まっ、待て・・!!あっ!!」
下に張り巡らされた様々なコードに躓き、デリックは派手な音をたてて盛大に転んだ。
「い、いてぇ・・」
「・・・何を騒いでるんだ、デリック?」
煙管を手に持ち現われた男は、着物の裾を優雅に流しながらデリックに手を差し出した。この二人は全く同じ顔をしている。
「・・津軽さん、あの、サイケさんがまた・・」
「・・またか、あいつには困ったもんだ」
紫煙を吐きだしながら呟く津軽の表情は言葉とは違い、変化は見られない。
「どうしましょ、もうそろそろ納品の時間ですよね?」
「そうだな・・もうすぐ来る筈」
津軽が言いかけたところで、玄関から控えめなノックが聞こえる。
「うわ・・来た・・」
「開いてるぞ、日々也」
ガチャと扉を開けた青年の頭には豪奢な王冠が乗り、煌びやかなマントをつけたその姿はまるで絵本から飛び出した王子そのままに見える。
「やぁ、皆さんご機嫌はいかがですか?特にデリック君は元気にしていたでしょうか?」
「・・ああ、それなりにな・・」
津軽の後ろに隠れて返事をするデリックは低い声で唸った。
「日々也、悪いな・・またサイケが勝手に弄ってしまったらしくてな」
「そうですか・・困りましたね、今日が締め切りだというのに」
白い手袋をした手を上品に顎に当て首をかしげる日々也と、腕を組んで煙管の先で頭を掻く津軽は同時に溜息をついた。
「ねー!!すっごいの作ったよ!!見て、みてみて!!ね!津軽!!」
バタバタと駆け込んできたサイケは人の頭くらいのガラスケースを持っている。中は真空で、ケースの下には先程サイケが何かを施していた装置が付けられている。
「またサイケ君の芸術作品を拝見出来るなんて素敵ですね」
(あ・・あの顔は怒ってるな・・多分)
デリックは津軽の背中から日々也を窺う。
「・・どれ貸してみろ、サイケ」
ガラスケースを受け取った津軽が装置の下に手をかざすと、中から眩い光が飛び出し、ガラスケースの中を泳ぎ出す。
「これ・・凄いっス・・」
デリックが感嘆の声を上げれば、サイケは自慢げに鼻をこすった。
「エヘヘ!俺の最高傑作だよ!!」
「・・サイケ・・悪いがこの仕掛けでは全く意味が無い動きしかしてない・・」
「津軽!ヒドイよ!俺、一生懸命作ったのに・・!!」
頬を膨らませながら、津軽の足元にサイケは纏わりつく。
「ちょっと、私にも見せていただけますか?」
日々也は手袋を外して、装置を立ち上げる。
ケースの中では、二つの美しい光が同時に起こり、やがて交りあうかのように軌道を描く、ひとつに成るかの様にぶつかり合う光はやがて互いを消しあうように飛び散った。そして、散った光から新たな二つの光を生み、先程と同様の動きを繰り返す。
「確かに無意味で、虚しい動きを永遠に繰り返していますね・・」

”しかし、とても美しい”

神々しくも王冠を輝かせた日々也は笑った。


「おめでとうございます!」
年配の女医は目の前の女性に向けて笑いかける。
「貴方は妊娠3カ月目よ、本当におめでとう」
「ほ、本当ですか・・先生今までありがとうございました・・」
告げられた女性は医師の手を掴み、目を潤ませた。
「・・良く不妊治療を続けさせてくれたわよね。でも、まだまだ、お礼を言われるのは早いわ」
口元の皺をくっきりと浮かばせ女医はとびきりの笑顔をした。
「貴方の双子の赤ちゃんはきっと大変よ!」

母親になるであろう彼女は喜びの涙で頬を濡らしながら、その腹をそっと撫でた。







永久機関5




殺し愛なんつって


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